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「親になる条件」とは

北海道にある社会福祉法人が、知的障害のある入居者の男女に対して、結婚・同棲の条件として不妊手術を課していた。

ことの顛末はこうだ。

檜山管内江差町の社会福祉法人「あすなろ福祉会」(樋口英俊理事長)が運営するグループホームで、知的障害がある男女の同居や結婚を認める際、男性はパイプカット手術、女性は避妊リングを装着する不妊処置を20年以上前から条件として提案、8組16人が応じていたとみられることが18日、分かった。

北海道新聞   2022年12月19日 朝刊

このことは、子どもを産み、育てるかどうかを自分で決める権利(リプロダクティブ権)の著しい侵害である。
それと同時に、障害のある者を自分と「対等な人」と見なさない優生思想が透けて見える。

以下、理事長の発言からその問題点を考えていきたい。

樋口理事長は、「障害者による子育てを支援する体制が整っておらず、生まれる子どもの命や養育に施設として責任が持てない」と説明。入居者らが子どもを望む場合については、「うちのケアから外れてもらう。強制するわけではないが、うちが関わる場合は一定のルールは守ってもらう」と述べた。

北海道新聞   2022年12月19日 朝刊

法律的な観点からしたのなら、グループホームで暮らす障害者の出産、育児を、法は想定しておらず、支援制度が整っていないのは事実である。
しかし、それを差し引いてもなお、理事長の発言からは、障害のある人を「一人の人間」として尊重しているような姿勢は感じられない。

以下、さらに理事長の発言を見ていきたい。

「生まれてきた子どもが養育不全と言われた時に誰が責任を取るのか。われわれは結婚は支援する。ただ生まれてくる命は保証できない

北海道新聞   2022年12月19日 朝刊

さらに、続けてこう述べている。

入居者らが結婚などを希望した場合、施設の考えを伝え、避妊の必要性を理解させるという。「基本は、あなたたちは自身があるのかということ。彼らの能力水準では経験(出産)してみたいということは、ほぼないと思う」

北海道新聞   2022年12月19日 朝刊

この発言は、問題があるものだと考える。
なぜなら「彼ら」は、その「能力次第」で、そもそも親になる資質があるかどうかを他者により先天的に問われるのである。

しかし、これは「親になる」ということの本質を見誤っている。

そもそも「親になる資質」とは、先んじて存在するものではない
親の資質は、性質的に「後天的に」培われていくものだ。

「親になる」ということを初めから、自信をもって始められるものなどあまり多くないであろう。誰でも初めは不安である。
それを、四苦八苦・悪戦苦闘しながら、「親」というものは事後的に形作られていくものである。

それを導入(出産)の段階で、その「資質のあるもの・ないもの」というふうに選別していくのは、「親になる」とはどういうことかの本質的な見方を逸脱している、と言わざるをえない。

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