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電子決済大国で思うこと#3 まもなく登場!?デジタル人民元(前編)

最近よく耳にする「デジタル通貨」について、皆さんはどのくらいご存知でしょうか?日本でも最近給与のデジタル払いが議論されているようで、話題になっていますよね。

わたしが現在住む中国では、2022年の冬季北京オリンピックまでに、法定デジタル通貨「デジタル人民元」を発行すると宣言されており、2020年の10月に深圳、12月に蘇州で、大規模な実証実験も行われました。「北京オリンピックではお財布要らず!?」といった記事も散見されました。

でも、中国って既に「お財布要らず」なんです。
ということは、中国がデジタル通貨を発行したい理由は日常生活の利便性を上げるためではありません。
今回このデジタル人民元について自分なりに勉強したので、この前編の記事で仕組みや発行の狙いについて、後編で課題や将来について、今現在思うところをまとめてみようと思います。


1.デジタル人民元とは?●●payとはどう違う?

デジタル人民元とは、中国人民銀行(中国の中央銀行、日本でいう日本銀行)のみが発行権を持ち、流通を管理し価値を担保する、法定デジタル通貨。中国人民銀行のデジタル通貨研究所穆所長も、「デジタル人民元の機能と属性は紙幣と同じで、形態がデジタル化しただけのこと」と述べています。つまり「デジタル人民元」は「お金」そのものです。
一方、中国ならAlipay、Wechatpay、日本ならPaypayに代表されるデジタル通貨は、もともとの法定通貨(人民元や円)を決済用に各社独自のデジタル通貨に変換したものです。Alipay、Wechatpay、Paypayの残高の価値を担保するのはそれぞれの会社であり、万一会社が倒産等した場合には価値は0になり得ます。
同じ「デジタル」マネーでも、デジタル人民元とその他のデジタル通貨には決定的な違いがあることがおわかりいただけたかと思います。


2.中国におけるデジタル人民元開発の背景は?

中国政府がデジタル人民元開発を進めるのには、以下の狙いがあると言われています。

(1)中国国内の資金移動の管理
(2)中国国内銀行のデジタル分野での競争力向上
(3)人民元の国際化の推進、国際社会でのプレゼンス向上

(1)中国国内の資金移動の管理
国内で使用する通貨を中央銀行が発行しシリアルナンバーで管理するデジタル人民元とすることで、資金の流れを管理することが可能になります。デジタル人民元にはブロックチェーン技術も活用されると言われており、これにより個別の取引を検索するときのデータ改ざんが困難になっているそうです。(ブロックチェーンは短時間に大量の即時取引をするような技術ではないようでした。どのような技術なのかは、また時間があるときに勉強したいです)

(2)中国国内銀行のデジタル分野での競争力向上
中国国民の決済におけるオンラインペイメントの割合は、2019年第四四半期で86%、内90%をAlipay・WechatPayが占めていると言われており、決済分野における両社の存在感は圧倒的です。今回、デジタル人民元の配布の過程に中国4大銀行をはじめとする商業銀行を関与させることにより、デジタル決済分野におけるAlipay・WechatPayの影響力を一部抑制し、相対的に中国国内銀行の競争力を上げる狙いがあるものと思われます。

(3)人民元の国際化の推進、国際社会でのプレゼンス向上
一番大きな目的だと思われるのが、「人民元」の国際社会におけるプレゼンスの向上です。中国では現在「一帯一路」という、シルクロードを中心とした巨大な貿易圏を作ろうとする国際間の試みが進められています。ヨーロッパやアフリカ大陸の発展途上国を相手に進められているこの枠組みの中で、デジタル人民元を活用することで、貿易決済における人民元の利用割合を高めて行こうとしています。
現在、国際間の貿易代金決済に一番多く利用されているのは、SWIFTという国際銀行間送金システムですが、こちらでの決済通貨は米ドルが多いので決済の過程で米国の商業銀行を経由することが大半です。米国内の銀行を経由する以上、米国政府は国内銀行に要求することで、取引に必要な条件として様々な規制や確認義務を課すことができるため、特に米国との関係が悪化している国や企業においては、常に間接的にリスクを抱えることとなります。
中国にとっても同様で、そのため2015年に中国は人民元決済システム(CIPS)と呼ばれる、人民元建取引の国際銀行間での決済システムを運用開始しました。
貿易の決済通貨としての人民元の利用率を高め、中国にとっての貿易における決済リスクを減少させるために人民元の国際化を目指すにあたり、デジタル人民元が一役買うことは間違いないと思われます。

3.デジタル人民元はどのように使う?

まず、デジタル人民元は以下の図のような二層構造で配布されると言われています。

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※各種報道資料を元に作者作成

中国人民銀行(中央銀行)は、民間の商業銀行やアントフィナンシャル、テンセントのようなノンバンクの決済サービス提供業者から100%の準備金の差し入れを以てデジタル人民元を発行します。そして、当商業銀行や決済サービス提供業者を通じて、個人・法人にデジタル人民元が配布されるという仕組みです。
これは、「デジタル人民元が既存の商業銀行等のビジネスを毀損する」といった意見や、個人の決済情報を国に管理されることへの国民の抵抗感に配慮した対応策だと言われています。現状の紙幣のときと同様の二層構造の運営体制を維持します。

そして、エンドユーザーの個人・法人は、スマホ内のデジタルウォレットからQR決済で支払いをしたり、端末同士を物理的に接触させることによりオフラインで支払い(Edy等と同様の決済方法)をしたりして利用します。また、スマホを利用しない人はプリペイドカードのようなものを使用し決済が可能となるようです。中国在住者は、Alipay,WechatPayの普及によりQR決済には慣れていますし、カードの利用についても従来の現金を持ち歩く方法よりユーザーとしては決済が容易になるため、中国社会においてはスムーズに受け入れられるのではと予想します。

以上が、私の調べた「デジタル人民元」の概要です。
次回、後編で想定される課題に対しての中国政府の動きや、Alipay、WechatPayと競合する?今後どうなる?といった内容について、現在の私なりに考えたことを記していきたいと思います。

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