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好きになった人が父と似ていた話

わたしには3年と少し付き合っている彼がいる。

彼はわたしの父と似ているところがある。一つは身長である。

彼とまだ付き合う前、2、3回目のデートの時に身長の話になった。
彼の身長が父と同じ179㎝と聞いた時、なんだか嬉しかった。

少し違ったのは、彼は自分の180㎝まであと1㎝足りない身長をちょうどよいと思っていて、父はわたしが高校生になるまで「お父さんの身長は180㎝だ」と盛っていた点だ。

高校から帰ってきてダイニングテーブルの上におかれた父の健康診断結果の用紙に、身長:179㎝と書いてあるのを見たときは、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気分になった。
本当の身長がばれてからの父は潔く、「まぁ、ほぼ180㎝のようなもんでしょっ」とおどけていた。
ちなみに、わたしが海外旅行に行く際に貸してくれたスーツケースには、なぜか4つも南京錠がついていて、「ロック番号は全部俺の身長だから!」とすべての鍵の番号が1・7・9に設定されていた。絶妙なチョイスである。


もう一つ、彼と父が似ているところがある。

それは、本人はいたって真面目なのに少し残念なときがあるところ。

彼とわたしはいわゆる遠距離恋愛をしている。
先日、彼に借りたいものがあり、宅配便で送ってもらったことがあった。

「荷物と一緒にお菓子も買ってつめた」

というので、何を入れてくれたのか聞くと、

「多分、好きなやつだと思うで。前に好きって言ってたから」

と自信ありげな様子。

数日後、届いた荷物を意気揚々と開けると、そこには“キャラメルコーン”“ポップコーン(バターしょうゆ味)”が入っていた。
確かに嫌いじゃないけど…好きとも言ったことないな。美味しいけど。
なんでこれが好きだと思ったんだろう。美味しいけど。

そのときに、少し前にした会話がよみがえった。

一時期、わたしはあるお菓子にドはまりし、一日一袋ペースでもしゃついていた結果、人生で一番ムチムチパンパン体型へと変貌したことがあった。

そのお菓子が、

“キャラメルポップコーン”

である。


おそらく彼はそのエピソードを思い出し、
“キャラメルポップコーン”ではなく、
“キャラメルコーン”“ポップコーン(バターしょうゆ味)”という
絶妙におしいものを送ってくれたのだ。
謎は恐らく全て解けた。ちょっとした探偵気分である。

その時、また父のことを思い出した。

小学生の頃、父が仕事で東京に行くことになった。
事前に「何か欲しいものあるか?」と聞かれた私は、
「人形焼きが食べたい!」と答え、人形焼き(と父)の帰りを心待ちにしていた。

何味の人形焼きを買ってきてくれるんだろう。
こしあんの人形焼きって美味いよねぇ、いや、カスタードも捨てがたい。
人形焼きって中身もだけどあの皮も美味しいのよね。なんの形のやつだろう…キャラ系かな、昔ながら系かな。
久々に人形焼きが食べられる喜びに満ちたわたしのボルテージは最高潮、そんなとき満を持して父が帰宅した。

「おかえりなさい!」よりも先に「人形焼きは?!」と鼻息を荒くして聞くわたし。

「買ってきたぞ」とドヤ顔の父。


そして、わたしに自信満々に差し出した箱には

“サザエさんのメープルケーキ”

と書いてあった。(※正式な名称を覚えておらず、ニュアンスです。)


………

………

………あれ?

いやいや、まさか、と思って食べてみる。

…うん、確かに見た目は人形焼きと似ているね。
でも、これは人形焼きじゃなくて、サザエさん一家の形をしたメープル風味のケーキだね。美味しいけど。
あんこもカスタードも入っていなくて、ふわふわだね。
そらそうよね、だってメープルケーキって書いてあるもんね。美味しいけど。

ふつふつと人形焼きが食べられると思っていたのに食べられないことへの悲しみが湧いてくる。
そして、人形焼きと瓜二つの風貌なのに、明らかに別物なところがさらに苛立ちを強くする。

田舎育ちで東京はあんまり行ったことないけど、多分、サザエさんのメープルケーキを見つけるよりも、人形焼きを見つけるほうが簡単なんじゃなかろうか?という素朴な疑問。

でも、「いやぁ~人形焼きなかなか売ってなくて。やっとみつけたんだから」と達成感に満ちた顔で話す父をみたら、これらの想いを伝えるのはなんだか可哀想な気がして、ぐっと飲みこんだ。

思い返せば、この時わたしは大人の階段を上ったのかもしれない。

そして、父がお風呂に入っている間に、母にこっそり「どうしてこんなに絶妙に違うもの買ってこれるんだろう…」とこぼしたのであった。

でも、なんだか憎めない。そんなところも似ている。


あと一つ、彼と父の似ているところがある。

それは、わたしの背中をサクッと押していくところである。

学生時代、わたしは本当に自信がなくて、周りと比べて焦っていて、迷いに迷っていた。でも、迷いまくりながらも自分にできるかどうかわからない進路へ挑戦しようと思っていることを、父に伝えた。

父は一言、

「やったらいいべ」

それだけ言って、それ以外何もいうことなく、ポカンとするわたしを気にすることもなく、そのままいつものように仕事に出かけて行った。

その「やったらいいべ」に背中を押され、やってみるべと思った私は、あーだこーだやってみた結果、ありがたいことに希望する進路に進んだ。

その数年後に彼と出会い、付き合い始めた。
付き合って2年後、わたしは就職活動をすることになり、この仕事に就いてみよう!と挑戦した結果、縁もゆかりもない地域で働くことになった。
一応補足しておくと、もし採用されたら縁もゆかりもない地域で働くことになる、ということが分かった状態で、そして彼にもその旨を伝えたうえで採用面接を受けていた。
でも、いざ採用の連絡が来た時に、これからは会うまで片道数時間はかかるようになってしまうことを彼は本当はどう思っているんだろうと不安になった。

その旨を彼に話すと、彼は一言、

「あぁ、大丈夫。いってらっしゃい」

というようなことを言った。

正直何と言われたかはよく覚えていないが、えっそれだけ?と拍子抜けしたのは覚えている。

「行かないでくれ」とか「本当はさみしい」みたいな、漫画みたいな展開になったらどうしよう…と少しでも思った自分があほらしくなるくらい、彼はさらっとしていた。「まぁ、会おうと思ったらいつでも会えるやろ」と、遠距離恋愛になることを大事とはとらえていないような様子だった。

でも、その「いってらっしゃい」で彼がポーンと送り出してくれたから、えいっと単身、行ったこともない誰も知り合いのいない土地に思い切り飛び込めた。

そして現在、悩んだり下手をこいたりしながらも、周りの人に助けてもらってなんだかんだ楽しく働いているんだと思う。

ちなみに父にわたしが見知らぬ土地で就職することを報告すると、同様に心配や寂しさなどは口にせず、開口一番に「(その地域は)冬、寒いぞ!」と言って、雪かき用のシャベルをくれた。

その飲み込みの速さ、適応力にはいつも感謝している。



今日は独身で過ごす最後の日曜日だ。

来週からわたしと彼は書類上、妻と夫になる。

別居婚なので、特に生活が変わるわけではないし、このご時世でしばらく会えていないまま、そして今後いつ会えるのかもわからないので、新婚感は恐らくあまりない。

でも、なんだかわたしたちらしい気もしている。


新婚がどれくらいの期間を指すのかはわからないけれど、新婚のうちに新婚旅行に行けるといいなぁ。

キャラメルコーンをしゃくしゃく食べながら、そんなことを考えている。


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