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俳句でショートショート 「寒昴の末っ子」 230204

ベッドで
 
真夜中に目が覚めた、君のいびきに起こされた。
やれやれ、、。
ま、まっいっか、。これでも、君はよく眠れるようになったっていうことやね。眠られん日が続いてたもんなぁ。今でこそこんなんやけどあの頃の君はもうね…。いやぁ、よく立ち直ったよ、ほんまに。
……。

いびきに起こされた僕は君を眺めながら昔を思い出していた。


 あの日、用事で大阪に向かう車の助手席に君は乗った。帰省するなら途中まで乗る、ってね。君はいつもそんな風に男も女も関係なくざっくばらん。虫から星まで自然大好き。好きになるともう食らいつくように目を離さない。あの双眼鏡買ったのも、君が「物の見方」っていうのを教えてくれたからなんだ。男と女だったけどまさかこんなことなるなんて考えてもなかった。

僕は君のいびきを聞きながら、あのきっかけの日を思い出していた。

夕景

あの日
 夕方に出発した僕たちが休憩したのは真夜中のパーキング。
コーヒー片手に双眼鏡抱えて、「あかん、暗いとこ行こう」と歩く。
僕たちはただ、双眼鏡で星を見たいだけだった。
だが、パーキングライトが邪魔をする。ライトはまだLEDではなかったけれど陰に入らなければ星が見えない。
君と僕はうろうろと探しまわった。
あの日は特に寒い夜で、冬空の下、枯木の向こうにキラキラ輝いてる星をどうにもほっとけない。

夜景

七人姉妹の寒昴
「ええ~っと、、どれかわからん」
やっとよく見えそうな場所を確保して座り、双眼鏡ならすぐ見えるだろうと思った僕だが、星にはすぐにどり着けない。そんなまごまごしてる僕を見て、
「貸して、ちょっと待ってよ」
と、少し乱暴に双眼鏡を取り上げて君が狙いピントを合わせる。
すると、すぐ
「こっち来て、ここ!」
と君は双眼鏡を掴んだそのままに隣の僕の顔を見る。

「ねぇ、こっから覗いてよ」
えっ、いや、そこは君の腕の中。
僕が潜り込まなければならない。
「うん…」と言ったものの、あきらかに狭い。
戸惑いながらも君のグッと固定された腕の中に入りヌッと顔を出す。そしてそっと双眼鏡に手を重ね覗く。

「ん?どこ?」
「えっ、ずれた?、待ってよ」
もう一度君が狙い、手を重ねたまま僕が覗く、
「お、お~っ!、見えた見えた。。ええっー!すごいよ昴!、、ものすごいな」

驚いた。いやもう、僕の脳内いっぱいに映し出されてる映像は、双眼鏡レンズいっぱいに広がっている数えきれない星の集合体だ。平面じゃない、ほんとに浮かんでいる。すぐそこで揺らいでいる。
きっと両目で見る双眼鏡のせいなのだろう、奥行きがはっきりとわかる。

「どう?、ねっ、それが昴よ…」
君は得意げに鼻を上げて言う。
「その中に明るい星が6つあるでしょ、わかる?、特に明るいでしょ。それね、ほんとは7つあって七人姉妹。メローペっていう末っ子の女神だけは人間と結婚するの、すごいでしょ、人間よ。ちょっともやかかって見えるのがメローペで、いちばん綺麗。双眼鏡だから一番綺麗に見えるし、遠くてもまるですぐそこよ」

双眼鏡 時空に揺れる寒昴
静けさやピントに浮かむ寒昴

ベッドで思い出していた。
 
あ~、あの時の昴の美しさにはほんまに感動した。もう二人とも興奮してたよな。
あの時、覗いてる僕を君が後ろから抱いてくるから、、、、と思った瞬間!。。

「なにっ?!!」と君が目を向ける。
「ええっっ!いや、なにっ!聞こえてんの?、いやなんで?喋ってないし。。さっきまでいびきかいて寝てたやん」
「あんた、、今ごろになってなんでそんなこと思う、。あの時は腕の中にあんたしかおらんから、なんか急にぎゅっとしたくなっただけで、たまたま」
「そうなん…?。でも、嬉しかったわ。あれでこうなったんやし、僕の背中には君のあったかくて早い鼓動が伝わってきたしね。君は小さいから腕の中せまかったんやで、ほんま。でも、温かかったわ」

静けさや鼓動に揺るぐ寒昴

夕神社

その日の夕方
 いつものように散歩に出かけたが、当時のことが頭をよぎり、寒風の公園で思わずあの昴を探してしまう。暗くなり始めの空はよく晴れ、昴は輝き始めようとしていた。
ふぅ、昴は相変わらず美しい。
そうだ、この先もう少し行けば暗闇があるし、もう足元も暗い。よし、と僕は思い出の双眼鏡で昴を見たくなり家に戻ることにした。
すると、もう双眼鏡を抱えた君が玄関前で待ってる。

僕は嬉しくなり思わず「おーい!メローペー」とライトを振ると、君は尻尾を振った。


寒風や犬一番のお出迎え








かー!
春ー

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