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お客様のマイナスをプラスに持っていくこと

ちょっと前に思いやりとかホスピタリティの話を書いたけれど、ずっと忘れられないできごとがあるのでnoteにも綴っておきたい。

それはたしか5年くらい前。パートナーと四国旅行に行く飛行機の中だった。


近場の旅行は結構してたし、(お互い別々で飛行機に乗ったことはあるけど)一緒に飛行機に乗るのは初めてで、めちゃくちゃはしゃいでいた覚えがある。

初めての飛行機だね!こんな遠出初めてだね!とわくわくしながら空港に向かった私たち。


ところがチケットを発券したら、なんと席が隣同士ではなく、前後だった。しかもお互い3人席の真ん中。予約時に手続きをしていなかったのかもしれない。その時はまだその手続きについてよく理解していなかったし、とにかく困惑したことしか記憶にない。

いざ飛行機に乗って席に着くと、悲しみは倍増した。せっかく四国の旅行本も買って、どこへ行こう何しようと盛り上がるはずだったのに。さっきのわくわくもどこへやら。ひゅるると萎んだ。


今思えば、航空会社なり空港の人なりに相談すればなんとかなったのかもしれないけれど、時間がなかったのか思いつかなかったのか。とりあえずは飛行機に乗り込んだのだった。

私が前で、彼が後ろ。お互い手を伸ばし、握手で気持ちを紛らわす。まったく紛れない。で、まだまだ子どもだった私も耐えきれず、「初めての飛行機なのに…なんで前後なの…」と小さく愚痴をこぼしていた。


そのとき。すかざず一人のキャビンアテンダントが私たちの席に来て、こう言った。

「お客様、もしよろしければ、お隣同士のお席にご移動なさいますか?あいにく非常用ドアの近くしか開いていないのですが…もしそれでよろしければ、離陸後にご案内いたします。」


私も彼も、びっくりした。

もちろん大声で愚痴を言い合っていたわけでもないし、お互い手を伸ばしあってちょいちょいと握手していただけなのに、それでも私たちの問題に気づいたのだ。もちろん「お願いします」と即答して、離陸後に席を移させてもらった。

離陸直前の一番忙しいであろうその時に、わざわざ一大学生カップルに真摯に対応してくれた素敵なキャビンアテンダント。きっと、私の些細な表情や言葉を読み取って、そうしてくれたのだろうと思う。


隣同士の席に移動したあと、私たちは旅行本を広げ、これから始まる四国旅行に心を弾ませていた。そして、もうすぐ到着というところで雲を抜け、上空から地上の様子が見えてきた時。

「あの島なんだろうねー」「ここどこだろうね」と絶えず話していた私たち二人に、話しかけてきたキャビンアテンダントがいた。さっきのキャビンアテンダントだ。

その手には、日本の地図。

「今はちょうどこのあたりを飛んでいます。あの大きな島が、この島ですよ。」そう言って地図を広げて見せてくれ、とびきりの笑顔で丁寧に説明してくれた。

私たちはまたびっくりした。そして、ただただありがたかった。ただでさえわくわくする初の飛行機旅行。その記念すべき旅行の始まりを、この方は2回も、素敵な思いやりで飾ってくれたのだ。


昔キャビンアテンダントとして空で働いていた叔母が、ちょっと前にこんなことを言っていた。

本当にいいサービス、ホスピタリティってなんだと思う?それはね、お客様のマイナスな感情をどうプラスに持っていくかなんだと思う。プラスの気持ちをさらにプラスにするのは簡単だけど、マイナスの気持ちをプラスに持っていくのは難しい。だけど、そうできたら、それは本物のプロのサービス。そう思うんだよね。

その言葉を聞いた時、真っ先にこのキャビンアテンダントを思い出した。まさに、この『お客様のマイナスな感情をどうプラスに持っていくか』を体現しているキャビンアテンダントだった。

(私は学生時代、カフェでアルバイトをしていたのだけど、この出来事の後、私のロールモデルは常にこの素敵なキャビンアテンダントだった。)


伝えきれない感謝の気持ちを抱えて、私たちは飛行機を降りた。もちろんその時も『ありがとう』を伝えたはずだけど、もっとちゃんと伝えたかったな、と思う。名前も確認できなかった。


今、この場を借りて伝えたい。

本当に、ありがとうございました。


今は大変な時だけど、また飛行機に乗って国内海外飛びまわりたい。その素敵なキャビンアテンダントさんに、またどこかの空の上で会える日がきますように。

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