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キリスト教にまつわる映画この一年

去年の5月初旬、First Reformed 魂のゆくえを観た。


実に暗い気持ちになるような始まり方と抑鬱的なスクリーンの背景そして整いすぎたプロダクションデザインがより気持ちを重くさせ、果たして私は最後までもつのかと心配になるほど。良い意味での絶妙な世界観はこの美術を担当した Grace Yun にある。下の写真で御覧いただけるように、シンメトリー且つディテールにセンスが込められていて、是非ご興味ある方はホームページも参考までに。

主人公の神父がカトリックと社会における問題との矛盾にどんどん蝕まれていくのだが、Ethan Hawke の演技力と眉間の皺が引き立つ名演ぶり。Oscar2019 best actorに彼が選ばれなかったことが悔まれる。
また、実に妙なエンディングとSF感で異空間へ連れていかれるようなとても新鮮な気持ちになれる映画だった。
そして個人的に人間によって起こっている気候危機の現実、それによって苦悩に陥いる人々のことをより深く考える良いきっかけにもなった。

言わずもがな、監督は Taxi Driver の脚本で有名な Paul Schrader 監督。

終盤にイーサン・ホークとロバート・デ・ニーロがダブるシーン有り。

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続いて、私のはじめてのNetflix 視聴だった、The two popes 2人のローマ教皇。

趣味のピアノを弾いたり、お茶目なタイムラインで知られる、Anthony Hopkins のtweetで予告を観ていて、愉しそうな映画かもしれないと第一印象で思い、心待ちにしていた作品。映画館のスクリーンで観るか迷った挙句にホームシアターとなった。
Anthony 演じるベネディクト16世の卓越した存在感が有りながらも先日のアカデミー賞を御覧になった方はお分かりになると思うが、実際は Jonathan Pryce が主演で教皇フランシスコを演じている。こちらも映画を知る前に演じられる側と演じる側の2人の顔が並んだ写真を何かで見て酷似っぷりに笑った。
堅実なドイツ人と太陽のように明るいアルゼンチン人の2人の人間として、そして計り知れない歴史上の哀しみも背負った者同士の友情が描かれている。
メインは教皇フランシスコなので、半分くらいアルゼンチン🇦🇷が舞台でスペイン語なのも個人的に訪れた経験のある街なので思い入れが深まった。
英国の誰もが知る名優2人の役者魂が光る。
個人的に Jonathan Pryce のスペイン語訛りの英語での演技に驚かされた。
観ていて、可笑しくそして哀しく、最後は心が温かくなる、お気に入りの映画となった。

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最後に、巷ではcovid-19で大騒ぎのなかどうしても映画館の大きなスクリーンで観たかった A Hidden Life 名もなき生涯を時間を見計らい午前最初の回で観た。

名匠 Terrence Malick 監督の作品。
彼は表舞台に出ない監督として有名で、他の作品を観ても思想的なもの、信仰心強いイメージが有る。祈りのイメージ。彼自身がハーバードで哲学を修め、敬虔なカトリックとのこと。
それは、70年代に撮影した、Days of Heaven 天国の日々でも浮かび上がっていた。
彼は映像の魔術師とよく呼ばれる。今回も山深いオーストリア🇦🇹の大自然のなかで自然光のみで撮影された映像美は圧巻のひと言。
隣国であったナチスドイツによってこの美しい映像が侵されていく。
主人公はカトリックの教えに従い、意思を貫く。

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これは実話である。

映像の魔術師は決して素通りしてはならない1人の生涯を言葉通りのマジックで昇華させた。

字幕は英語のみでドイツ語は字幕無し。
これも全く自然で、真に貫く心を描いた映画にはあまり言葉は必要なく、大きいメッセージが詰まっていたように感じられた。
オープニングもエンドロールも美しい。
リスペクト。率直にその言葉を申し上げたい。

これを観るにあたって、年明けによく連絡取り合う海外の友人にお薦めしてもらっていた映画だったので、感謝している。

この1年で観た、この3本の映画に共通しているのは歴史上、また現代におけるカトリック教区内の問題と矛盾。
これは今のこの混乱の時代に無くてはならない問題提起として捉えることができる。
私はカトリック教徒ではないが、他の宗教の仕組みや歴史的な悲劇を学ぶことは人との繋がりの中で極めて重要だと感じている。

身内の法事の際に地方の住職がインド・コルカタにあるマザー・テレサの死を待つ人々の家に訪れた話をして下さったことがあった。お斎の際、亡くなるまで手を握って看取ってあげる話をその場のみんなで聞いた良い思い出だ。
曹洞宗の住職がそのような他の宗教の話を法要の場で話していたことが妙に新鮮で感銘を受けたことを覚えている。
他を知る、学ぶこと。
私は信仰も敬虔のけの字もないが、そのお坊さんのことも1人の他を知る人間として、尊敬に値すると考えている。

実は、個人的?な、カトリック映画ブームはまだ続いていて、 François Ozon が昨年のベルリン国際映画祭に出品し、話題になった Grâce à Dieu。

これを観てからまとめても良かったが、まだ日本での公開時期が公になっておらず、いつになるのか掴めない。
こちらも数年前にカトリック教区内の司祭が起こした許すことの出来ない、児童に対する性的虐待事件の実際が基になっている。正にフランス発の男性のMeToo映画。さすがにフランス語は字幕を待つしか有りません。
フランス映画の字幕といえば、Legend寺尾次郎さんが懐かしくなる。

Ozon監督の短編映画を観たあの日から早いもので20年。新作を毎回楽しみにしている。
最近は英語圏以外に関わらず、日本での公開がとても遅く感じ、このような社会派映画の場合は特に早く焼立てほやほやのうちに観たいと切に願う。


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