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【詩】クラーケン(幻獣詩篇:3)

科学者は事実を述べた
宇宙よりも海のほうが
分からないことが多い

いつの間にか暗雲が月を奪っている
大型漁船に備え付けのサーチライトが
闇夜の霧雨を切り裂き海面を舐めて
時化しける海原に不意が奇態をていした

船の遥か前方に漆黒だった島が
いつの間にか遥か後方に座しており
操舵手は回頭かいとうしていないと言った
そして波間には跡形もなくなった
直径1マイル半程の島が一瞬にだ

わたしは未知に怒りを感じる
未知の出来事や未知の存在に
渾身の怒りで立ち向かうのだ
わたしは"知らない"を許さない
消えた島もそういう類の未知だ
この漁船の船長はこぶしを握り締めた

サーチライトは予備含め12基だ

もしもこの船長が人文学者なら
仮説を適用出来たかも知れない
「生物だ」
もしもこの船長が科学者だったなら
懸命な選択が出来たかも知れない
「走光性だ」

座礁したと思った瞬間彼方に
濡れた生白い女の脚の様な
巨大な触手が数本反り上がり
サーチライトを浴びながら
悪夢のような唸りを上げ
デッキに連続して叩きつけた

人文学者は所見を述べた
宇宙のほうが探索にやす
海は恐怖を抱き眠る奈落だ

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