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ジャングルで暮らす5人

▽マズローの欲求階層論です。私が初めてマズローを知ったのは入社間もない集合研修でのことだったと思います。講師の方に5段階の欲求というピラミッドの絵を見せられ、説明を受けました。あまりに有名な理論なので、今更という感じもありますが、人生や幸福というキーワードには欠かせない考え方であり、私自身の思考もここに回帰することがとても多いので、あえて記載する次第です。

▽(ジャングルで暮らす5人)
ここに、ジャングル暮らす人物が5名います。
まずAは危険なジャングルで数週間暮らし、時々食べ物や飲み水を見つけては飢えをしのいでいます。
次にBです。この人はただ生きているだけでなく、ライフル銃を持ち、中から閉められる扉のついた洞窟の隠れ家で暮らしています。
3番目のCは上記のものをすべて持つとともに、一緒に暮らす2人の男がいました。
更に4番目のDは食べ物や隠れ家のほかに、親友と一緒に暮らしています。
そして最後のEです。この人物は上記に掲げたものすべてを持ち、しかも彼は集団のリーダーとして皆から広く尊敬されています。
☝引用 中野明. マズロー心理学入門: 人間性心理学の源流を求めて (FLoW ePublication) (Kindle の位置No.597-603). Kindle 版

▽上記の5人は「5段階の欲求」のそれぞれのレベルで生きている、ということになります。次の通りです。
(第1段階:A)生理的欲求:生命維持のための欲求
(第2段階:B)安全の欲求:身体の安全、身分の安定、他人への依存…
(第3段階:C)所属と愛の欲求:家族、友人、恋人、同僚…
(第4段階:D)承認の欲求:自己評価、他社評価
(第5段階:E)自己実現の欲求:人が潜在的に持っているものを開花させ、自分がなりうるすべてのものになること、より一層自分であろうとする欲求

▽基本的な欲求は優先度を基準に階層を構成し、低次の欲求が満たされるとより高次の欲求が現れるという特徴を持ちます。また第1段階から順番に欲求が満たされると、心理的健康度が高くなるといわれています。もう少し言えば、1~4が満たされていれば心身共に健康といえるのですが、欠けている状態では病気になりやすいということのようです。

▽私が読んだ中野明さんの本(マズロー心理学入門)によると、こうしたマズローの考えはフロイトの考えに反していたようです。フロイトは、①人間は無意識(イド)から生じる欲動にかられる②イドの世界には、善悪がないので、欲動は現実の人間の文化と対立する➂これが人間の葛藤となり病の原因となる、と考えました。つまり、イドで生まれる欲動が「悪」を生むと考えたわけです。

▽一方のマズローは、①欲求を実現することで心理的健康度が高まる②欲求を実現できない状態を欠如といい、これが病の原因となる、と考えました。つまり欲求そのものが「悪」を生むのではなく、欲求を満たせない状態が「悪」を生むと考えたのです。「破壊・サディズム・残虐・悪意」などは、私たち固有の欲求・情緒・能力の「挫折に対する激しい反応」、と定義しました。

▽「欲求」というのは人間の「本能」だろうと思います。それ自体は善悪を生まないものの、その本能も「理性」によってコントロールされます。この理性は、人間の行動を個人レベルでコントロールするので、その結果として欲求を満たす、満たさないという判断が下されます。マズローが言う挫折とは、理性がこれを認めても何らかの理由で欲求を満たせない場合、あるいは理性が欲求を満たすべきではないという判断をしこれに納得できない場合、ということになりそうです。いずれにしても、確かに悪を生み出す可能性のある状況といえそうです。

▽ところで第5段階の欲求である「自己実現の欲求」ですが、上記の通りこれは結構すごいことが書いてあります。「人が潜在的に持っているものを開花させ、自分がなりうるすべてのものになること…」ということですから。しかしあまり大袈裟に考えなくても、たった一度の人生ですから、自分の力を解放し、どんなことになるのか見てみたいものです。私たちは社会的制約の中で暮らすうちに、過剰に自分の力を封じ込めているのかもしれないのです。

▽マズローは、自己実現者は本質的価値(善・正義・美…)を追求するとしています。例えば画家であれば絵そのものにこだわるというよりも、その先にある美にこだわる、といった具合です。ですから画家になったから自己実現を達成したということではありません。美の追求は永遠に続きます。その成長プロセスを実感し続けることが、自己実現者であり続けることなのです。


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