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次世代への伝言

「次世代への伝言 自然の本質と人間の生き方を語る」 宮脇昭(植物生態学者)×池田武邦(超高層建築家)対談
より

本書は、長崎県西海市西彼町にある、邦久庵や、ハウステンボスの設計にかかわった、超高層建築家の池田武邦さんのまえがきから始まる。

現代の科学・技術の発展は目覚ましい。もはや人間は自然のシステムを超えて、何でもできるような錯覚にとらわれている。死んだ材料で作ったロケットは月まで行ける。しかしそれを支える人間と環境や自然の揺り戻しとも言える必ず襲う大震災、大津波、大火などの自然災害に対して、私たちはいかに無力か。これほど科学・技術が発展しているにもかかわらず、人間の命がいかに儚いものであるかということを、忘れた頃に思い知らされる。

今や、私たちは、刹那的には豊かなモノとエネルギーと経済に支えられ、最新の科学・技術、医学の発展の上で、すべてが人間の思うようになるという錯覚・傲慢さを捨てて、もう一度謙虚になって、自然の掟に従って確実に未来に向けて生きてゆかなければいけない。世界各地で起こっている戦争や様々な社会問題だけでなしに、すべての人間は、自然の掟・システムの中でしか生きてゆけないという冷厳な事実を再確認し、今私たちは何を考え、何をなすべきか。

500万年前に地球に誕生した人類は、今、食物連鎖のトップに立ち、好きなものを無造作に食べ、まるで生物社会の覇者のように振る舞っている。物質的には、地域により差はあるが、かつたの人類が夢にも見なかったほど豊かになった。しかし、それでもなお満足せず、さらなるモノや金の豊かさを求めてあくせくし、情報洪水の中で漠然とした不安を抱えて生きている人も少なくない。人間は、とくにわれわれ日本人は、どうも目先のことにこだわりすぎる。40億年前地球に生まれた原始のいのちが連綿と続いてきて、それが未来に続いていく一里塚として、宇宙の奇跡として、今、自分が生かされている。そのいのちの尊さ、素晴らしさ、そして儚さ、厳しさが顧みられていないのではないか。

戦後民主主義という波の中で、自分主義、自己主張のみに汲々とし、派閥、党派の利害に腐心している人たち、戦中戦後の厳しい状況を経験していない若い人たち、そして日々縦割りの教科学習に追われている学生さんたち、さらには生きる意欲を失いかけている人すべてに、ぜひ読んでいただきたい。命をかけて生きてきた池田さんの実体験を語る言葉は、万言の図書にも値し、次世代へのき貴重な伝言である。



印象に残ったのは、雑草の研究からはじまり、全国の植生、照葉樹林の森づくりの普及に取り組んできた、生態学者の宮脇昭さんの言葉だ。

(現場に出ないで限られた時間と空間の測定値をコンピュータで計算して予測する科学者に対して)

まさに私たちは、点からローカル、ローカルからグローバルに広がる広大な地球空間と40億年続いてきたいのちの歴史との接点にいるわけですから、その膨大なものの中のごく一部をとりあげて、それを九牛の一毛以上に見て、それでいろいろ予測してみてもなかなか確実に当てるのは難しいでしょう。もちろん地球環境の将来を予測することは大事ですが、人類の未来について都合良く確実に予測するということは、当分無理でしょう。

では、どうしたらいいのか。それは、やはり現場に立ち返ることです。自然を守る、残すなんて粋なこと言うだけでなく、われわれ人間も自然の一員ですから、自ずから再生可能な自然の力を信じて、現場へ出て、本物のいのちの森をつくることです。

よく「社会貢献として木を植えます」と言われるのですが、私は「それだけではありません。あなた自身が自然の一員であり、生態系=エコシステムの中で、どんなに地団駄踏んでも森の恩恵を受ける寄生虫なような立場でしか生きていけないのですから、木を植えるのは、あなたが生き延びるためであり、あなたの愛する人が、家族が、あなたの会社が生き延びるためです。たとえ会社の景気が多少どうであろうと、本物のいのちの森をつくってください」とお願いしているのです。

環境の危機と大騒ぎしていても、みな自分は生き延びると思っているんですね。しかし生物は死んだら生き返らない。今の人たちは生きもののいのちの尊さ、はかなさ、厳しさが分かっていないんです。最近の社会を見ていると、そう思いますね。

日本では、金がない、思うようにならないということで自殺する人が毎年3万人もいて、それが10年以上も続いている。あるいは子どもにちょっと問題がある、言うことを聞かないなどいって、親がわが子を虐待したり殺したりしている。いったいどういうことかと。経済も大事ですが、モノと金とエネルギーだけでうまくいくと思ったら大間違いです。幸福ということがわかっていないということです。これを多くの人たちに、現場で大地に手を接し、汗を流して木を植えながら分かって欲しい。本能に響くまで全身、全霊に刷り込んで欲しいのです。



次世代へ生命をつなぐために、大切な観点は何か。未来を担う全ての人に読んでもらいたい一冊である。
竹の家ライブラリにて。

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