分岐点2

大学を辞めた後、私はフリーターとして世に放たれていた。大学生の頃から始めていた一人暮らしの家賃を賄う為、パチンコ屋にてホールのアルバイトをしていた。
今考えてみると、下手にコンビニに手を出すよりも時給が高く、そこまで仕事も難しく無く、更に感覚的にも苦ではなかった様に感じる。そこで働いていた2年という月日がそれを証明していた。
正直、今私が正社員として働いている今のこの状況の方が何倍も地獄である。
そして自由な時間が多かったからこそ、色々なことに挑戦できた。他にアルバイトを掛け持ちしたり、はたまた一本に絞り資格の勉強をするなど、自分に投資できる時間が多かった。女性関係が歪だったのも空いている時間と予定を空けられる手軽さが故である。
私は過去を美化しがちだが、この時期が一番私らしいと感じる。あの頃は楽しかった。

またもや大きく分岐した時期が、この就職というものだろう。ここまでくればもう去年の話だ。
自由奔放な生活を見かねた親父が、流石に正社員にならないのはまずいと思ったのか、自身が働いている会社に就職しないかと提案をしてきたのである。親としての気持ちはわかるが、親父は過去のトラウマもあってか、似ている私に同じ状況には陥らせまいと躍起になっている。私は最初の方こそ就職する気は更々なかったが、この時期の親父は、ある程度資産運用にて貯蓄を蓄えており、そのやり方を教わるという「働きたくない」という私の意思を尊重してくれていた為、話を聞くことにした。だが内容は接客業に近く、今までのアルバイトの種類にて8割程が接客業であった私はもうそれには疲れており、オフィスワークで客と喋らない仕事がしたかった。
読んでわかる通り、我儘しかない。そこまで実力がある訳でもないのに、ただただ傲慢である。
自虐は済んだので続きに戻ると、結局のところ親父の提案は受けず、親父を黙らせる為にとりあえず何らかの会社の正社員になろうという目標ができていた。

何となくで応募したゲームテスターの面接にて、人事の代わりをする採用担当から半導体に関しての職務の方が稼ぎがいいと聞き、その仕事を探す方へシフトした。
色々な会社と面接をしていく中で私はバイトを辞めた。貯蓄はほぼなかったが、3社受かり、その中から選ぶことになった。この受かった会社の共通点は、正社員で人を雇いながらもその社員を他の会社へ斡旋するという、いわば派遣会社に近い。面接が終わったのにまだ派遣先の為に面接するのかと内心思っていたが、結果として、誰もが知る大手企業の下請けに配属されて、今に至る。

親父を黙らせる事ができた。最初の提案であった資産運用の話は、全く進展がない為、親父も忘れているのだろう。働いている今の状況は、他の記事を見ればわかる。安定はしている。だがそれと引き換えに時間と、“生きる”事への体力が蝕まれていた。
今私が所属している会社も含めて、何故か皆「手に職をつけたい。キャリアを積みたい。」と考えている様に見える。
正直なところ、私はキャリアや仕事に対するやり甲斐などには全くもって興味がない。人間に関わらず、生きとし生けるものは皆平等に死ぬのである。
仕事なんぞに明け暮れ過ぎて生きている時間を殺すぐらいなら、さっさと辞めて自分の好きな様に生きたい。

金がない状態はいくらでも経験してきた。
私の中では、金が無いことよりも仕事によって自分の人生が死んでいく事の方が余程耐えられない。

長々と就職が決まった話が出てきてはいるものの、何故ここが分岐なのかというのがまだ出てきていない。
実は就職の提案を受けた時、また違う提案が私に届いていた。
当時から付き合いのあった女性から、私にヒモにならないかと提案してきていたのである。
今となって考えると、クソみたいな地獄で働くよりも何倍もいい選択肢だったと思う。世間体は知らないが。
もしくはその女性と同じ職場で正社員として働くかの選択肢、それと並行して、一人暮らしを辞め実家に帰り、今度は自室にて資格の勉強をしようという選択肢もあった。
色々な選択肢の中で自身で面接し就職するのを選択した理由、はたまたそれ以外を選ばなかった理由は私の中でしっかりとある。
私でもやはり世間体は気にする。だがただ純粋に、本来敷かれていたレールにまた戻り、走ってみたいと思ってしまった。結果として、精神科に通いそうになるぐらいに自分にあっていない事を悟ったのだが、それもまた良い経験であると言えるのであろう。自虐的な意味も、本来の意味も含めて、私は社会不適合者なのだと思った。

就職する選択肢を選んだが、何故付き合いのある女性の職場へ行かなかったのかについては、仕事の内容的に私に合う気がしないのと、その会社のサービスに時代がついていけない気がしたからである。内容は伏せるが、実際に現在は倒産している。

資格の勉強、これはフリーター真っ只中でたまたま興味が湧いた法律に関しての勉強である。「法曹」を目指していたが、法学部出身でもなければ、ロースクールに通える資金もない為、言ってしまえば無謀であった。

先程書いた通り、ヒモになる選択肢は今となって最高だが、今その打診が出たとしても断る様に思う。結局のところ私の使う金は自分で稼ぎ、私の生きる責任は全て、一つ残らず自分で取りたいという考えがある。ヒモになれる人間と私とではその考え方が違うのだろう。

そしてまた、私は分岐点に立たされている。
今度はこの就職よりも選択肢の幅が広い。それ程までに自由な選択が出来そうである。
親父、頼むからそっとしておいてくれ。

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