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凱旋(後編)

 暗闇に咆哮を轟かせながら、バンデイランテはシャパーダの闇を切り裂いていく。みな一言も声を発しない。少しでも体力を温存しているかのように。

今までで一番大変だった撮影を思い出す。それはアラスカでメンデルホール氷河の氷穴にアタックした時の事だ。

日本にいる時から現地のガイドに体重や体型、トレッキングのスキルを散々きかれ、装備にも注文があった。その為のチームを編成し、装備も全員で確認した。現地ではやはり散々天候に悩まされ、やっとの思いでアタックしたのを覚えている。
円陣を組んで気合いを入れて出陣。
トレッキングルートからレインフォレストに入り込み、山を昇り、崖を降り、アイゼンを付けて氷河の上を歩いた。汗をかくと天然の冷凍庫のような氷穴たどり着いたときに身体が凍りつくことになる。道中の体温調整は難しいが手を抜けない。慎重に確実に歩みを進め、チーム全員ボロボロになりながら青く光る氷のカテドラルにたどり着いたのだった。

あれは、辛かったなあ。もてる力を100%全部出し切って、さらに20%絞りだしたような感じだった。

あのときの体験が今回のアタックを精神的に支えている。

「あれが出来たんだ。」

未舗装路をガタガタとしばらく走り、道がとぎれた薮の前でバンデイランテは止まった。

「ここ?本当に何もないんだ、、」

世界中で数々のトレッキングルートを歩いてきたが、、こんなに始まり感のないスタートポイントは初めてだ。
つまりこれは、パッケージ化されたトレッキングとは全く違う、アドベンチャーだ、、

一呼吸。みんなを集める。とうとう始まるんだ。

円陣を組み、顔を見回して気合いを入れる。

「 いくぜっ!!」

「うおうっ!!」

心臓がバクバクする。アドレナリンが分泌しているのが分かる。かくして最大の作戦は始まった。

前後をガイドに挟まれて霧の立ち込めたフィールドを一列になって進む。

最初は草原に近い平地だったが、すぐに背丈をこえる薮になり、足元も何も見えない。ベタベタする泥の地面を踏みしめながら、ただひたすらガイドを追いかける。
しかしなんでこれで行く方向が分かるんだか、ガイドは動物のようにたまに辺りを確認しながらずんずん進んでいく。

しばらく藪を漕いだあと、急に視界が開け、今度ははどこまでも見渡せる短い草の草原に出た。

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気がつけば夜は明け、薄曇りの空が広がっていた。だだっ広い、只々だだっ広い草原。 先頭を行くガイドに必死に食らいついて歩いていたらパーティーはすっかり二つに分かれ、先頭集団はガイドと僕とコーディネーターのKだけになっていた。
まあ、しんがりにももう一人ガイドがいるし、大丈夫。
草原に出たところで少し待ったら程なく全員集まった。

「どう?」

「なんにも見えませんでしたね」

「大丈夫?」

「全然大丈夫です」

目の前の大草原には道も、道しるべも何もない。少なくとも僕には見えない。それがなぜか嬉しく感じる。

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少しだけ休憩し、水を飲んで、また歩きだした。あまりゆっくりもしていられない。太陽が谷に差し込む前に僕らは彼の地にたどり着かないとならないのだ、急ごう、いやこういう時こそ、

「悠々として急げ!」だ。

今歩いているのはおそらく谷の上の平原で、どこかで遥か下に流れる谷川に降りていく事になるはずだ、その谷川をどんどん上流に昇り、大地の切れ目の内側に辿り着かなければならない。そこにフマシーナの滝がある。

目の前の草原を黙々と、歩く、歩く、歩く。

前を進むガイドの後ろ姿が薄い緑の草原に溶け込み、美しく撮影されたアウトドアメーカーのポスターの様に見えた。
いや、これノイシュバンシュタイン城をみてディズニーランドみたいって言ってるのと同じだな、いかんいかん、こっちが本物だ。今動かしている自分の体を実感するんだ、いまおれは本物の地球の表面にいるんだ。

歩くのが楽しい、だんだんハイになってきたような気がする。
「いくらでも歩いてやる」というこの感覚は気力も体力も充実している証拠だ。

草原に僕らの歩く音と息だけが進んでいく、大空から自分達を俯瞰してその小ささを感じてしまうような、そんな感覚がときおり体を抜けていく。

歩け、歩け、

そうすれば確実に前に進む。


はるか向こうに、木が覆い茂った草原のエッジがみえてきた。

ガイドの足はそちらに向かい、何かを探しているようだ。進行方向左側に続いている茂みを覗き込んでゆっくりすすむ。

程なく足が止まった。
そのタイミングでとりあえず水を飲む。

「休憩しようか」

「そうですね」

「で、ここはなんなの」

ガイドが茂みの中を指差している。
見てみるとそこを起点にちいさな沢が流れていた。

「いつもの休憩ポイントなの?」

ガイド二人とKが何やら話している。
ほどなくこちらを向いて

「ここを降りると言ってます」

「ん?、、、どこを」

「この沢をくだるっぽいです、間に合うルートはこれだそうです」

「まぢで!!?、そうなんだ、、沢へづりか、、俺は得意だけど、、大丈夫かなあ」

しかし、ここを通らないと間に合わないんじゃしょうがない。覗き込んで良く見てみると所々苔の生えたゴツゴツした岩壁が下の方まで続いていて、そこにシャラシャラと水が流れている。 

沢というより、、角度的には滝に近い。

みんなを集めて装備、機材の防水パッキングをもう一度確認、安全第一で行く為の作戦をたてる。

僕とガイドが先行して、足場を教えながら下る。そして荷物を受け取りながら一人づつ崖をくだる、絶対に無理をせずにガイドの指示に従うこと。出来ないと思う事はやらない事。

立てられる作戦はそのぐらいしか無かった。

このレベルの沢下りだと、ほとんどの場合はハーネスをつけてロープを使いながら降りる。そうなっていればルートも決まっているし、ハーネスの使い方などを確認したりといった安全確認をするのだが、、

僕らの装備はせいぜいアウトドアウェアを着てゴアテックスのアウトドアブーツを履いているぐらいだった。普段なら十分なのだが崖を下るには、、
防水の滑らない靴、、それだけが頼り。

俺は、、またみんなの命を預かってしまった。

みんなの顔を見る。やめようとは言えない力強い眼差し。もう、強気に出るしかない。自分ももう一度腹をくくる。

ガイドが足場を僕に教えながら最初に降りていく。それをしっかりトレースし、足の裏の感覚、体重の掛け方、体の向きなど、なるべく多くの情報を後に続くメンバーに伝える。
5メートル下るのに大騒ぎだ。 

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「そこ。ちょっとずれると滑るから絶対位置はずさないで!」

「そこ、水の中の方がグリップがいいから足突っ込んで、脇の苔はズルっといくからだめだ」

「反対むいて、手をかける位置はここと、そこ。え、届かない?、まぢか、下で支えるから足下ろして」

といった感じで声を張り上げながらゆっくりゆっくりおりていく。

5m下ると少しだけ下が見えた。

その先にも、まったく同じような光景が続いていた。。これ、、どこまで続くんだ?、、

先に進んで、下から降りてきた崖を見上げる。 

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大変ではあるのだが、
必死になってついてくるチームのみんなを見ていると誇らし気持ちになってくる。嬉しいのはみんな楽しそうにチャレンジしている事、もちろん真剣だが、一つ一つ乗り切った時の表情がいい。

崖は段々になっていて、難所と緩所が交互に訪れる。三つ目の難所の途中で先陣をきっていたガイドが不思議な行動にでた。
いきなり靴を脱ぎ始め、岩場にあいている小さな穴にそれを詰め込んだ。

「え、なに。どういう事?」

穴の奥に靴をぎゅうぎゅう押し込めて、上から草で覆い隠している。
まるで獲物を隠す動物のようだ、、

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このツルツルゴツゴツの沢下りの
途中で、彼は裸足なわけである。
つまるところ、その方が楽なんだそうだ。普通のルートなら靴のままだが、ここからは裸足の方がよいと、、、、

「帰りに取りに来るそうです」とK

「はああ、そうなの?。まあ、とりあえずわかった」

まあ、地球を相手にしてるレベルがちがうね、彼ら。と無理やり納得する事にした。

ふっと今いる環境を意識する。
ジャングルの緑を透過して届く光が綺麗だ、見上げると逆光に水しぶきが光る。
その中を僕らのチームは進んでいく。

あたりには日本だと結構な値段のつきそうな立派なエアプランツが所々にぶら下がっている。
野生のはこんな風に生息してるんだなあ、、と妙に感心してしまった。

意識を集中し、声をかけ、岩を掴み、足を沢に突っ込みながら、アドベンチャーを楽しむ。命綱の無い真剣勝負、気を抜けない。それがいい。本能的にはこれを求めていた、本物の地球体験だ。

幾つの難所を超えただろうか、足の運びにも慣れ、淡々と降りて来れるようになったところで谷川の音が聴こえてきた。

安全な場所で少し休憩もしたい。
どれくらい降りてきたのかと聞いてみたら200m降りてきたらしい。。
200mの崖があるとか、最初に言ってよと思ったが、それを聞いていたらアタックしていなかったかもしれない。
いやしかし、みんな無事でよかった。。靴を穴にしまった彼には悪いけど、疲労の蓄積している帰路にはこのルート使わないからね。と、一人こころに決める。

川幅は30mぐらいだろうか。
ここも赤い水をたたえている。
当然のことながらこの先も道はない。ひたすらガイドの進む後を追いかけていく。分かっていることはこの川を上流に遡っていけば、彼の地にたどり着けると言う事だけだ。

しばらく川沿いのジャングルを歩き、今度は河原の石、というか岩の上をぴょんぴょん飛びながら進むルートになった。

一歩一歩に集中し、リズムよく進むのだがこういうルートは物凄く頭を使う。
前方、次の一歩!
岩の大きさ、位置、角度、石の表面から想像する滑りやすさ、対する靴のグリップ、自分の足の筋力、今の体力、荷物の重さ、それを加味した自重、その次の一歩のための体重移動、それを猛烈な勢いで頭で計算し一歩一歩にフィードバックする。

足よりも頭が熱くなる。今までの経験、丹沢で育ったプライド、沢歩きはおれの領分だ。計算スピードをマキシマムにする。頭からも汗が噴き出す。

楽しい、地球と対話しているようだ。足の運びが完全に岩場とシンクロする。

嬉々として飛び回っていると、だいぶ後ろを離してしまっていた。
今度は自分の真後ろにTTだけが付いてきていた。飛行機には乗り遅れたがここではしっかり付いてきている。

そうだこいつはもと体操の選手だった、本気を出したら俺なんか足元にも及ばない身体能力をもっている。
頼もしい奴だ。お互いに目をみあわせる。ギラギラとした視線が交差する。

飛車角は慎重に慎重にあとをついてくる。これはこれで頼もしい。

岩場を登り、山肌を駆けずり、時には靴を脱ぎ川を歩いて渡った。シチュエーションは次々と変わり、それは延々と、延々と、延々と続いた。

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きつい、壮絶さはあのアラスカでの経験をとっくに超えていた。
みんなでたどり着きたい、秘境を撮影したいという思いがなんとか身体を動かす。

6時間ほど歩いただろうか、谷が狭まり、目的地に近いことを告げる。少し進むと谷の奥に滝の一部が小さく見えた。

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「とうとう、とうとう来たか。」

疲労と感激と期待と不安がごちゃ混ぜになった感情が湧き上がる。

しかし、当たったのは不安だった。

そこから先、足場がないのだ。

先に進むルートが見えない。機材があるので泳いで行くわけにも行かない。
呆然とした、

「ここまで来て、、」

目の前を真っ赤な濁流が流れ、正面に見えている滝までのルートを阻んでいる。

いや、諦めるな、なにか手があるはずだ。まずは呼吸を整えて、チームを待つ。

全員集まった所で現状を把握。
目の前は川、左右は切り立った岩。
行きたいのは滝の目の前、滝の真下には足場になる岩場が見えている。

ガイドが周りを見渡しながらたどり着けるルートを探しに行った。それに荷物を置いてKが続く。二人は岩陰に消えて行った。

水量の変化で毎回ルートが違うのだ、しかもこの最後のアプローチは泳ぐことが多いという。機材を抱えた僕らにその選択肢は無い。

安全を考えたら撤退。その勇気も必要。最後まで諦めずに方法を見つける事。それも必要。
ガイドがルートを見つけられなければ撤退、見つかればチャレンジだ。

天を仰ぐ。

「俺は、ここで、帰りたく無い。」

じっと滝の下の陸地を見ていると、何か動いた。

「ん、あ、ああ!」

Kの姿が見えた、大きく手を振っている

「なぐもさーん、いけまーす!!」

「おーっ!!!やったか!!」

切れかけていたアドレナリンが再度ふきだす。

どうやら壁のようになっている水面ギリギリの岩にほんの少しだけ足場があり、岩にしがみつきながらカニみたいに横歩きでいけばたどり着くという。

一度戻ってきたガイドとKに案内されその岩壁にアタックする。

落ちてもそれ程深く無い川なのでまあ危ない感じではないが、、足場は靴の1/3ぐらいの幅しか無い。。
その岩壁を5m程進むルートだ。
しかもところどころ岩がせり出してオーバーハングになっている。

「いや、しかし、、荷物無しとはいえ、良く行ったね、、(^◇^;) 」

だがもうチャレンジするしかない。これを越えれば今までの全てが報われる。

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指先に力を込めて、足先と共に全神経を集中し岩場を横に這う。こういう時はビビるのが一番良くない。
チームで一番歳上の俺がやり遂げればみんな自分だってと思って奮起するはずだ。先陣をきってすすむ。

「よっしゃ、見てろ」

ザックの重さが岩壁のオーバーハングを伝えてくる。
必死にしがみつき、右に、右に、右に。。顔を岩に擦り付けるように進む。足も手もプルプルと震える、止まったら落ちる、いけ、もう少し。

足場が広がった。そこを踏みしめる。

「!!っしゃあーっ!!」

僕らは全員で、
とうとう目的の地にだどりついた。

もう目の前に進む空間はない。
立ちはだかる巨大な岩盤の亀裂。谷が始まる所。
左右から岩盤が狭まり、鍵穴のようにラウンドして目の前で合わさる。その高さ280m。さっき降りた200mの崖とは比べものにならない荒々しい表情の岩壁に囲まれた空間だ。


地底にでも来てしまったかの様に光は上からしか入って来ない。足元には無数の流れが黒い蛇のようにうねる。

その巨大な岩壁に呆然と立ち尽くす僕らの目の前に、余りにも大きく真っ白な龍神が爆音とともに降臨していた。

天空から地底に流れ込む巨大な滝

「これが、フマシーナの滝、」

こんな、こんなもの見た事がない。神がかっている。自分が小人になってしまったかのようなスケール感。
現実とは思えない凄まじい光景。

疲労感が達成感に変わる。そしてそれを緊張感へと変えていく。

光が差し込んできた。
岩肌に刻まれたむき出しの地層がディテールを露わにする。それがこの奇跡の絶景を作り上げた気の遠くなるような時間を物語る。

これを、このとんでもない雰囲気を、撮影で伝えられるんだろうか、、

いや、やるんだ。俺は、俺たちは
コイツをものにする為に来た。

「立ち向かえ!撮るぞ」

チーム全員に指示をだす。この光をものにする。

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レンズを超広角ズームに換装し、龍神の真正面にカメラを構える。ドンピシャのアングル!全神経を集中し、シャッターに魂を乗せる。

龍神の放つ爆音でシャッター音はかき消され、全く聞こえない。僅かに手に伝わるシャッターの振動から撮影のフィーリングを得る。
無心でカメラとシンクロする。

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なんども、なんども、魂を込めて、カメラと自分のトリガーを引いた。
左目から涙が流れる。

秘境、フマシーナの滝は僕のカメラに吸い込まれ、僕のビジュアルになっていった。

この奇跡の空間を、全て表現する事は出来ない。
僕ができる事は、プロフェショナルのフォトグラファーとして最高のビジュアルを記録することだけだ。

それではまったく足りないかもしれない。でも、僕ができる事はやり切ったと思った。

ボロボロな体が幸せに包まれていった。

ーーーーーーーーーー

帰路は例の崖ルートをやめたお陰で倍近い距離を歩くことになった、
まあしかし、安全には変えられない。ガイドの言う「後5分で到着だよ、もう少し、頑張って」を、10回以上繰り返して僕らは無事バンデイランテの待つ合流ポイントにたどり着いた。

ドライバーが、帰ってきた僕をハグし、「やったな」と一言。
目の前が滲んだ。


こうして最大のミッションを無事クリアする事ができたのは本当に幸運だった。

そうだ、もう一つ幸運な出来事があった。
全く役に立たないドローンをまたしても墜落させ、とうとう飛行不能状態になった巨漢二人の代わりに、現地でパラグライダーのチームをスカウトする事に成功した。
彼らに言わせると
「俺たちはこの辺で最高のチーム」なんだそうだ。
二人乗りのエンジン付きパラグライダーを持っており、お前が後ろに乗って撮影すれば良いと提案してきた。
なかなかいい話だ。
とりあえずどんな風に飛べるのか見ることになった。そのテストフライトで後ろに乗れと言われたが、とりあえず下から観察する事にして彼らのフライトを見守った。

悠々とシャパーダの空を飛んでいくパラグライダー、あれならテーブルマウンテンのダイナミックなビジュアルが撮れそうだ、と見ているとかなり低い位置に戻ってきて、こちらに来るのかと思ったら目の前の森の中に墜落してしまった。

「ズザー、バキバキバキと、音が聞こえた」

おいおい、おれ乗ってたらああなってたのか!?

本当に乗らなくて良かった。運が良かった。。

パロットは折れたプロペラと一緒に救出というか半分自力で森からはい出てきて、顔をすり傷だらけにしながら親指をたててこう言った

「大丈夫。プロペラはもう一つ持ってる」

そういう問題では無い(^^)

忘れてはいけない。
ここは我が愛すべき第二の故郷ブラジルなのだ。

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サンパウロに戻ると腐れ縁のMと合流した。相変わらず手回しがよく、サッカーファン垂涎のカフェや日本人が経営する居酒屋に連れて行ってくれた。激戦のあとだけに本当に癒された。

そして、翌日
凱旋の時はきたれり。

チームは僕とM、そしてKの母校サンパウロ日本人学校に向かった。

今日、僕はこの地球の反対側にある母校で後輩達に講演をする。
冒頭で言ったそれを実現させた「切り札」というのはこれだ

写真集
「BRASIL -Akihiko Nagumo-」
全国カタログポスター展グランプリ
経済産業大臣賞を受賞

前回までの二回のブラジルロケで撮影した写真集で奇跡の絶景ルナレインボーの画像も使っている。

サ日学の卒業生がプロのフォトグラファーになり、幼い頃育ったブラジルを撮影し写真集を作った。それが大きな賞を頂いた。
どうやってフォトグラファーになったのか、世界中を駆け巡るフォトグラファーの仕事ってどんなものなのか
その写真集をみんなに見せて、そういう話を後輩にしたい。と学校に手紙を書いたのである。

流石に興味深い話だと思ってもらえたようで、オファーは受け入れられた、と言う訳だ。

日本人学校につくと、先ずは懐かしい校舎を見て回った。12万平方キロメートルという広大な敷地面積をもつカンポリンポの丘に、各学年ごとの校舎が点在して建てられている。世界の日本人学校では最大級、すくなくとも児童/生徒1人当たりの敷地面積は日本の学校として最大である。
敷地内に森やコーヒー園まであるのだからその広さは想像に難く無いだろう。

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ここは4年生の時だな、こっちは6年生だ、とMと共に嬉々として歩き回る。学校を訪れたのは2度目なのだが同級生と一緒となると盛り上がり方が全然違う。
有名な歌の歌詞をかりるならば、

ここに来れて本当に良かった
嬉しくて、嬉しくて、
言葉にならない。

体育館でやっているサンバ体験イベントをチラ見して、誰もいない校庭に降りた。

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ここは前回入る事が出来なかったので物凄く楽しみにしていた場所だ、

気持ちが抑えられない。
気がついたら、校庭に設置されたサッカーのゴールに向かって走りだしていた、「決めろ!」脚を思いっきり振り抜き、エアゴールを決めた。「ゴール!喜べ!」とMの声、笑顔で両手を広げて走ってくる。ちょっと恥ずかしかったが、こちらもそれに答えた。

徒競走で走ったコースを走ったり、森の中に入ったり、すっかり心は少年時代に戻っていた。

講演の時間が、近づいてきた。

丘の一番上にある中学部の校舎に上がり準備を進める。
なんと講演場所は、僕とMが同じクラスだった1-1の教室を少し広めに改築した場所だった。

「ここで、俺たち授業受けたんだなあ、」
「ああ、こりゃ運命だ」

生徒達が入ってきた。
話す前から、胸がいっぱいになる。
僕らの時代よりは大分人数が少ないが、イメージが重なる。

あの子は
背が高くて目がきれいだ
Kちゃんににてるな、

この子は
しっかりと堂々としているMみたいだ。

この子は
すこし斜に構えて、俺みたいかな

込み上げてくるものを、抑え。生徒達に向かう。

Mが教室の隅で見守っている。

「みなさん、はじめまして。僕も君たちと同じこの学校でそだちました。今日はここに立てて、後輩である皆んなに会う事ができて、本当に、本当に嬉しいです。」


ブラジルで育ち、ブラジルの写真集で勝利を納め、シャパーダでの撮影に成功した僕の凱旋講演はこうして成し遂げられた。

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嬉しくて、嬉しくて、言葉にならない。

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講演が終わって、担当の先生に一つだけお願いをした。中二で帰国してしまった僕は卒業記念でもらえるはずだった校章のキーホルダーを持っていなかった。

「それをひとつ、記念に頂けませんか」

「わかりました、生徒達がこの講演の感想を一人一人書きます。纏めて南雲さんに送りますのでそれと一緒に送らせて頂きます」

一月ほどたって、大きな封筒に入った皆んなの手書きの感想と、キーホルダーが送られて来た。

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一人一人の感想を読んで、僕の言葉が生徒の胸の中に種として残ってくれたのを感じた。
心が熱くなり、涙がこぼれた。たまらなく、嬉しかった。

小学校3年生のときにサンパウロにいってから今までのこと全てが思い出された。
がむしゃらにやって来た事が、ひとつ身を結んだんだとおもう。

いま、
サンパウロ日本人学校の廊下にはあの講演のときに持っていった僕の個展、「BRASIL」のポスターが貼ってある。それが僕には凱旋旗のように思えるのだ。


凱旋 完


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