映画評:『パラサイト 半地下の家族』

聡明でそれぞれ才気も能力もあるキム家族が半地下で貧困に喘ぎ、彼らの嘘も見抜けないパク家族は豪邸に暮らす。おそらく単なるボタンの掛け違い、巡り合わせでここまで生活の格差が開く社会の理不尽を、導入部から感じながら見ていましたが、パク家族がキャンプに行くあたりからの意外性、壮絶な脚本と描写の展開で、そこから絶望的な断絶のクライマックスまでただただ圧倒され、度肝を抜かれました。物凄い映画だった。。。
キム家の父親ギテクの衝動のトリガーとなる｢匂い｣。半地下に染み付いた｢匂い｣が、重要なファクターですが、社会的下層階級を支配する呪いがよく表現されていて、ある種文学的でもあります。そして大雨のシーンからこれでもかと強調される格差間の断絶。ギテクの言う失敗しない計画、長男ギウが抱きしめる山水景石が象徴するものはなんだったか？それらはこの作品に普遍性をもたらしはしないか？パーティの準備をするパク夫人に対する嫌悪感、その嫌悪感が社会的には不適切だという意識を孕んでいるという気持ち悪さと後ろめたさ。犯罪者に共感して感情移入しながら見たのも、社会に対する怒りを感じながら見たのも『万引き家族』以来ですが、この作品はそれに加えて自分の感情に対する気分の悪い戸惑いが付随してきます。
たしかにブラックコメディースリラーというエンタメ感バリバリのジャンルだし、エンタメとしても申し分ないのだが、その上で更に本気の社会性、文学性を持ち合わせた誠実な芸術作品であると感じました。何よりキム家の家族愛に涙し共有できる喜び(悲しみ？)は何にも変え難いです。ギジョンは可愛いし。。。韓国映画もかなりの数見てるけどこれが現時点でベスト作品です。

【半地下とは】
(北朝鮮のテロ行為に端を発し防空壕として使う目的で低層住宅に設置義務化された地下室。後にソウルを中心とする住宅不足を解消する為、貧困層を対象に賃貸する事が合法化された。それが半地下。韓国の貧困層の象徴である)