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雨、恋が息をする


雨音、雨音、雨音。久々の長雨だった。
良い夜だなんて安牌な言葉にするのもどうかと思うけれど、窓を少しだけ開けて吸い込む空気も、耳に入る遠くの音も、微かに香る無花果の香水も、全てが調和している夜だった。早くこんな電子光からは離れたかった。けれど、書きたくて仕方なかった。文学処女ではいられないらしい。


終夜雨の日は孤独を享受することが苦しくない夜だと思う。低気圧で偏頭痛に悩まされたり、春に花粉で困ってしまう体質じゃなくて良かったなと事あるごとに自分の健やかな身体に感謝する。好きな天気や季節を真っ直ぐに楽しめるのは贅沢な話だ。春、今のような桜が咲く頃は少しだけ肺が痛んだりする。桜にはきっと毒がある。私はこのロマンスだけをずっと信じている。


抗えないぐらい一緒にいたいのに、同じ部屋にいないから、同じ場所にいないから。
同じ空を見上げていても「雨だね」って言えないことが、きっともう雨が上がってしまっているであろうことが、少しだけ悲しかった。いつだって、寂しかった。同じ空を見上げていれば繋がっていられるなんて、嘘だよ。だけれど、本当だって、きっとどこにもないから、だから未だ生き存えていたりする。夜光虫みたいだ。
雨音は彼の声の次に好き。だから、雨音が愛おしく感じられると急に寂しくなってしまう。どうして私は貴方と一緒にいないのでしょう。ねえ、



あーあ、また貴方のことを想って眠るんだ。苦しさを自覚しながら眠るんだ。
最低最悪の夜、この日をどれだけ待ち望んでいたことか。
泣きそうになりながら貴方のことを想う夜は、昔みたいにもっと盲目に貴方のことを想っていた、許されていたような気分をほんの少し思い出す。今よりもずっと、私は貴方と近くにいた気がする。悲しいね。

今日くらい、今夜くらい真っ当に悲しんでも良いでしょう。


どうしようもなく苦しくなる夜があって良かった。私の恋はまだ、ちゃんと息をしている。



此処は貴方の銀浪、いつか私の恋を殺すなら、貴方がその手で、眼で、言葉で、殺してください。態度や状況ではなくて、笑ったり抱きしめたりして、あるいはそれも無くていいから、


雨が止んだら、この夜のことも忘れて。



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