🅂12 働いて未来に繋ぐ（完）

「A little dough」 第３章　働いて自立する（完）　🅂12

➤チャップリンの言葉の意味
　「働いて自立する」と題したこの章の最後に、もう一度チャップリンの「ライムライト」の言葉の意味を考えてみます。

”Yes, life can be wonderful, if you're not afraid of it.
All it needs is courage, imagination, and a little dough”
そう、人生はすばらしい。恐れてはいけない。必要なものは、勇気と想像力、そして少しばかりのお金。

チャールズ・チャップリン「ライムライト」より

　「A little dough」という言葉は、もともとの意味は「一切れのパン」という意味だそうです。それが転じて「some money」という意味になったわけです。働いて収入を得ることは、例えば「お腹が空いたのでパンを食べたい」という身体的な欲求を満たす為に行われます。自分が生きていくために必要なことが行動になっていくわけです。原始時代なら、「狩猟か採集」によって食物を得てその日を生きていたはずです。しかしきっと、当時の人々の生業の中にあっても、仕事とは単にそれだけのものではなかったのではないか、と私は考えてしまいます。
　その時代に生きた人々のなかには「食べ物を保存する手段はないだろうか」とか「自分たちの力で安定的に採集することはできないか」などと考えた人も、きっと数多くいただろうと思うのです。その理由は、そうした発想がやがて「農耕や牧畜」という画期的な生活様式の変化に繋がっていったと考えられるからです。
　無論こうした変化は長い年月をかけて初めて実現することだと思いますが、なんにでも初めの一歩はあり、そうした一歩は世界中のいくつもの場所で始まり、やがてどこかで融合し合い、そして定着するという道を辿ったのでしょう。
　この初めの一歩を踏み出すためには、「勇気と想像力」が必要です。私たちの暮らす２１世紀は、多くの先人達の「勇気と想像力」によって、幾千もの常識を覆してきたからこそ成立しています。水道や電気も、すべての人が自由で平等であるという意識も、みな長い年月をかけて現在形になっているのですが、私たちはついその偉大さを忘れてしまいがちです。

➤働いて未来に繋ぐ
　働くことには「勇気と想像力」に加えてもう一つ、🅂11で記載した重要なキーワードがあります。それは「継続」です。
　仕事の「価値を知る」ことが、仕事の「やりがい」に繋がり、「やりがいを持って臨む仕事」は「継続」を生み出します。「勇気と想像力」によって生まれる小さな変化の兆しを、私たちが「継続」を力にして成長することで、本当の変化に変えていきます。
　例えばそれが芸術であれ、基礎研究の分野であれ、あるいはメーカーや商社の仕事であっても「やりがいを持って臨む仕事」は、未来に繋がる可能性を持っています。もちろんこれらの仕事がすぐに評価されるとは限りませんし、むしろ数多くの失敗を生み出すかもしれません。しかし、そうした試行錯誤の繰り返しが、やがて小さな一歩となり、後年に大きな成果として結実するのです。むしろ現代社会を構成する数多くの事象は、そのほとんどが時代を超越した人間たちの共同作品である、と考えるべきかもしれません。

　「今を生きる」ということは、時間の流れを考えると「過去」と「未来」をつなぐ行為です。むろん私たちは意識せず自分の好きなことをしているだけかもしれませんが、結果的に人間社会を構成し、その社会を次の世代に引き渡そうとしているのです。私たち一人一人がどう考えようとも、私たちは「現代社会という神輿」を担がされているのです。
　「働く」ということは、神輿担ぎの一つの形態にすぎませんが、実際はほとんどの人がこの形態を選択しています。その理由は「自分の価値観で生きる」ために、理に適った方法であるからだと思います。
　「働いて自立する」だけでなく「働いて未来に繋ぐ」ことを、私たちは実践しています。そしてその中心に自分自身の価値観が据えられていれば、私たちは掛け替えのない充実した時間（人生）を得ていることになります。（了）

※ 第３章　「働いて自立する」は今回で終了します。第４章では、パーソナル・ファイナンスの中でも難易度の高いと考えられる「支出」について考えていきたいと思います。