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初めてのおつかいに使わせて貰いたかった近所の商店〜胆振東部地震から2年

うちから徒歩1分。玄関を出て左手に見えるのが、A商店。 老夫婦が営んでる、昔ながらの商店。

初めて行ったのは、ここに引っ越してから数日後だったと思う。 子どもがまだ一歳になりたてで、自分の車もなくて、外出するには抱っこ紐で子どもを抱っこして、よっこらせと歩くしかなかった頃。

いつも入口は開けっ放しで、中の品揃えが見える。「あ、野菜がある…」と、夕食の材料を買おうと、少しドキドキで入ってみた。

「大した品揃えじゃないけどね〜」と言いながら、おばあちゃんは優しく対応してくれた。子どもを見て、ニコニコ。 お会計の時に、屋号の入った手ぬぐいをくれた。

常連さんと長話している時は、入るのを遠慮した。 2回目にお店に行った時は、おじいちゃんが対応してくれた。 子どもを見て、「オレ、子どもの世話得意なんだよ〜」と。

「孫が来たときは、オレが風呂いれるんだよ。店番は苦手だけど、風呂入れるのはうまいよ〜。店は、あの、値札ってあるしょ、小さいさぁ…」と、思ったより饒舌に話してくれた。

テレビ番組の「初めてのおつかい」、あれ何歳の子がやってたっけな… あれ、うちの子は、このお店にしよう! 帰宅したダンナにもそう話した。 「いいねえ。でも、何か、違うもの買ってきたりしてね〜!」「あ〜、入口の近くにブラックサンダーとかいっぱい売ってた〜、やばいかも!」二人で笑いながら話した。

ただ、日常の買い物のメインは、だんだんと、量と品揃えが豊富な大型スーパーになっていった。

胆振東部地震か起きた。千歳市は深夜、大きく揺れた。 ご近所さんが言うには「ここに長年住んでるけど、こんなこと初めてだよ…」

ダンナはとりあえず会社に出勤。 わたしは、ラジオを聞いて停電がすぐには解消されなさそうだな、と思いながら、いつも通り子どもを抱っこして外に行った。不安だけど、家にこもっててもしょうがない。お散歩と少し運動だ。

途中、近くのコンビニとドラッグストアで何か食糧買ってこよう。 冷蔵庫が止まったから、中のものは今晩までに食べちゃって、そしたら明日のものが無くなるから、何か… 電池もあれば… あとは役立つものは…

コンビニもドラッグストアも食事になりそうなものが無かった。 あるのはお菓子や調味料。電池もナシ。

車がないので遠くにはいけない。家の方向に戻ると、見えてきたのはA商店だった。

入ってみると、数人のおばちゃま達が、お店のおばあちゃんと話してた。「いや、ひどいことになったねぇ。」「タンスとか倒れた?」「それは大丈夫だったよ。」 わたしにも聞いてくれた。 「子どもいるのに、大変なことになったねぇ。」

見渡すかぎり、食事になりそうなものは無かったが、お店のおばあちゃんに聞いてみた。「懐中電灯とかローソクとかありますか?」 おばあちゃんは、丸い缶を取り出して「さっき探してみたら、こんなのしかないんだよねぇ。」と。 それが、非常用の缶入りローソクだった。

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いちおう、他のおばちゃん達に聞いてみる。 「うちがもらっても大丈夫ですか?」「いいよいいよ、ローソクならうちあるから。」「すみません、わたし、この子をお風呂に入れないといけないんで。お風呂に灯り欲しくて。」

実際のお風呂係のダンナが帰宅してから缶入りローソクを見せてみた。「いいね。水があるから懐中電灯置きたくないし。それに、居間にも灯り必要でしょ。」

うちに懐中電灯は1つしかなく、トイレなどで他の人が動くときは、もう一つの灯りが必要だった。 なので、この缶入りローソクはとっても役にたった。 

子どものお風呂はダンナの帰宅後手早くすませる。 給湯器が止まっているので、なべでお湯を何回も沸かしてはお風呂にいれ、水で調整。 時間も手間もかかった。 ご飯を食べて、早めに寝る。 子どもがちょっと戸惑ってる。 薄暗いし、いつもと様子が違うから。 でも、三人でお布団に入れば、寝てくれた。

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それ以来、A商店には行ってない。 停電が2日目の夜に終わって、スーパーの品ぞろえが徐々に元に戻っていった。 元の生活に戻ると、また、主にスーパーで買い物をするようになった。

最近になって、ダンナが「A商店、店じまいしたのかな? 商品、なんもなくなってるんだよね。」と言った。 え?と思って、翌日通りすぎるときにチラッとみてみた。

商品棚が無くなってた。 もちろん商品もなかった。 レジ近くに野菜、入り口近くにブラックサンダーなどの子どものお菓子、奥には冷蔵ケース… 何もなくなってた。でも、店の入り口は、相変わらず広く空いたままなのだ。 閉店なら、入り口を閉めて貼り紙を出すだろう。

たまに、おじいちゃんが店の外で花の世話をしたり、歩いたりしてるのは見る。でも、おばあちゃんは見かけなかった。 

何があったんだろう。

疑問は解消されないまま。現在に至る。

そのうちふらっと入って、「地震のとき売ってもらったローソク、すごく役に立ちました!ありがとうございます。」「うちの子がおつかいできるようになったら、来るかもしれませんので、よろしくお願いします!」と言うつもりだったのに。

いつかタイミングが、あるだろうか。

あることを願っている。


※ 写真はA商店ではありません!イメージです。

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