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読書感想文003 ポストヒューマンの誕生〜コンピューターが人類の知性を超えるとき〜


ポストヒューマンの誕生〜コンピューターが人類の知性を超えるとき〜 レイ・カーツワイル
NHK出版 2007年1月25日出版

「西暦2045年、テクノロジーはシンギュラリティを迎え爆発的な速度で進化します。」

簡潔にまとめるとこういう本でした。
預言書という事になるのかな?
疑わしぃことこの上ないですなぁ。
しかし独自の理論や見解でそれに至る過程や根拠を示していて非常に読み応えがあります。

どうしてこの本を読んだのかというと偶然本屋の文庫版新刊の中で伊藤 計劃さんの"屍者の帝国"という本が目にとまりそれを読んだ事が始まりでした。
伊藤 計劃さんはすでにお亡くなりになっていて屍者の帝国もプロローグ以降は他の作家さんが引き継いでおり、つまり屍者の帝国は伊藤 計劃さんの遺作だという事を知りました。
そこで生前書かれた代表作を探してみると、ハーモニーと虐殺器官という本が見つかりました。
早速ハーモニーを図書館で借りました。
ハーモニーはちょっと薄めのライトノベルっぽい本でしたが、読んでみるとその洗練された世界観にタチマチ沼ってしまいました。
ネットでハーモニーについて調べまくると聞き慣れ無い言葉に行き着きました。
それが「シンギュラリティ」だったのです。

シンギュラリティについて調べてみると元々は宇宙の現象を示す言葉で、しかし近年は"技術的特異点"という意味合いで使われることが多い様です。
そしてその技術的特異点の第一人者が、レイ・カーツワイルさんでした。
私は再び図書館に赴き今度はポスト・ヒューマンの誕生という分厚い本を借りる事になるのでした。

ポスト・ヒューマンはある種のお勉強の本です。
どの様にシンギュラリティに至るのか?
何故そうなるのか?
それはどういう根拠で導き出された答えなのか?
収穫加速の法則なる独自の進化理論を基に読者に対して執拗に説いてくれます。

人類の進化=テクノロジーの進化であり、進化は6つのエポックで構成される。のだそうです。
エポック1〜3は地球が出来上がったり生命が誕生しちゃったり、人類が誕生しちゃったりした段階です。エポック4は文明の誕生とテクノロジーの進化で、2023年現在私達はこのエポック4の後半あたりにいると思われます。エポック5からはSFの世界。アニメ攻殻機動隊やサイバーパンク的な感じになります。
最後のエポック6は「宇宙の覚醒」でこれはスター・ウォーズやガンダムと考えて良いでしょう。(ガンダムたぶん違う.…)
6つのエポック中で重要ないくつかのイノベーション、親指の進化、言語による意思疎通とコミュニティの誕生。数字の概念と計算機の発明などで、それらはスマホやPC、エアコンに冷蔵庫、炊飯ジャーなど思いつく電化製品の殆どに備わっているコンピューティングする能力に繋がっていきます。
親指の進化により物を自由に掴める様になってから言語やコミュニティが生まれ、計算機が開発され、日常にコンピューティングがあふれる様になる過程を見るとそこに収穫加速の法則を見い出せると言うのです。
この収穫加速の法則というのは、あるイノベーションから次のイノベーションへ進むまでの間隔が新しいイノベーションを通過する度に短くなっていくというものです。

例えば旧石器時代の原人から様々なイノベーションを経て縄文時代頃の新人類に至るまで約180万年かかりました。
その後1万年程かけて次のイノベーション、人類初の大型コミュニティである国が誕生しました。
国がシヴィライゼーション開花(何それ)とかしながら発展しコンピューターが発明されたのが1900年代。
その後わずか100年程で人々にパーソナルコンピューターが行き渡り、ネットが一般化。
デスクトップから持ち歩けるラップトップが派生したかと思うとそれらはたちまちスマホとかいう手のひらサイズの筐体に収まってしまいました。

コンピューティング能力という面で見てもこの十数年間で驚くほどの進化を遂げています。
数年前に何かの記事で読みましたが、スマホの性能はコスト対比で毎年2倍の速度で成長しているとか。ホントかなぁ。
最近のスマホは少し前のラップトップと同等かそれ以上の性能を持ってますし、デスクトップPCは今や仮想現実と言って差し支えない体験を提供してくれます。げぇむの話ね。

たしかに収穫加速の法則は成り立つ様に感じられます。
テクノロジーは何となく足し算じゃ無くて掛け算的に進化してるのかな?と思えたり。かも知れなかったり。
例えば横軸を時間、縦軸を進化とした時、少なくとも直線グラフでは無く曲線グラフで描かれる発展をしているのでしょう。
ではその先には何があるのでしょうか?
本に書かれている様にグラフの先端が斜め上では無く真上を向いたらどうなるのでしょう?
横軸の時間は限りなく短く、縦軸の進化はひたすら上を目指して伸び続ける。
これがシンギュラリティです。

ここからSFの話が始まります。
シンギュラリティに至る重要なイノベーションにAIの誕生と進化があります。
そうです。「ちゃっとじーぴーでー」とか、「しり」とか、「おーけーごーぐる?」とか呼ばれる方々です。
すっかりお馴染みになったユーザーのオーダーに答えながら自身も自己学習してゆくプログラムたち。
このAIが進化して、最終的には自ら新たなAI≒機械生命を生み出し、生まれた新たなAIがさらに進化したAIを生み出しさらにそのAIがまたAIをAIして、、、、。

西暦2045年までに人類をはるかに凌駕するAIが誕生する。これが、預言されるシンギュラリティの正体なのだそうです。
そのイノベーションはAIだけで無くテクノロジー全体に及びます。
爆発的に進化したテクノロジーは人類(果たして人類と呼べるのか?)の永遠の繁栄を約束するのでした。めでたし。

もうとっても文章が長くなりそうなので細かいところは割愛しますが、いわく米国などが進めているブレインマッピングやら量子コンピューターやらがAIの爆発的な進化を促します。
進化したAIは先に書いた通り勝手に自己進化を続けてくれますが、その結果地球上やら宇宙空間やらのありとあらゆる物質がコンピューティング出来るようになったり、私たち人類は欠陥だらけの古い身体を捨て人体ver.2とかver.3に移行したり、私たちが意識とかアイデンティティとか呼んでるものが記憶と共にデータ化され色んな物(者?)にコピペや切取りペ出来るようになるのだそうです。

そうなってくると人類はゼロとイチの数字が及ぶあらゆる世界に存在するのでしょうか?
人類は己の意識や存在を虚数の塊にして生きていけるのですから、現実世界のみならずメタバースどころか好きなアニメの中とか8ビットレトロゲームの隅っこの方で存在する様な人も現れそうです。
そしてそこにはAIから派生した全く新しい知的生命体もあふれているのでしょう。
もはや人類とAIの区別も無くなるのでは無いでしょうか?

ええと、この様にシンギュラリティについて一生懸命考える人々をシンギュラリタリアンと呼ぶのだそうです。
何となく宗教じみてきました。
最初にこの本の事を"預言書"と書きましたが。
ここまで来て預言書よりもう少しだけいかがわしい本に思えてきました。
これは、預言書では無くて"福音書"なのでは無いだろうか?

ポストヒューマンが執筆されるずっと前に元カリフォルニア州知事で某ターミネーターのひとが仰られていました。
「アイルビーバック」と。
..................、
違います。
スカイネットが人類に核戦争を仕掛けた、という話です。
スカイネットは映画ターミネーターの世界の架空の産物ですが人類が産み出した自立型ネットワーク、つまりAIです。
それが核戦争を始めた挙げ句、わずかに生き残った人類のリーダーを抹殺するため元カリフォルニア州知事を過去の世界へ送り込むわけです。

何が言いたいのかというと、このポストヒューマンにはリスクが書かれていません。
厳密には書かれていた様な記憶もありますが、少なくともアルマゲドン(映画じゃなくて本来の意味)を警告する様なネガティブかつショッキングな事は書かれていなかったと思います。
しかし、シンギュラリティがアルマゲドンになる可能性は十分あり得ると思うのです。
そういった危険性、リスクもシンギュラリティには無限に含まていると思うのです。
ポジティブで輝かしい未来を敢えて強調した本書はやはり信者を増やすべく作られた福音書に見えてきます。その一方で少しだけ素直に読んでみるとリスクを恐れず輝かしい未来に向かって正しい道を歩んでほしいという願いが込められているのかな、とも思うのでした。

本当に恐ろしいのは神様気取りのAIや殺人ロボットでは無くて、私たち人類に違いないと確信します。
私たちはシンギュラリティに至り爆発的イノベーションとなるまでにそれを扱うに足りるだけの成長を種として遂げているだろうか?
輝かしい未来とは真逆の、シンギュラリティで最も悪いシナリオを引き起こすのはきっとヒューマンエラーだ。
そんなヒューマンエラーの一例と解決策が描かれていたのが、冒頭で紹介した伊藤 計劃さんの虐殺器官とハーモニーでした。
これについてはいつか読書感想文として投稿しようと思うのでここでは割愛。

最後にわたし自身はシンギュラリティに大いに期待しています。
少なくとも生きてる間にエポック5までは到達できるというのが個人的な予測。
懐疑的な部分も多いが、それでもその世界を見てみたいと思っている。
2045年までに巻き起こるおとぎ話に足を踏み入れた時、「思っていたのと全然違う」と、きっと驚くに違いないから。































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