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蒼の彼方のフォーリズム 有坂真白小説

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真白をもっと好きになる―― 蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - 著者 陸奥竜介 原作 sprite 蒼の彼方のフォーリズム 有坂真白シナリオを真白視点… もっと読む
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#あおかな

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #13

9  その夜。 「きっ、聞き間違いかもしれないからもう1回!」 「にぃにぃ」 「ははっ、ほんとにかわいいなお前は」 「~~~っ!」  わたしはベッドの上を無呼吸で泳いでいた。  ううん、傍から見たらそう見えるだろうなってだけ。なんでかばんばんと枕や布団を叩かずにはいられなくて、自然とバタ足になっちゃって、息もできなくなる。  ノートPCに映っているのは、昼間の痴態。  小道具一式を返しに行ったときに聞いたんだけど、実はあの様子、わたしのつけていた猫耳に実里によって仕掛けられ

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #12

8  とある部活の休養日。  誰もいない部室の奥で、わたしはみさき先輩が来るのを待っていた。  ただ待っていたわけじゃない。  というのも、わたしは床に置かれた「拾ってください」と書かれた段ボールの中で、猫耳ヘアバンドをつけて待っていた。二次元ではよく見る捨て猫スタイルだ。 ……いや、捨て猫スタイルだ。じゃなくて。 「やっぱり何かが壮絶に間違ってるような……」  事の発端はつい先日、友だち……友だちでいいんだよね? 友だちの保坂実里と出くわしたことだった。最初は最近どう? 

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #11

7 「はあ……」  練習後、着替え中は一時的に男子禁制化する部室の中で、わたしはため息を漏らした。  自己嫌悪。たしかにセンパイの段取りは色々と間違っていたけど、ホントどうしてあんなことをしちゃったんだろう…… 「ふう……」 「晶也でしょ」  何度目かのため息のあと、みさき先輩がからかうようなトーンで耳元に囁いてきた。  これはちょっとめんどくさい予感。ううん予感という名の確信。  なんとか話を逸らそうと試みるも、何度も頭に「しかしまわりこまれてしまった!」のウインドウが浮

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #10

6  みさき先輩だけじゃなく、進学に向けて引退した青柳元部長も顔を出してくださり(夕べ、窓果先輩への電話ついでに誘ってもらってた)、今日の練習は実に大会前以来、元のFC部メンバーが勢揃いした。  懐かしいというよりはまだ久しぶりって感じだけど、皆さんとの時間はやっぱり楽しい。それはみさき先輩だって変わらないはずだ。このメンタル攻撃は情深いみさき先輩にきっと効く。──人として大事なものを失っちゃってる感はあるけど、手段はともかく得られる感情は本物だから問題ないはず。  一方の

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #9

5  翌日の練習前、久しぶりにFC部に現れた姿にわたしは笑顔で駆け寄った。 「みさき先輩! 本当に来てくださったんですね!」 「本当にって、夕べしつこい電話してきたのはどこのどちら様でしたっけ?」  夕べのわたしは、悩まされていた問題からとりあえず解放されたからか、自分でも意味がわからないくらいテンションが高かった。自分の部屋で邪神ちゃんを両手で掲げながら、くるくる回って踊っていたくらいだ。その宴は突然現れたお母さんへの驚きで、机の角に足の小指をぶつけてうずくまることで終わ

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #8

 だけど、 「ありがとう」 「……え?」 「真白がいるから俺は今頑張れてるんだと思う」  センパイが口にしたのは因果を無視したような、この場面で出てくるはずがない、突拍子もないお礼で。 「本当に真白のおかげだよ」 「えっ、えと、あの、意味がよく……?」 「聞き返されても繰り返さないし詳しくも言わないからな」  なんて言われても、本当にわからない。それにもう決めたんだからそんなこと言われても困る。 「でもわたしはみさき先輩が辞めちゃったから……」 「余計に頑張ってくれるだろ?」

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #7

「空を飛べばきっと気持ちも晴れますよ。わたしもお付き合いさせていただきますから」 「ああ」  どこか迷子みたいだったセンパイが、思いのほかあっさりと手を伸ばしてくる。  わたしはいつかみさき先輩がしてくださったみたいに、しっかりとその手をつかまえて── 「うわあああぁぁぁあああ!?」 「え……きゃあっ」  意外とごつごつとした手に触れた途端、センパイが手を引っ込めるどころか飛び退いていた。 「え、あれ……真白……?」 「誰と話してるつもりだったんですか、もう。今さら何を……」

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #6

4「えっと、たしかセンパイはこっちの方に飛んでいったはず……」  方向的に帰ったわけじゃないみたい。  だからってみさき先輩の家や繁華街方面とも違う。この先には海があるだけ。四島の他の島に続くわけでもない。  だとすると砂浜のどこか? それともこの辺りの空だろうか。手掛かりはないけど捜索範囲は限られている。必死に探さなくてもいずれ見つかるだろう。  センパイ…… 「考えましたよ、ちゃんとセンパイの気持ち」  自分の気持ちを確認するみたいに言葉が口をついて出る。 「もしかしたら

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #5

3 センパイを信じようと決めた夜から数日。  わたしは反転して、不信の塊になっていた。 「よーし、ふたりともよく頑張った。今日の練習はここまでにしよう」 「はぁ、はぁ……」  大会以降、一層厳しくなった練習メニューに息を乱しながらセンパイを見る。 「はぁっ……はぁ……ま、晶也さ……ぶ、ぶちょ、鬼です~」 「窓果、クールダウン手伝ってやってくれ」 「はいは~い部長、お任せください部長、部長!」 「……ふたりして突然部長呼ばわりしてきてるけど、新手の嫌がらせか? ふさわしくないっ

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #4

2「っていうか、なんでまだ部に残ってるんだ?」  あれから自分の部屋に戻って。  人の気も知らずにあっさりと指摘してきたのは、二足歩行の白ねこにコウモリみたいな羽を生やしたキャラクター、邪神ちゃん。わたしがシリーズを欠かさずついていっているモンスターを狩るゲーム「モンタッタ」で、プレイヤーのお手伝いをしてくれるオトモNPCなんだけど、うちにぬいぐるみとしてお迎えしたこの子は、今みたいにわたしに茶々を入れるだけの簡単なお仕事をしている。 「身も蓋もないこと言わないでよ」 「ケッ

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #3

「それでなんか裏切られたーみたいな気持ちとか、勝手に感じちゃってて。ねえお母さんどう思う? わたしもうほんとよくわかんなくなっちゃってて」 「真白……」 「わかったの?」  ぱっとお母さんに向き直るわたしにお母さんは微妙な表情を浮かべたまま、 「……それ、本当にお母さんにしてもいい話?」  わけのわからない返しをされた。 「なに? どういう意味?」 「だからその……ね、たとえるなら、階段を昇っちゃったみたいな」  ガシャーン!!  不意に、思いがけない方向から陶器かガラスが割

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #2

第一章・小さくても勇気1  久奈浜学院FC部が創部してはじめて臨んだ夏の大会、そしてお疲れさま会から数日経った夜のこと。  せっせと閉店したましろうどんの後片付けをしているお母さんを尻目に、誰もいなくなった客席で頭を抱えている美少女がいた。はいわたしです。……なんて投げやりになるくらいもう自分でも抱えきれなくなっていて、お母さんに話を聞いてもらいたかったわけで。  ちょっと前まではそんなことがあっても、この時間のお店に顔を出すとお母さん権限で強制お手伝いイベントが発生するの

蒼の彼方のフォーリズム - BLUE HORIZON - #1

プロローグ あとから考えてみたら、きっかけはきっとあのときだったのかなと思います。  夏休みに入ってすぐ、わたしたち久奈浜学院フライングサーカス部にとって、はじめての夏の大会が終わった。結果、一緒にFCをはじめたみさき先輩、明日香先輩を含む久奈浜ビッグ3の中で最強の一角と噂されたわたしだけが一勝もできなかった。  あ、大丈夫。違う世界線に迷い込んだわけじゃありません。こんな軽口を叩いちゃうときは、実はけっこう落ち込んでるんです。だけどそういう姿をあまり人に見せたくなくて。同情