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またね。

 今日、高校を卒業した。

 私がこの高校を選んだ理由は、中1の時親に連れられて行った学校説明会の帰り道、「私は高校生になったらここに来る」と思ったことだけだった。何の根拠もなくただそう思って、中3になって母に「受験校どうする?」と聞かれるまで、受験しなければ入学できないことすら忘れていた。この時の私の思考回路は、今考えても謎である。

 1年生の時の記憶は、正直あまりない。コロナで必要最低限の高校生活しか送れなかったからか、新しい環境に慣れるので精一杯だったからか、あるいは両方か。でもきっと、一番の理由は、一度慣れた環境から飛び出す勇気と自信をもっていなかったこと、多分これだと思う。同じ人、同じ場所、同じルーティーン。安全で安心だけど、新しいものはなにもなくて、刺激がない。それでも、自分の小さな世界がずっと平和に回っていればそれなりに楽しいのだろうけど、私の場合は壊れちゃったから、やり直しになってしまった。

 しかし悪いことばかりでもなくて、このやり直しは私が大きく成長するきっかけになった。それまで、私は慣れきった自分の周りの環境が変わることを怖がって、常に周りを見ながら過ごしていた。嫌われないように、「あの子、変」って思われないように。そうしたら私の世界は守れる、と必死だったのかもしれない。でも、私が何もしなくたって、私が一生懸命守ろうとしていた世界は一瞬で壊れてしまった。
 「あぁ、壊れるものは壊れるのか」
そんな気付きがあった。

 気付いたら、こっちのもの。新しい部活に入る、触ったこともない楽器もやってみる。学祭では歌も、ダンスも、裏方もやろう。それから学級委員もやって、あとは好きな人をデートに誘ってみる?とにかく、思いついたら片っ端から全部やってみた。そうしたら、学祭では分刻みで学校中を走り回る超忙しい人になってしまったけど、本当に本当に楽しくなった。友達や先生との関わりが増え、仲良い先輩後輩も増え、できることもうんと多くなって、私の世界はどんどん広がっていった。

 今、カメラロールには今日撮った写真が沢山あるし、アルバムや先生たちにサインしてもらった色紙は一面が埋まった。先輩や後輩も会いに来てくれた。挑戦や知らないことは、自分の世界を壊したり狭めたりしない。むしろ、広げてくれる。今日は、それを証明するような1日だった。

 まだ卒業の実感もないし、あと2週間で家を出る実感もない。別れ際、友達や先生に言った「またね」が悪さをしているのかもしれない。またすぐ会えると、そう思わせている。一生の別れではない、と。そうでないとバイバイと言えなかった。

 私は、今でも自分の心地よい世界から一歩踏み出すのが怖い。何もこの三年間で無敵になったわけではないのである。一人暮らしも、引っ越しも、新しい場所に行くことも、全部不安で怖い。でも、一年生の私と違って、今の私はこの一歩が今の私を壊したりしないということを知っている。今まで築き上げた自信、関係、能力は全部、壊れない。ここにあるまま、私は一歩を踏み出すんだ。

 だから、またね。

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