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第二十一話「シェアリングコーヒーショップ 説明会」2024年6月14日金曜日 夜 曇り

 一睡もできないまま朝を迎えた。
 昼に健康食材カフェのアルバイトがある。夕方前までの5時間勤務。不眠のままの勤務は五十過ぎの身体には堪えた。眠気はそれほどではなかったが、とにかく身体が重かった。
 勤務後まっすぐ帰宅し、早めの夕食をとった。19時からシェアリングコーヒーショップのオンライン説明会があるのだ。夕食後にベッドで少し微睡んだ。オンライン説明会といえど、睡眠不足の顔は悪印象だろう。
 10分前に着替えを済ませ、接続を待った。
 時間ぴったりに説明会は始まった。
 参加者は私一人。
 説明者はシェアリングコーヒーショップの創業者の若き経営者だった。Tシャツではあるが清潔感のある姿は最近のコーヒーシーンらしい雰囲気だ。
 彼は自らの創業の意図を説明してくれた。
「飲食業というのはもちろんおいしさや楽しさを提供する場所で、そして多くの腕のある料理人やサービスマンがいるんです。でも彼らが自分の店を持っても多くが早期に廃業してしまっています。腕が良くても経営ができない、マーケティングをしていない、試行錯誤をするための資金がないからなんです」
 ネット上で彼のインタビュー記事などを読んでいたので予備知識があった。彼は続ける。
「低予算で試行錯誤ができる場を提供したい。そこからこの事業はスタートしました」
 私は頷く。
「同じ立地、同じ設備。もちろんみんな美味しいものを提供している。でも、行列になる店、満席になる店がある一方でそんなに売上が上がらない店舗もある。提供しているコーヒーや食べ物だけでない違いがあるはずなんです。それを見極める時間を僕たちは提供しています」
 彼はそれを「自分の現在地を知る」と表現した。
「いざ、開業したら自分の現在地を考えるなんてなかなかできないですよ」
 起業を考え始めてから、個人事業主の人の話がよく聞こえてくるようになった。彼らは異口同音に言う。
「スタートしたら走り続けるしかない。止まった時は廃業する時」
現在地を知った時は同時に廃業の時になるのだ。
 シェアリングコーヒーショップ。有意義な事業だと思う。
 最初はチャレンジ出店という形になるそうだ。その枠は意外にも多く用意されていた。
 早速、出店日の予約をしよう。アルバイトのシフトの相談をしなくては。
 最後に彼は「出店に際してひとつだけ条件があります」と言った。
 ドキリとした。「それはなんですか?」
「食品衛生管理者資格を取得してください。僕たちは同じ店舗で複数の店が出店します。一つの店が食中毒を出したら、みんなが出店できなくなるんです」
 同じ夢を追う仲間の足を引っ張るわけにはいかないということだ。
 オンライン説明会を終えるとすぐに、eラーニングの食品衛生管理者講習に申し込んだ。


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