あの頃の日々

大学の4年間は大学の女子寮住まいだった。
今思い返しても、友人たちと一緒に "暮らした" という日々は私にとっては大切で楽しい時間だったように思う。
特に家族以外の人と過ごすことに制約がある今日この頃に思い出す、寮生活での出来事のあれこれ。

***

寮は古い5階建てで、お風呂は共用、各階ごとに共用キッチンとトイレとちょっとした集うコーナーがあって、各階に15程ある各自の部屋は4.5畳のシンプルな長方形だった。
備え付けのベッドと事務机、ロッカー、本棚があり、狭い部屋をさらに狭くしていた。

隣の部屋との壁はそれなりに薄くて、私は隣人の目覚ましであろう爆音の『ガッツだぜ!』に朝早くから度々起こされたりした。
なかなか止まらないパワフルソングを聞きながら、なぜ当の本人はこの爆音の中寝続けられるんだろうと不思議だった。
共用のお風呂はボイラー式で、当番が22時にボイラーを止めた後は1本だけある24時間シャワーの争奪戦だった。順番待ちをしている間に時々寝落ちした。
共用キッチンには冷蔵庫があったが、入居してすぐの頃に1度扉を開けて期限の切れた牛乳を見かけた時から、もう二度と開けないと心に決めた。共用冷蔵庫あるあるだよね。

4年間の寮生活を通して特に仲の良い友人が5人いて、家族のように姉妹のように共に時間を過ごすことが多かった。人が好きな私にとってはそんな時間がとても居心地がよかった。

私の部屋は1階で、寮の玄関から一番近いという利便性バツグンの場所。
そのためか、友人たちは外から帰ってきて自室に行く前に私の部屋に「ただいま~」とやってくることもあったし、今から出掛けるぞという時にはなんとなく私の部屋に集合するようになっていて、「なんか寒いから羽織るもの貸して」と私の部屋から上着を調達する友人もいた。
ある日、朝から一緒に出掛ける予定だった友人が時間になっても現れなくて、いつもは出迎える私が珍しく部屋まで呼びに行くと、鍵も掛けずに爆睡していて絶句した。
爆睡している友人の枕元には山積みのチョコレートの包み紙があって、気になり尋ねると『寝ながら食べたんだけど、それが何か』と言うのでさらに驚愕した。
そしてさらには、その時目に入った5階の共用キッチン横の掲示板には『私が揚げた唐揚げ盗んだの誰ですか』と誰かの怒りに震える走り書きがあって、そんなことってあるんか!と驚き、あまりに色々びっくりしたから爆睡していた友人を許した。

6人のうち何人かが集まれるぞとなると、カレーや鍋やお好み焼きその他色々一緒に作って一緒に食べた。
カレーに牛乳を入れる派と入れない派で軽く論争が起こったり、鍋に入れる具材にびっくりしたり、鍋の後の雑炊には冷や飯をさっと洗うといいよ、と知恵袋を披露してもらったりした。
私がケーキを頻繁に作っていた時期には、夜更けにもかかわらずみんなを呼んで「太る~」とか言いながらもワイワイ食べて、そうしてみんなでどうやったら痩せられるかをしんみり悩んだ。

定期試験の時期になると2階の集いコーナーに自然に集まって一緒に勉強し、時には一緒に現実逃避をした。
学部が違っていたから教えあうことは全くなかったけど、法学部の友人が私にはよくわからない難しそうな分厚い本を傍らにおいて、「判例は~」と言っている姿には『なんかすげー』と思って刺激的だった。
逆に私が解いていた問題は、なんのことだかさっぱりわからんと言われたりした。(一蹴)


各自の部屋にはエアコンがなくて、夏はあまりの暑さに1階の私も窓を開けて寝ていたり(かなりの不用心)したけど、集会室と呼ばれる大部屋にエアコン完備されていることへ目を付けた私たちは、夏休みに独占して入り浸っていた。
夜は雑魚寝をして過ごし、バイトやサークルへ行ったりする者をそれぞれみんなで家族のように送り出し、出迎えた。
早朝パン屋のバイトに行く友人がいて、パンをいくつかもらって集会室に帰ってきてくれたので、みんなでありがたく朝食に食べた。
そんな集会室にほぼ住んでいる状態になっていたら、いつしか鍵が掛けられて入室には許可が必要という制度が導入されてしまって、私たちは泣く泣く解散して各自の部屋に戻った。
そりゃそうだ。ちょっとやりすぎだったな。

他にもあれこれいろいろあったが、総じてかなり楽しい日々だった。
もう20年近く前の話だから、今の学生寮とは違うのかもしれないし、こんな世の中だから、今はたとえ寮内とはいえ集まって食事をすることは叶わないのかもしれない。
だけど、私にとってはあの頃いつも友人たちと共に人の気配を感じながら暮らした日々はかけがえのないものだったし、懐かしい思い出だ。


こうして思い返してみて、やっぱり私は人と一緒にいること、一緒になにかしらをワイワイガヤガヤすったもんだやることが好きなんだなぁ、とつくづく感じた。

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