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私が今生きていなかったら、の世界線の話

拙い文章ですが、お時間ある時にぜひ読んでいってくださる人がいたら幸いです。
どこにでもいる私文大学生の人生の一部をもとに、小説にしました。
読みにくかったらすみません。


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これは、「永遠」という言葉に縋りたかった僕と
「一瞬」という言葉に縋りたかった、君の話。
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夏が終盤に差し掛かる9月。
夏休みが明けて、先週から高校では新学期が始まった。
刺すように降りかかる日差しと、鬱陶しい蝉の鳴き声と共に通学するのは
新学期始まって早々、心が折られそうになった。

僕は今日も変わらない休み時間を過ごしていた。授業終わりのチャイムと同時に机に突っ伏して、クラスメイトのする話を垂れ流しに聞く。
気になっている同級生の話や、バイトの話、今季のドラマについて、、、
皆、飽きもせず毎日語り合っている。

別に、僕に友達がいない訳でもなくて、クラスには頻繁に遊びに行くような奴は何人か居た。だけどただ、途切れることのない世間話に耳を傾けるのが好きで、休み時間はこうして過ごすことが多かった。


『ねぇ、生まれ変わったら何になりたい?』

休み時間になると、君は時々そうやって僕のところにやって来て、
正解のない問いを投げかけてくる。

「んー...電車。電車がいい。」

決まった時刻にいくつもの駅を行き来して、それで誰かのためになれるところがいい。無心で、ずっと一定で、ずっと変わらない気がするから。

『えぇ、電車?たまに人轢くよ!それでもいいの?』

ちょっと意地悪そうな顔をして、君が言った。

「うん、いいよ。」

そんなこと、考えもしなかった。でも言われてみれば確かに残酷な乗り物だと思ったけど、後から変えるのも格好悪いし、強がってそのまま意見を突き通した。

『そういえばさ、アオイは夏休み何してたの?』
「特に何も?」
『じゃあ、今年は花火、見てない?』
「見てないね」
『勿体無いなあ。花火を見ない夏休みなんて、夏休みじゃなくない?』

アズマはそうやって勝手に僕の夏休みを全否定してきた後、花火の良さについて語り始めた。どこまでも自由すぎる。

『私さ、花火が消えた後の空が好きなんだよね、』
「それただの空じゃん」
『違うの!花火が咲いた後の、何もない空が好きなの。あれだけ派手に音を立てて散るのに、空は何事もなかったかのように真っ暗になる。良さはそのギャップだよ、ギ ャ ッ プ !』

気になる異性のことを話すみたいに、彼女は必死になって花火が散った後の空について繰り返し語っていた。そんな姿が無邪気で可愛かった。

花火を見ないだけで全否定されちゃった、僕の夏。


夏が明けて、日本の季節は秋を迎えた、あれだけ強かった夏の日差しも、うるさかった蝉の声も、気づくとそこにはもう見当たらなかった。
代わりに通学路の街路樹が時間をかけながら緑から黄へ、黄から茶へと少しづつ色を変え、僕に季節の移り変わりを教えてくれた。

この頃の僕は、彼女との間に違和感を覚えていた。たまに僕のところへやって来ていた休み時間。彼女は徐々にその頻度を減らし、季節が秋になる頃にはすっかり来なくなっていた。

とは言っても、2人の間に何があった訳でもなく、クラスは同じだから話さないこともない。ただ、あの休み時間だけがなくなった。普通なら急にこんな状況になったら傷つくんだろうけど、僕は傷つかなかった。

むしろ能天気な僕は、もしかして僕の恋心に気づいてくれたんじゃないかと期待してしていた。僕からの好意を感じ取って、向こうも意識してくれるようになったんじゃないかと本気で思っていた。そしてこれから始まるであろう甘酸っぱい恋愛を想像しては、1人で胸を踊らせていた。距離の近すぎた友達から、少し他人になった異性としての関係性を勝手に楽しんでいた。

暫くして、僕は彼女を地元に呼んで遊んだ。
ただ本当にあの休み時間がなくなっただけで、他は何も変わらず。
話を始めれば気は合うし、仲は良いから遊べる間柄ではあったのだ。

そこで、僕は告白をした。
出会った日から今までのこと、感謝とともに自分の好意をそのまんま伝えるために
深夜に用意した手紙。

本文は、『アズマへ』から始まり、締めは『僕と…』で終わらせた。

「付き合ってください」

手紙の中じゃなくて、どうしても口で伝えたかった言葉。
やっと気持ちを伝えられた。



『、、、ありがとう、ありがとう、ありがとう。』

と何度も繰り返し感謝の言葉を口にして、その場で彼女は泣き出した。
いや、泣くほど嬉しいんなら、ありがとうより先に『付き合おう』や『良いよ』の一言くらい言ってくれても良いのに。そんな思いが脳内を掠ったけど、流石にそれはせっかちすぎるから我慢した。

そして彼女はそのあと、こう言った。

『私、生きててよかった』

一語一句違わず、こう言った。
この言葉を聞いた僕は、僕の告白でそんなに喜んで貰えるのなら
毎日でも、毎時間でも、毎分でも告白してあげたいと思った。
この数十秒間の間に毎分を彼女に捧げる覚悟さえしたのだ。

でも結局、その覚悟はまたそれから数十秒で儚く散ったんだけど。
泣いた後に彼女は
『でもごめんね。付き合えないや、告白してくれてありがとう』と返事をくれた。

呆気ない。まさに一瞬だった。
僕の恋心はこの数分で、終わりを迎えた。
そんな、高二の秋。


この年の冬は、骨の髄まで染み入るような寒さだった。
風も強くて、月が雲にかかることなく毎日明るく輝いていた。
冬は乾燥するけど晴れが多くて、自然と気持ちを前向きにしてくれた。

そんな冬の空模様のように、この頃の僕と彼女の関係性は安定していた。
相変わらず、ほどほどに仲良くしていた。

勿論僕は振られてから、あの違和感は勘違いだったのか、、と悲しくなったし
惨めな気持ちになった。そしてそれを超える恥ずかしさが後から波のように押し寄せてきて、学校で彼女に会うのが億劫になったりした。

でも彼女は何事もなかったかのようにしているから、なんとか僕もあれから変わりなく過ごせている。

でもそんな日々も長くは続かなかった。
終業式目前、突然彼女は学校に来なくなった。

良いお年を、と声をかけることなく冬休みを迎えた。
そんな、冬だった。


寒い冬を超えて、今度は春を迎えた。
春は気まぐれだ。天気がすぐ変わる。

そして僕の心も、呑気な心地いい晴れ間から、
嵐のような絶望に襲われることになった。

リビングに流しっぱなしのテレビから聞こえてくるニュース。
高校の近くの駅、見知った名前、乗り飽きた色のあの電車。

尻田アズマさん、17歳がーーーー
電車に撥ねられ、その後死亡が確認されました。


アズマが、死んだ。即死。
わざわざ、あの駅を”通過”する電車を選んだらしい。
ホームに止まる電車より、ずっとずっと速いから。

それは、紛れもなく一瞬だっただろう。

そういえば、アズマはいつでも一瞬を求めていた。
というより、彼女はずっと続くものが嫌いだった。
だから自然と、真逆の一瞬を求めていた。


いつだって君は花火が散るのと同じような一瞬を好み、
花火が散ったあとみたいに、何事もなかったかのようになることを望んだ。

でもアズマ、君が死んで、何事もなかったかのようになんてなってないよ?
駅のホームは混乱したし、乱れるダイヤをいち早く元通りにするために作業が進められた。沢山の人が何事も、あったよ。

そしてなにより僕は辛い。ずっと。
何故、君が鉄の塊に身を投げたのか、僕は知らない。
クラスの奴らだって、知ってそうになかった。
なんで、君は一瞬の死を選んだの?

僕は、彼女について知ることができていなかった。
ニュースを見てからほんの数秒で、沢山の疑問が頭の中を駆け巡った。


桜が散るのが、例年より早かった。
そんな、春。

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アズマの葬式。彼女の母親から日記を受け取った。
僕にだけ読んで欲しい。と言っていたらしい。

日記には、アズマの苦しみがここぞとばかりに詰め込まれていた。日記の始まりは、夏の終わりの日。最初は途切れ途切れで数日おきに書かれていた。
しかし僕が彼女との間に違和感を覚えた秋頃には、毎日忘れることなく文章が綴られていた。


彼女は、父親の不貞行為を知ってしまった。
日記の最初の方には、初めて母親に見せられた父親の不貞行為の証拠写真や現物について、記録してあった。

『ブランドもののペアリングの片方。女物は60万。父親は男物の方のみを所持。こっちは40万。ゴム、バイアグラ。』

あまりに生々しい言葉の羅列に1ページ目から言葉を失った。彼女の苦しみはその日から始まり、間違いなく彼女の体や心の全てを着実に蝕んでいった。

それからの日記には、母親から毎日聞かされる父親の愚痴と、誰にも相談できず抱えきれなくなっていく苦しみについて語られていた。それと、バイト先で作る笑顔の辛さや、自身の体の異変について細かく書かれていた。

間違いなくそこには、必死に1人で戦った痕が沢山残されていた。

彼女の体は、ボロボロだったらしい。

ストレスによる全身の痒みと、掻き壊した場所から溢れる止まらない分泌液。
掻く快感を覚えた彼女は、気付かぬうちに自らの手で自傷行為をしていたのだった。

快感と、痒みと、止まらない分泌液への不安と、痛み。
寝返りを打つと、掻き壊した場所が痛んで目が覚め、秋頃からもう既に彼女は満足に寝れていないようだった。

そして日記に書かれた日付が冬になってくると、そこには死を連想する言葉ばかりが並べられていた。

・・・このまま目が覚めなきゃ良いのに、と思って寝た。・・

僕の知らない彼女の心は、思ったよりズタボロだった。



書かれた日記の最後のページ。

『バイバイ、永遠に』


それだけ、たったそれだけ残されていた。


君はいつも「一瞬」という言葉に縋った。
人生を終わらせる時さえも。
そして僕はいつも「永遠」という言葉に縋った。
僕は思う、君はきっと「永遠」が怖かったんだ。

”変わらないもの”と信じたかった家族の形を、父親によって全て覆されて。
きっと永遠を信じられなくなったんだろう?
でも。僕は君と付き合って永遠を知りたかったよ。
花火見たいな恋愛にするつもりなんて、これっぽっちもなかった。

今更こんなこと言っても、遅いのかな。

そういえばさ、君は死ぬのに”即死”を選んだよね。
そしてその方法に、電車を選んだ。

もしかしてそれは、僕に対する皮肉だったりする?

僕の望む来世は、ずっと変わらない”永遠”なんかじゃなく
むしろ”一瞬の死”を生むものだと示して、
”永遠”なんてどこにもないよって言いたかったんじゃない?

そんな気がする。


でもね、僕は来世、電車になりたい。
君を苦しみから”一瞬”で救えるのなら、それでいい。
現世の僕には、出来なかったから。

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読んでくださった方ありがとうございます。
実はこの話は、私が生きていなかったら、の世界線の話。

アズマは年齢さえ違えど、私の分身です。
実際に家族がぐちゃぐちゃになって、体が壊れて、
日記に『このまま目が覚めなければ良いのに』と残したのもわたし。

今、何事もなかったかのように生きれていることに感謝しながらも、
あの頃の悲しみや苦しみが、いつか形をなくしてしまうと考えると嫌だった。
だからnoteに書きにきた。

アズマの来世は何かな、、、どうか報われていますように。

しゃけ🐟

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