🅂6 安全資産のリスクとは

「A little dough」 第５章　貯蓄と投資　🅂6 安全資産のリスクとは

　一般に貯蓄と様々な投資の大きな違いは「リスク」の度合いにあるといわれています。しかし安全資産といわれる貯蓄（銀行預金）といっても私たちはその殆どを「円」という通貨で行いますから、私たちの意識がどうあれ通貨自体が持つ様々なリスクはついて回ることになります。
　ロシアのウクライナ侵攻後、米国ではインフレ→金利高→ドル高が基調となり、結果「円」は大幅に下落し私たちの貯蓄はドル換算では驚くほど目減りしています。数年前まで百万円で１万ドルほど買えたものが、今では6千7百ドルしか買えないのです。それでもPPP（購買力平価、※下記参照）でみれば現在が異常値だと考えることもできますが、今の日本では円安環境であっても輸出超過による大幅な貿易黒字を見込むことは難しくなっています。結果的には、むしろ現在の為替水準が正しいという声もちらほらと聞こえてくるほどです。その是非はともかく、どういう形で資産形成しようとも私たちは常にリスクをとっているということです。日本の平和な環境はうれしい限りですが、これを維持するために多くのコスト（税金）がかかっており、ひとたびこうした均衡が崩れれば、「円」は大きく棄損する可能性を持っています。少なくともこうした意識は日本人としてしっかりと持っておきたいものです。

※PPP（購買力平価）・・・異なる国の一つの商品は、同じ価格で取引されるという仮定に基づき算出される、相対的な価値を比較するための概念。
（例）ビッグ・マック
　日本：450円　米国：793円（5.58米ドル、1ドル＝142円換算）
＜2023年12月8日現在（世界経済のネタ帳）より＞
※ビック・マックから購買力平価（為替レート）を算出すると、450円÷5.58１米ドル＝80.6円となり、実際のレートと大きな乖離がみられる。

｢購買力平価だと円安は行き過ぎ｣論はもはや昔話

➤インフレ時代の資産形成
　為替の話の続きですが、仮にPPPが現在の為替水準に近づいていくと仮定すると、日本の物価は今後大きく上昇していくことが予想されます。つまり、国内において現在の100万円の貨幣価値が67万円まで低下することを意味しています。ビッグ・マック１個の値段でいうなら、やがて日本でも一個800円の時代がくるのかもしれません。と書きつつ思うのですが、私が社会人となった80年代もビッグマックは確か400円くらいでしたので値段は30年以上殆ど変わっていません。デフレ経済とは財布にやさしいのかもしれませんね…。
　また、先日ようやく日銀が、マイナス金利の解除に踏み切りました。ここ20年の低金利とデフレ経済で私たちの感覚がやや鈍くなっていることを踏まえて、今後は「インフレ経済」と「金利のある世界」をしっかり想定しておくことが必要になってきます。
　そういう前提で私たちの資産形成を考えると、仕事による経済的な自立に目鼻を立て、生活防衛資金を積み立てることで「貯蓄習慣」を身に着けた人であれば、更に一歩先に踏み出していくことが可能になります。その選択肢として検討すべきものが銀行預金のような無リスク資産に加えて、リスク資産を持つという考え方です。

➤リスク資産を検討する
　リスク資産の代表的なものは、株式・債券・不動産・商品（コモディティ）などがあげられますが、その中でも私たちにとって比較的馴染みがあると考えられるのは「株式投資」だと思います。株式投資は収益性・成長性・流動性など多くの点で魅力があり、またリスク管理の視点から分散効果を取るという点でも優れています。もちろんリスク資産である以上、バブル崩壊など社会経済の影響を強く受けますが、一般的に言われることは「長期×分散×低コスト」を徹底することで、相応の収益を期待できるというメリットです。
　こうしたことは基本的に過去の実績から示されることですから、もちろん将来のことはわかりません。それでも17世紀にアムステルダム証券取引所で取引が始まって以来４百年もの間、市場そのものが脈々と成長してきた実績には一定の説得力があると思います。また20世紀中頃から株式市場における理論的なアプローチが盛んにおこなわれたことで、私たちのような個人投資家であっても、それなりに理論武装して市場に臨める環境はできつつあると思います。最もこのnoteの初めに記載した通り、そうした情報をいかに学んだとしても、自分自身の判断力が依然大きなリスクであることには変わりないのですが…。
　いずれにしても大海に漕ぎ出すには船が必要です。まずは株式市場という海はどんなところなのか、そして私たちはどんな船に乗ったら良い旅ができるのか、先人に倣い私なりに探ってみたいと思います。