見出し画像

アリストテレスの時代のオプションとは

▽先日、「プラトンやアリストテレスが恐れたこと」というタイトルの記事の中で、アリストテレスはデリバティブを知らなかったかもしれない、と記載しました。ところが、すでに当時からオプション取引の原型は存在していた、というお話です。勉強不足でごめんなさい。以下、板谷敏彦著「金融の世界史」からの引用です。

▽ギリシャ人のタレスは、アリストテレス(前384~322年)によって、世界初の哲学者として紹介された人物です。彼はある年のオリーブの作柄を豊作と予想して、手付金を払って村中のオリーブの搾油機の使用権を予約しておきました。収穫の時期が来ると果たしてタレスの予測は的中し、オリーブは豊作となります。収穫された豊作のオリーブから油を搾るために、搾油機は農民の間で引っ張りだことなり、使用権を独占していたタレスはめでたく大儲けしたというストーリーです。
☝引用 板谷敏彦著「金融の世界史」44項(新潮選書)

▽これは搾油機の持ち主とタレスとの間に契約された、搾油機の使用権にかかるコールオプション取引ということになります。タレスは事前予約した時に手付金を支払い、コールオプションを買ったことになります。売り手は搾油機の持ち主で、収穫時にタレスがオプションを行使した場合、予め決めた値段で搾油機を貸さなければなりません。また仮にオリーブが不作だった場合、タレスは権利行使しなければ、手付金を放棄するのみで、搾油機を借りる必要はありません。この場合の売る側のメリットは、豊作の際に大儲けはできないものの一定の使用料は見込めるのと、不作だった場合でも手付金は確保できるという点になります。

▽前述の著者である板谷敏彦さんによれば、「手付金を支払うような取引は、みなオプション性がある」ということのようです。更に板谷さんは、ジリアン・テット著「愚者の黄金」の中で、「原始的な先物やオプション契約の例は、紀元前1750年のメソポタミアの粘土板にも見出せる」という記載があることも紹介されています。

▽さて、このような事例にぶつかると、今から2000年前であろうが4000年前であろうが、人間の考えることは大差ないんだなぁ、と感じてしまいます。手付金だろうが、金融デリバティブだろうが、事の本質は同じです。同じ人間が考えているのだから当たり前といえばそれまでですが。しかし一方でランプや馬を使っていた時代から、電気や飛行機の時代に変わっている。同じ人間が暮らしているのに、この違いはなんだろうか。と考えると、人間そのものは同じでも、2000年かけて積み上げた発見や技術のストックという土台がまるで違う、ということに気づきます。

▽私たちが、今現在当たり前のようにできてしまうこと、あるいは感じていること、例えば物理的な技術や、人種・性差にかかわらず人はみな平等であるという意識は、すべて先人たちの気づきや疑問の中から、長い歳月をかけて積みあがったもの、ということなのです。それらがあまりに大きすぎて、私は自分の生きている時代の価値に、まるで気付かずに毎日を過ごしてしまうのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?