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第二十二話①「ブランド、そしてコンセプト」2024年6月19日水曜日 快晴

 シェアリングコーヒーショップの広告宣伝はInstagramで出店者が行わなくてならない。そのための店舗ロゴが必要であった。
 そのロゴデザインを依頼するために出かけた。雨の昨日から今日はさわやかな快晴だった。梅雨の湿気はなく、心地いい風が吹いている。

 少し前の夜。
 ロゴ作成にあたってフリーのデザインサイトでサンプルをぼんやりと見ていた時、N美さんが私のスマホをのぞき込んで言った。
「ブランドやコンセプトをきちんと見極めたほうがいいですよ」
私はベッドに転がったまま答える。
「そんなの、なんとなくでいいんじゃない?ずっと続ける店かどうかもわからないんだから。自分の好きなコーヒーやワインを出すだけだよ。このサイトの無料サンプルから適当にそれっぽいやつを作るよ」
「無料サンプルでも、ロゴだけでなくて提供するものとか、自分のキャラクターと店舗の雰囲気とかをみて全体に統一感を作らないと」
「いや、だからさ。シェアリングなんだから自分で好き勝手できる部分はそんなにないんだよ」
 N美さんは頑なに譲らない。
「だから、なの。シェアリングで同じ店舗、同じ内観、同じ設備、同じ備品なら別のところで差別化しなきゃ。そこにサトウさんのお店の個性が出るんでしょ?ロゴや提供するコーヒーやワイン、全てに統一感がないと個性も特色もなくなっちゃう」
 N美さんは世界的な老舗ハイブランドのショップスタッフだったことがある。その当時にブランドのイメージ戦略の重要性を徹底的に叩き込まれたそうだ。N美さんの言葉に熱がこもっていた。いつもは私のやることには基本的に肯定的な人だ。私に従順であるというのではないし、逆に興味がないわけでない。私だけでなく、他者を自分とは違う、一個の独立した人間であることを認めてくれる人なのだ。だから、このように自分の意見を熱く語るN美さんはめずらしい。
「船長とクッキー製造を立ち上げたとき、コンセプトやブランドイメージをかなり時間をかけて話し合ったんです。それこそ『お菓子作りが好きな女の子が作ったお店』みたいなスタートだけど、そこにブレは作りたくなかった。ここにブレがあると、『これでまあいいか』みたいなクッキーや会社になってしまうのがわかっていたから」
 ハイブランドというのは高級なだけでなく、そのブランドイメージをきちんと守り続けられることへの称号なのだろう。N美さんにはその考えが染みついている。
 私は寝転がっていたベットから起き上がった。船長とN美さんの情熱は知っていた。その立ち上げ当時のことを持ち出されると居住まいを正さざるを得ない。
 もう一度、自分のできること、やりたいこと、やれる環境を考え直すことにした。


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