☆初投稿☆「リリアン」を読んで

 📓読んだ本 : リリアン(岸政彦 著) 

 物語に音楽が出てくる小説が好きだ。

 通奏低音として何かしーんとした動かない空気のようなものの上に「俺」が語る。
 昼間の場面もあるのに、印象に残るのは夜、暗闇、そこに煌めいたり、瞬いたりする点々とした光。そしてピアノ、ドラム、ベースの「音」。たしかなメロディは流れてこないのに、ジャズが聞こえてくるような、感覚。きっと、私のジャズへのイメージが思い浮かべさせているのだろう。それを誘発する、物語全体に流れている「通奏低音」。控えめだけれど、ふとした時に、その音に気づき、その存在に安堵感を覚える。
 私自身が作者の年齢に近いこともあり、年齢的に共通する感覚があるように感じた。「俺」は少し前(あるいはひと昔、ふた昔)の自分で、その自分を肯定的に温かい目で、言い換えれば諦観しているのではないか。それができるようになった私なのかなと思った。
 心象風景としての美沙さんとの会話はまさしく言葉のジャズのようだった。ひとつの短い言葉(フレーズ)を繰り返し、アレンジし、少しずつ会話が進んでいく。時にポンと言葉が飛躍する。アドリブのように。
 読み終わって、足取りが軽くなることも、スッキリすることもない。かといって、沈鬱にもならない。ただただ、波のたたない海面のように少しだけ「揺れている」。これもジャズを聴いたあとにも感じることだ。だから、この「リリアン」は快適とは異なるけれど、心地よい小説だった。

P.S  物語に出てきたジャズの曲のプレイリストを作り、実際にジャズを聴きながらその場面を読む。その場の匂いや空気まで立ち上ってきて、没入感が倍増する。この感覚が好き。

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