NoCode(ノーコード)のこれまで、これから、真の可能性とは
この記事は、No-Code - Unleashing Creativity on the Internetの翻訳記事です。
私が考えるNoCodeの可能性に一番近く、かつそれ以上の洞察が的確に言語化されているこの記事をぜひ読んでいただきたいと思い、フランス・パリの投資家Alexandre Dewez氏本人に許可をいただき、翻訳しています。
(一部日本向けに意訳改変しています)
自分にもっと技術的なスキルあれば、あんなサービスやこんなサービスを作ることができるのに、と誰しも一度は思ったことがあると思います。
そこで登場したのが、ノーコードというツールたち。
このグラフの通り、まだまだバズワード感が否めませんが、需要はもう爆発寸前。提供サービスは準備万端。来るべくしてきたトレンドなのです。
ノーコードは確かに流行っていますが、範囲が不明確ですよね。
なんでもノーコードになってしまいそうですし、Excelなどすでに有名な製品はノーコードの位置づけから外れている感じもします。
そのとおり、ノーコードは特定の製品やサービスを説明するものではなく、多くの課題を解決するアイデアの総称に近いです。
その中でも、ノーコードはインターネット上で人々の創造性を解き放つ、と私は考えています。
インターネットで情報を収集し、誰しもが学ぶことができる世界の実現が第一波だとすると、ノーコードは第二波。
誰しもがサービスを開発し、抱える課題の解決策を見つけることができる世界の実現です。
ノーコードツールマップ
Part1 : 定義と歴史
ノーコードとは、コードを書かずに画面操作でWebアプリを開発するためのプログラミング手法のことです。
マウス操作で部品を移動させながら、プログラムを組むことができる方法です。
ノーコードでWebサイトを作成するwebflowの紹介動画(英語)
世界のほぼ全ての人たちがインターネットの情報を消費する一方で、作る側にまわる人たちは長い間限定されていました。
世界には、2500万人のプログラマーがいますが、総人口でいうとわずか0.3%です。
インターネットは、作り手と使い手の線引きを曖昧にしましたが、ノーコードはどの使い手も作り手になることができる可能性を秘めています。
そして実はその世界はすでに実現しています。
例えば、Spotifyを使えば誰でも曲を録音して公開できますし、noteを使えば誰でも記事を書いて公開できます。TikTokやYouTubeなら動画を撮って公開できます。
誰でも開発者でなくても、Webサービスが作ることができます。
ノーコードは新しいものでありません。インターネットが生まれてから既にあった概念です。
例えば、1997年に販売された、DreamweaverやMicrosoft FrontPageは初めての「編集したまま表示される(WYSIWYG)」製品です。
ただし、ノーコード最新世代の製品がこれまでと違うのは、より高機能で、かつ他の製品と相互接続しやすいということです。
ノーコードは90年代に台頭しており、新しい概念ではない。しかし、高機能にはなってきている。
Part2 : なぜノーコードがブームなのか
1.製品と時代感覚の一致(product zeitgeist fit)
ノーコードがいまブームになっている理由は、インターネットのエコシステム(サービス全体)が、ノーコードサービスを開発するのに十分な環境を整えたからだと言えます。
・開発者自身が長い間、開発時間の削減に力を注いでいる
・クラウド事業者が、サービスリリースの面倒臭さの低減に力を注いでいる
・ノーコード第一波のときに、インターネットサービスの弱点を補完するサービスが出てきた(Typeformはフォーム管理、Mailchimpはメール管理、Stripeは決済管理)。また彼らがサービス接続のためのAPIを公開することで、いまのノーコードが活用できる
2.世界全体の開発者不足を解決する素晴らしいアイデア
ヨーロッパでは、50万人から100万人のエンジニアが足りない状況です。
そのため、エンジニア獲得競争が熾烈になり、給料が急上昇しているので、企業は開発チームの採用に苦慮しています。
エンジニアを供給するため、たくさんのプログラミングスクールが世界中でオープンしていますが、それでも足りていません。
さらに、技術トレンドは教育コンテンツよりも早く変化します。
いまはスマホアプリ開発やゲーム開発、データサイエンスや機械学習に関するコンピュータサイエンスのスキルが求められています。
ノーコードは、人材不足と企業ニーズのギャップを埋めるための、最適なツールなのです。
3.開発手法の変化
アジャイル開発が開発手法として浸透し、主要となってきたこと。およびリリース間隔を短縮し、ユーザーからの意見を早く取り込み、それを機能として早く実装する流れができています。
ノーコードはこの開発手法を忠実に実現できます。
4.全社員がアプリ開発者となる
企業内においては、外部のデザイナーやエンジニアに頼らずに、ノーコードツールを利用して社内向け社外向けのツールを構築するようになっていきます。
5.新規ビジネスの参入障壁がこれまでになく低い
精神面、教育面、資金サポートどれをとっても、これまでと比べて、事業立ち上げが容易になっています。
ノーコードは開発技術の専門性という、スタートアップにとって一番むずかしい障壁を取り去るものになるのです。
Part3 : 誰が何のためにノーコードを使うのか
個人が使う場合
スキルの証明は経歴書ではなく成果物で
ノーコードを活用して、自分のスキルで産み出した成果物をより簡単にインターネットに公開しておくことができます。
副業をする
多くの方が副業をし始めています。自分の余暇を活用して新しいスキルを身につけたり、起業アイデアの開発だったり、日常の決まった仕事ではない意義のある時間の使い方をしたい、など理由は様々。
ノーコードは副業に最適なツールです。
フランスのノーコードスクール「Contournement」では、副業希望者向けのコースも始まっています。
個人のWebサイト
SNS離れが徐々に進む中で、自分のWebサイトを持つことはイケてるというイメージが拡大しています。
SNSやブログサービスに記事を書くよりも、変更修正がしやすく独立した運営ができること個人Webサイトのメリットです。
フリーランスが使う場合
稼げるスキルを広げる
例えば、ノーコードツールがあれば、デザイナーはコーダーに発注することなく、自分でWebサイトを顧客に納品することが実現可能です。
納品までの期間工数を削減する
例えば、あなたがプログラマーであれば、これまでやっていたことの一部をノーコードに任せることができます。
それにより、より価値の高いタスクに時間を割くことができます。
起業家やスタートアップ企業が使う場合
リリースまでの期間を削減する
リリースまでの期間を早めることで、競争相手よりも早く製品を提供し、より高速にサービスを改善することができます。
すべてにおいて早い
スタートアップは、traction(顧客を獲得し成長を生む)とProduct Market Fit(製品が顧客需要と一致する)を早く得ることが至上命題です。
製品開発に多額のお金を投資するわけにはいきません。
42%のスタートアップは、顧客需要を見つけられる失敗すると言われています。
ノーコードで早く安くサービスを提供し、早い段階で顧客需要を掴むことが有効な手立てになります。
グロースチームこそノーコードを活用すべき
グロースチームとは、製品の普及拡大のために一定期間のうちに多数の様々な施策をテストし、検証していくスタートアップの中のチームのことです。
ノーコードツールは、仮説やアイデアを高速で実装し、検証するのに最適なツールです。
中小企業が使う場合
技術力や人材不足のギャップを埋める
中小企業がノーコードを活用するメリットはなかなか思いつかないかもしれません。
しかし、中小企業が抱える「人材不足」という課題をノーコードで補うことが可能です。
エンジニアではない社員がアプリ開発を行い、人手に頼っていた業務を自動化することも可能だからです。
大手サービスに頼らない経営へのシフト
Shopifyが世界で最初のオンラインショップ構築サービスによって、楽天やAmazonのような大手サービスではなく、独立した商品販売が可能になりました。
この潮流はいまや小売だけのものではありません。
多くの中小企業が大手のプラットフォームから手を引き始めています。
飲食店などは、あまり期待した効果がない、UberEatsへ払う多額の手数料を嫌い、自社サイトを充実させて独立しようとしています。
フレンチレストランのCojeanは最近、プラットフォームからの独立を果たし、Flipdishというサービスを使って、自社でオーダーアプリを導入しました。
大企業が使う場合
IT部門の負荷を軽減し、各部門に権限を委譲する
社内エンジニアは日々社内から集まる要望の多さに辟易している一方で、他の部門は自部門の要望を通そうと、他部門と調整することに辟易しています。
Getaroundというアメリカのカーシェア会社では、Webflowというノーコードツールを活用し、サービスのWebサイトを全て刷新しました。
これによりマーケティング部門は、IT部門にお伺いを立てなくても自分たちでサイトを瞬時に更新できるようになり、部門の機敏性が向上しました。
これを実現するためには、会社が市民開発者(誰でもノーコードツールで開発できる)の育成を後押ししなければなりません。
限られた予算でデジタルトランスフォーメーションを加速させる
自社のサービスをデジタル化するというイノベーションは、今後ビジネスで勝ち抜くには必要な能力になります。
企業は、低予算でうまくやりくりしなければならず、一方で妥協しないイノベーションを実現するためには、ノーコードツールは確実な選択肢です。
組織を機敏に動かす
大企業は往々にして、システム導入時点で多くの複雑な要望があるため、ノーコードツールはそれらの大企業ニーズには合わないと言われることがあります。
大企業というと、大所帯で動きが遅いというイメージがありますが、そのような大企業はだんだん減ってきていて、実は機敏性を得て仮説検証を早く回す事が多いです。
そういう意味では、ノーコードツールは完璧にフィットするソリューションとなります。
たとえ大企業の複雑な仕様だとしても、エンジニアでない方が、MVPや社内のダッシュボード作りだったり、業務自動化システムを構築することが可能です。
Part4 : マーケットは拡大するのか
残念ながら現在のマーケット規模を算出したり、今後のマーケット拡大を予測するような研究結果はありません。
しかし、いくつかのデータにより、今後マーケットが大きく拡大し、ZapierやAirTableのような数千億円を超える企業価値のノーコードカンパニーが出てくる確信が得られています。
2024年までに、75%の会社は少なくとも4つのノーコードツールを使用します。
2024年までに、65%のシステムがローコードまたはノーコードで開発される。
2008年に約8千億円だったノーコード市場が、2023年には約4兆6千億円に拡大する予測です。
2019年米国では、約5億2900万円がノーコード・ローコードスタートアップに投資されています。5年前の5倍です。
さらに、GAFAMはすでにノーコードスタートアップを買収する軍資金を広げ始めています。
例えば、Googleは、企業向けの社内共有モバイルアプリ「AppSheet」を2020年に買収しました。
一方で、Microsoftは、Lobeを2018年9月に買収しました。
Lobeはまだβ版ですが、簡単なビジュアル操作で、深層学習モデルを学習・構築できるツールです。
巨大テック企業は、自身でもノーコード製品を開発しています。
Uberは2019年2月に、Ludwigという深層学習のノーコードツールを公開しました。
Googleは2019年1月に、Game Builderというゲーム作成サービスのプロトタイプ版を公開しました。
Part5 : ノーコードに見る興味深い変化
インターネットサービスの作り手として全員が参加できる
インターネットの恩恵により、世界中のものが自動化され、知識重視となり、シェアリングエコノミーが進みます。
一方で、創造性こそ人間最後の未開拓能力の領域になります。
プロダクト開発のうち、デザインが最重要視される時代になる
モックアップ(製品のラフデザイン)を作るより、更に進化したデザインプラットフォームの開発ニーズが高まっています。
本当によいサービスが出現すれば、これまで問題となっていたデザイナーとエンジニアとの摩擦が解消されるでしょう。
ノーコードによりエンジニアが不要になることはない
ノーコードをリードしていくのは、オープンかつエンジニア駆動型の企業になると思います。
ノーコードにカスタマイズ(アドオン)を行い、より使いやすいサービスにするために、エンジニアがこれまでより遥かに重要になる
ノーコードツールは、ブラックボックスであってはいけません。カスタマイズやチェックを行うため、ソースコードは公開されているべきです。
またノーコードツール間の連携機能は、エンジニアが必要な部分です。
ノーコードは、より細分化された業種や業務に特化されていく
Shopifyがいい事例ですが、小売販売者にとってShopifyは最高のノーコードツールです。
BubbleやUnqorkなどの汎用ツールは、特定業種の中小企業の特定のニーズにそぐわない場合があります。
特定業種で必要なニーズをすべて実装することで、業種特化型のノーコードはよりパワフルなサービスになります。
Flipdishは飲食店向けの業種特化型ノーコードツールです。
Flipdishを使えば、Webサイトやスマホアプリが使えてサービスをオンライン化できるだけでなく、業種で共通する機能、例えば、注文システムやポイントシステム、顧客管理システムも使用することができます。
UberEatsなどのマッチングサービスで中間マージンを取られたり、オフラインで他の飲食店と厳しい競争をすることなく、飲食店を運営することができるようになります。
学習曲線がプログラミング学習よりも緩やか(ただし学習は必要)
これまでのツールと比較して、新世代のノーコードツールは、アプリを作るためのハードルがより低くなっています。
例えば、Open As Appというサービスがありますが、これはExcelシートからスマホアプリを直接作ることができるもので、アプリ開発に必要なスキルと時間を大幅に削減できます。
Part6 : ノーコードスタートアップマップ
ツールの多様性と業界全体の成熟度合いを示すため、おおまかなノーコード企業のマップを作成しました。
ノーコードは、Webアプリ開発ツールからスタートしました。
個人や企業が様々なツールを活用して、WebサイトやWebアプリを作成できるようになりました。
ノーコード技術スタックで独占的な位置づけにいるのが、フロントエンドを開発するWebflow、自動化を進めるZapier、データベースのAirtableです。(下図左)(会員管理や決済管理のMemberstackもあります)
この整理は、プログラミングにおけるWebアプリ開発の技術スタックの整理に近く、とてもわかりやすいと思います。
複数のツールが複雑に構成されるノーコードツールが難しく感じる場合は、BubbleやUnqorkのようなオールインワンのツールもあります。(下図中央)
オールインワンの場合、学習曲線が他と比べて急カーブになります(時間がかかる)が、かなり柔軟性が高く、可能性は無限大です。
最後は、特定の業種や業務に特化したツールです(下図右)。
特化型ツールは、各業種で必要な業務に合わせてサービスや機能が実装されているため、設定や利用が簡単で導入がスピーディーに行なえます。
エンジニアの仕事がWebに限定されないのと同様、ノーコードもWeb以外にも活用できます。
スマートフォンの浸透により、スマホアプリを開発できるツールがここ数年盛り上がりを見せています。
この領域は、AdaloやGlide、GoogleのAppSheetなど、プレイヤー過多になってきています。
興味深いのが、これらのツールは最近スタートしたということです(AdaloとGlideは2018年創業)。
それにも関わらず、とてもよいツールですし、広く認知されています。
WebflowやBubbleなどのWebサイト構築ツールは、長い下積み期間があり(両者とも2012年創業で最近認知されてきた)ましたが、ノーコード全体の認知が拡大することで、広まることとなりました。
その他のサービスは、特定のアプローチを取って拡大しています。
Blavo(スマホアプリのデザインツール)はデザイナーをターゲットにしています。
Open As Appは、大企業のビジネス組織向け、Mendix(業務システム開発ツール)は、工業向けにサービスを提供しています。
Part7 : 新しい技術トレンド
ノーコードは、Webやスマホアプリだけではなく、以下のような技術トレンドにも追従しています。
AIとデータサイエンス
多くの企業において最優先事項であるこの領域ですが、リソース不足であることが多いです。
この領域のスタートアップとしては、性能の良いAIエンジンを、特定の業務に焦点をあてて活用している、Accernというスタートアップ(ツール)があります。
このツールは、銀行や保険会社に提供され、与信リスクや詐欺行為の検知に活用されています。
一方で、Obviously.aiのような、業界関係なく必要とされるデータ予測をシンプルな操作で提供するスタートアップ(ツール)もあります。
これらのツールは、複雑な設定なしにAI技術のメリットを享受したいノーコーダーたちにとって、大きな可能性を切り拓きます。
ゲーム
ゲーム分野のノーコードツールは、まだ黎明期です。
ゲームはWeb開発と比較して、開発工程が複雑(3Dデザイン、シナリオ、動き、処理条件など)なため、安定したツールが出るにはまだ時間を要します。
Googleはこの領域で顕著な動きを見せており、Game Builder(未公開)というサービスの開発をすでに宣言しています。
声
Amazon EchoやGoogle Homeのようなホームアシスタント機能が浸透してきているため、Voiceflowのような声のノーコードツールも増加しています。
これはノーコード市場の変化をよく表しています。
ある特定のエリアをリードするサービス(今回の例だと声を使ったサービス)が浸透してくると、周辺サービスの開発ニーズが高まり、そこへノーコードツールがリリースされ、開発をサポートしていく、という流れです。
Part8 : ノーコードサービスの生態系
ノーコードの市場が拡大するには、2つの大きなプレイヤーたちの存在が必要です。
バックエンドサービス
データベースとサービス間接続ツールは、複雑なサービスを構築する上で欠かせないノーコードツールです。
例えば、サイト上の情報を自動で更新する機能をつくる場合、Airtableでデータを保存し、ZapierでWebサイトの表示データを更新する必要があります。
ノーコーダーたち
人はノーコードツールではないですが、ノーコードの発展に必要な存在です。
Makerpadという学習サービスは、行けばわかる学習コンテンツで、新しいツールを発見したり、チュートリアル動画を見たり、プロジェクト刺激を受けたり、メンバーとチャットしたりできます。
Makerpadは、月商500万円に到達しました。このニュースは、ノーコードを学ぶ人たち向けのサービスが出てくる余地がまだまだあることを示しています。
最後に
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