ジェットコースターのような一年目
IKEBUKURO LIVING LOOP の裏話 ─第2話─
なぜ池袋おじさんになったのかの第1話。たくさんの方に読んでいただけたようで呼ばれることが徐々に増えてきました、池袋おじさん。
お約束どおり、第2話書きますね。今から3年前の話。今回はちょっと生々しく痛々しいと思います。どうかご無理なきようご笑覧ください。
2016年4月2日のハッピーハプニングを収めたわずか4分の動画はまたたく間にたくさんの反響を呼びました。「あー、こうなったらいいな!という理想の一日の風景を実験的に無理矢理つくって見せてしまうことの社会的なインパクトの大きさを改めて痛感した」とnest共同代表の馬場正尊さん(以下、馬場さん)はあの日の出来事をよく振り返ります。13年前に自身が仲間達と東神田・馬喰町の問屋街の空きビルを活用してアートイベント仕掛けたCETプロジェクトに重ね合わせているように感じて嬉しくなりました。そういえば映像には写ってないけど、CETの仕掛け人の一人で、今ではnestの監査役の一人でもある公民連携の父 清水義次さんもあの日芝生のうえで佇み、誰と話すこともなく、ただただ一人で、見たことのないようなとびっきりの笑顔を浮かべ、本当に幸せそうに大好きなワインを傾けていました。映像でうちの息子に「エイ!」と紙ピストルで撃たれてるのは当時そんな神田で事務所を構えていたグランドレベルの田中元子さんだったりね。
僕らは映像の力をこのとき嫌というほど思い知りました。
その場を共に体験した人には記憶をいつまでも再現し、その場に来れなかった人には記録としてどこまでも可能性を広げてくれるのです。あらためてLENSのふたりいつもありがとうね。
程なくしてたくさんの声がイベント告知用につくったfacebookページを通じて届くようになります。
「私もあんなふうにヨガをやりたい」「生演奏をしてみたい」
禁止看板ばかりが立ち並ぶ日本の公園。「どうせ無理」と声をあげることさえ諦めていた一人ひとりの失望が小さな希望に移り変わった瞬間だったような気がします。
ちなみにhaconiwaキュレーターとしていち早く記事を書いてくれたみゆきさんはその後、nestとともに活動してくれるcastの一員となり、今もnestのイベントではヨガインストラクターとして南池袋公園にヨガのある風景を再現し続けてくれています。
いずれ複数のメディアが注目し、期待値を引き上げてくれた結果、はじめはたまに届く程度だったお問い合わせが、またたく間に毎日のように寄せられるようになりました。
これもなりゆきの賜物。動いてみよう!と豊島区を通じて公園の運営団体に声を届けようと何度かコンタクトしてみても、思い通りには進みません。あの日の風景はあくまでオープニングイベントの大義があって実現できたもの。大義がなくなれば、慣習や常識が壁となって立ちはだかります。なかなか期待するような回答は得ることができず、一度抱かせた希望をまた失望に変えてしまう日々が続きました。もう申し訳ないというか、やるせなくて次第に苛立ちを覚え、そのうちに罪を犯したような感覚さえ当時は抱くようになっていました。まだまだ日本の公共の壁は厚い。絶望のどん底です。
そんなときあるインタビューを見たんです。
当時、国土交通省都市局公園緑地・景観課緑地環境室長だった公園行政のトップ、記事でも公園マスターと紹介される町田誠さんが馬場さんとの対談インタビューのなかで公園を管理する法律はないっていうじゃないですか。
それどころかPark-PFI的思想はもともと日本の公園のはじまり、上野公園から続いていたこともわかりワクワクしました。日比谷公園の松本楼も。記事読んでさっそくあらためて松本楼のハヤシライス食べに行きましたよ。沁みたなー。うまかったなー。これってまさに、南池袋公園にかかわるきっかけをくれた金子信也さん(以下、信也さん)が好きな言葉としていつも話してくれる「過去は常に新しく、未来は常に懐かしい」のとおりじゃないか!僕の今までの取り組み「懐かしい未来」にも共通する。やるべきこと、やりたいことがリンクして、次第に心の中のエンジンが温まってきました。
粘り強く続けよう。無責任な立場で闇雲に伝えても現場の管理人が断り続けたくなる気持ちもわかる。責任ある立場になって利用者の声をきちんと届けよう。こうしてnestの活動ははじまったのです。
直感的にほしいと思う未来を実現していこう。できないことを減らしできることを積み重ねていこう。ここから日本を変えていこう。坂本龍馬が好きな僕は「日本の夜明けぜよ」よろしく想いを共有できる仲間を集いました。
nest監査役としていつも的確なアドバイスをくれるエリアマネジメントの母 保井美樹さんと公募内定をきいて祝勝会&決起会。保井さん、また一緒に美味しい時間過ごしましょう。快気を祈って待ってるよ。
上)nestはじまりのMTGの前に馬場さんが思わずツイートしてました。
下)iPhoneのアルバムに残ってた当日の馬場さん。子供みたい。笑
nestが豊島区と対峙できる責任ある立場となれた「グリーン大通り等における賑わい創出プロジェクト」の公募のなかで、僕たちは公園の可能性を広げるいくつかの事業の実験と検証を提案しました。
とはいえ、豊島区との契約委託金は実費のみの本当に限られた予算。契約期間も5月の契約開始で翌年3月末までと限られた期間。正直そんな期間で「賑わい」を創出することなど...賑わいを生み出す魔法はないものか...。
悩んだ悩んだ。なりゆきで会社創ったものの、そもそも公共空間で稼いで自立した事業を行い存続することなんて本当にできるのか。このときはリノベーションスクール真っ盛り。全国各地でのスクールの間に自分たちのリノベーションスクールやってる感覚。こちらも馬場さんとのプロジェクトだったけどまめくらしが賃貸住宅の運営にかかわることになった高円寺アパートメントのオープンも重なってもうひっちゃかめっちゃかだった。大家の学校の2期もあったな。プラットホームに入ってきたジェットコースターに最大積載量超えてるのに覚悟決めて腰をおろしてベルトしたら全速力で急発進して一度目の大きな山に不安ながら登りはじめてしまった感じ。ああ、もう引き返せないよ。
事業の柱はあらゆる立場からもっとも「賑わい」と受け取りやすく、一年前の4月2日のオープニングの風景を再現し、定着させていくことができるマルシェ事業。考えれば考えるほど入場料収入など見込めない公共空間でのマルシェは一番収益性が乏しいんだけど。。それでも一過性のイベントではなく日常の習慣として定着させるためには、毎月同じタイミングで実施してたくさん開催したほうが良いだろうと契約開始の5月にはさっそく第三土曜と日曜に「nest marche」と題したマルシェを開催することに。
事業者の募集要領に「南池袋公園を使えるのは毎月連続2日まで、イベントに付随する臨時の露店なら置くことができる」と書いてあったので意地と意気込みで初年度は土日連日開催にしたけど、このときは設営も全部自分たちでやっていたので正直毎月設営撤収を繰り返すなかなかの絶望的ハードワーク。二年目からは毎月第三土曜のみの一日のみの開催に切り替えました。
地元でマルシェを開催していた仲間たちにテント借してもらったり、全国でマーケット開催しまくってた友人の株式会社サルトコラボレイティヴ代表取締役の加藤寛之くんに出店募集要項や保健所、消防署など各種手続きのノウハウを惜しみなくアドバイスしてもらったり、みんなに協力してもらって、なんとか開催してみたものの、あんなに待ち焦がれられていた(と、思っていた!)南池袋公園での出店希望者は8店舗のみ。グリーン大通りにいたっては出店希望者ゼロという散々な船出。関係者による針をさすような嫌味の千本ノック。しかもこの年の5月は灼熱地獄。公園にも人が全く来ない。まったく売れない。出店者のご機嫌をうかがいコミュニケーションを重ねては欲しくなってしまって自分で買う。財布も体力もスカスカになるというなかなかな体験でした。
それでも、やってみると嬉しいこともたくさんありました。地元企業として僕らnestの活動をいち早く応援してくれた良品計画が「息の長い取り組みなのでできることと続けられることからはじめてみましょう」とMUJI無印良品でプロダクト化する際に生じてしまう端材をつかってもったいない市場を開催してくれたり(このときのチームメンバーとはゼロから生み出す苦楽と感動を何度も共に...)
地元の人気飲食店の仲間たちが自分の店を休んだり応援頼んだり目に見えないコストたくさんかけてリスクと戦いながら出店してくれたり。
としま会議や地元の取り組みで繋がりあった仲間、特にたくさんの地元のお母さんたちが出店者として参加してくれたり。
僕の室井管理官こと渡邉元豊島区副区長はやっぱりさりげなく足を運んでくれて自分ごとのように喜んでくれたり。
まだまだ出店者も来場者も数少ないからほぼみんな知り合い。上の2組は今青豆ハウスで暮らし合うこのときは他人の家族。三枚目のお父さんは地元暮らしの某toolboxの社長。四枚目は僕の節目のプロジェクトにはもれなく足を運んでくれる友人アンディー。みんなありがとう。友達万歳。
それぞれ直線的な知り合い同士がお互いを知りアメーバ的に交じり繋がりあうお友達経済圏の小さな誕生を密かに喜べたり。
Racines Farm to Parkの2階のブックライブラリーの選書を監修したBOOK TRUCKの三田くんがきてくれて本当に魅力的な風景が生まれて感動したり。
本には珈琲だよね。急遽暑いからって冷やしを強化してくれた剛くん。オートルソーダーがまた飲みたいよ。
大人がゆっくりくつろげば子供たちはいつまでも全力で遊べるわけで。秘密基地つくったりね。
取材してくれたことがきっかけで色々行動を重ねたこどもDIY部のさかたともえさん。またこどものまちつくりましょう。さかたさんの左隣の華表由夏ちゃんは今話題になってるニシイケバレイに帰ってきたね。このときのとしま会議もよかった(Racinesで売っているrich island beerにかけてrich island talkって言ってたね)。
今度は保井さん交えて馬場さんとnestトークも。
左から保井さん、馬場さん、青木のnest3社での炎天下灼熱のトークセッション。前で聞いてるのは関わりの深い沼津市の仲間たち。後ろできいてるのはうちのおふくろ。まさかの母親参観。やりにくいったらありゃしない。笑
少しでも収入を確保しようとトートバックつくってやたらPRしてます。そこそこ売れたけどまだ売れてません。。。全国で売ってくれた仲間ありがとう。まだまだ在庫あるからね。笑
この記事読んでくれた方、売ります!というかIKEBUKURO LIVING LOOPに買いにきてください!
そうそう、人件費もかけられないからマルシェ運営をサポートしてくれてるのはボランティアキャスト"nest cast"。とにかく手当たりしだいに声かけて、きちんと説明もできていないから、「え?人件費の搾取?」ってやりきれない表情を浮かべて冷ややかに去っていった方(ずっと心のなかで侘びています。本当ごめんね!)もいるし、なんとか昼飯の足しにでも500円お払いしてみたら「え?いいんですか」って恐縮されたり、でも500円じゃ交通費でないよねって悶々したり。お願いしてるうちは辛かったなー。。(今はみんな部活のように楽しんでくれていて嬉しいけど)
それでもバック売ってくれたり、誰もいないグリーン大通りに貼ったテントで道行く人に笑顔でチラシ配ってくれたり、出店者とたくさんコミュニケーションとってくれて、誰よりも楽しそうにご飯食べてくれたり。
もう嬉しくて嬉しくて、でも申し訳ないんだけど、やっぱり幸せそうなcastたちをみてると同じ喜びを分かち合える仲間ができて嬉しくって。彼らがいてくれたから次第に増え始めたベビーカーをマルシェのお客さんの通行とぶつからないように即席のベビーカー置き場をつくれたり。
ベビーカーやビニールシートが芝生を意図せず痛めてしまうことをマルシェに来てくれたお父さんお母さんや公園に遊びにきていた子供たちに造園管理していたゆめちゃんたちが紙芝居で伝える機会をつくれたり。
そんな子供たちに突如はじめる音楽演奏と遭遇するハッピーなハプニングをつくれたり。
速攻苦情きたんですけどね。笑
でも一箇所に留めないで練り歩いてもらえたら苦情こないかなって。
もう楽園でしたよ。パラダイス。
それでも苦情はきたんですけどね。笑
楽しそうな風景を不快に思う人ももちろんいるわけで。それぞれの立場、それぞれの事情を無視して公共空間での活動なんてできないわけです。(今だからこんな風にかけるんだけど)
気持ちよく演奏してる皆さんにミュートつけてもらったり、お願いしたくないお願いをこんな魅力的な写真を撮り続けてくれていたnest宮田が率先して伝えにいってくれるんだけど、皆さん僕らの姿勢に共感してくださって嫌な表情一つせず協力してくださって。
その瞬間なんかわかった気がしたんです。これからしていくことが。まだまだ全然だけど少し見えた気がしたんです。
僕らが育てていくのは未来だ
前例のない取り組みは立場や価値観の相違による見えない壁がつきもの。
でもそれぞれの立場に寄り添いそれぞれの言語に翻訳してコミュニケーションを諦めないで行動を続けていけば共感してくれる関係者が増えていく。
そうやって僕らが育てていくのは未来だ。
前例のない取り組み。僕たちは公園の可能性を広げるいくつかの事業の実験と検証を提案したとお伝えしました。賑わい創出という大義のもとに。
例えば、パークウェディングのプロデュース業務。
世界を旅すると当たり前のように遭遇する、まちなかでのウェディング。
2015年5月にニューヨーク ブルックリンブリッジパークで突如目の前に広がったハッピーハプニングが忘れられずにいつか実現したいと思っていた。
そんなハッピーハプニングを共に演出してくれ、今でも活動を共にするたくさんのcastと出会えたトークイベント。
そこでパークウェディングを夢見る一人の女性に巡り会えたことで実現しました。僕の実現したいと彼女の実現したいがシンクロして「なりゆき」ではじまった事業。占用の壁、公平性の壁、公益性の壁、天候などの不確定要素など様々な問題を抱えながらも、それでも全力で楽しめる心意気をもったちれかちゃんと出会えたから、そのちれかちゃんの夢を共に叶える譲くんとの度重なる打合せを僕らとともに全力でサポートしてくれた信也さんの奥さんのウエディングプランナーの元子さんの溢れるホスピタリティがあって、最高潮のハッピーハプニングが創造できました。
この写真に写ってる子どもたちはなにを見ただろう。なにを感じただろう。
彼ら彼女らが大人になったときに当たり前な風景になっていれば嬉しいな。
昨日でちょうど3年だったみたい。譲くん、ちれかちゃん、あらためておめでとう。ちれかちゃんがグリーン大通りから南池袋公園までウェディングドレスで歩いてきたときの心の底にずっしりと響き渡るどよめきと拍手、今は天国から見守っている譲くんのお父さんのあの日の嬉しそうな顔、忘れられない。
もう一つ。パークシネマ事業。屋外映画上映で実績豊富なねぶくろシネマの唐品知浩さんと半年(ほんとは公園のオープニングイベントの雑談からなので1年半)何度も打合せを重ねて、コンセプトに共感してくれたLIFULL HOME'Sの協賛を受けて、たくさんのサポートを受けて実現したのが10月20日のnest cinema「キャスパー 無料上映」でした。一度は実現不可能の判定となった要因が屋外広告条例の大きな壁でした。当時の豊島区副区長だった宿本尚吾さんが根気強く実現の可能性を庁内で検討してくださり、この条件なら上映できるという明確なラインを示してくださいました。そうしてやっと上映できると思った開始時刻の1時間前、大粒の雨が落ちてきました。
次第にどんどん強さを増す雨。もう、心の中にも土砂降りでした。
でもね。うちのかみさんと息子はね、最前列から動かなかったんですよ。はじめは一組の母子。しだいにその後ろにね。それでも僕の電話で駆けつけてくれた地元の母子とその友達たちが座りはじめてくれて。何組か座ってると事前の広報をみて楽しみにしてくれていたであろう遠巻きにいたお母さんたちが子供たちの背中を押してくれて。
このムービーみていただけたら感じてもらえると思うんですが、興行としては成功とは言えないけど、実験としては失敗ではないと思うんです。この日、映画上映に難色を示し続けらていた現場管理者の方が「次、晴れたときに見せてあげたいね」って子どもたちの背中に向けて囁いたんですよね。僕の乗ったジェットコースターは再び勢いを取り戻して走りはじめました。
そうしてこの翌月に実現したのが一年目のIKEBUKURO LIVING LOOPなんですが、ここまでだいぶ長くなってしまったので、今日はここまで。
さて、コロナ禍で開催予定の今年のIKEBUKURO LIVING LOOP。出店募集者やボランティアキャストを絶賛募集中です。出店者に関してはいったん9月30日を締切予定なのでご検討中の方はぜひこちらよりエントリーください。
今週末26日土曜日は11時から17時までオンラインでの配信を予定しています。関わるみなさんの様子もご覧になれると思います。プログラムなどの詳細はこちらのオンラインマルシェサイトに掲載予定なのでぜひご覧になってみてください。
先月の配信も参考になるかもしれません。
楽しむこと、止めちゃダメ。
我慢しなきゃいけないことがたくさんのコロナ禍だからこそ、止めちゃダメ。
止めなきゃ、未来は止まらない。
どうせやってくるなら楽しい未来を迎えましょう。(続く)
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