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マノミコト

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こころのおくのほう。毎日更新。     マルハダカ。
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2021/10/19 「ロッソ・ノービレ」

私は何故、二年半続けていたアルバイトを突然辞めたのか。私はどうして、あの人のことを好きになったのか。それにはその時の、何かしらの理由がある。 しかし、一二年と年月を経て、その時にはなかったまた別の理由が、記憶の底から浮かび上がって来ることもあるようだ。それは何とも不思議な体験で、時を重ねてきたからこそ見られるある種の宝みたいな、パッとは手に入らない格別な貴重さを備えている。また何年後、下手すれば何十年後に。それでも出会えないかもしれないこの味を十分に堪能しておこう。 出会

2021/8/28 「彫り師」

誕生日、好きなもの、好きなこと、嫌いなこと。およそ、友人関係と呼べる間柄の人達ならわかり合っていると推測できることをまったく知らない。授業中だけ成り立つ関係性。 それでも、その人達に救われることがある。励みの言葉を投げ掛けられるより、ずっとホッとする、安心するものだ。ただ名前を聞くだけで、解きほぐされる。先人の名は偉大だ。 しかし、何に救われて、どこを満たしてくれて、なぜ、安心したのか。何もわからない。違う時に同じことが起こったとして、今日と同じような感覚を受けるのか。そ

2021/6/23 「運命」

この頃、自分の人生、つまり「自分の命を引き受けること」について考えている。如何なる生き方をしていたら、命が運ばれていく人生を引き受けていることになるのか、わからないのである。 遡ること、大体一か月前のこと。「ひとは《その》ように生きる事しかできない。」と、お言葉をいただいた。人生と私と《その》とが、どのくらいの位置関係にあるのか未だ分からないでいる。命が運ばれていくままに生きる事しかできない、ということであるのか。それとも、運ばれていくままの人生、自分の意志による選択だけで

2021/6/11 「バラバラ」

バラバラにしたい。一個一個丁寧に、バラバラにしたいのだ。一語一句間違えないように音読するし、その後でもう一度、指先で文章を追いかけてノートに映していく。 二段階目の行いはまとめているわけではなく、感じようとしているのだと最近になって気が付いた。音読段階では声を通して文章を感じ、ここでは書く営みを通して、全体の世界観と、一語一句それぞれの持つ温度を感じようとしているわけだ。 正直とても愉しい。共感が得られるとは思わないが、それでも声を大にして伝えたくなった。とても愉しいのだ

2021/5/31 「叶えたい夢」

もし、自分が本当に夢を叶えたら。自分のやりたいことをやれるようになったら。誰か涙を流してくれるような人は目の前にいるのだろうか。ふとそんなことを考えてしまったわけである。そんな暇はないというのに。調子に乗ってしまっているのかもしれない。 これだけやってきて、やっと夢が叶うという時に、自分以外の人が一人も喜んでくれないかもしれないという光景を想像すると悲しくなった。想像できてしまったことが何より私を苦しめた。 もし本当に、つくることができて名前が載ることになって、本当にそれ

2021/5/27 「人生とは舞台」

水を汲みに来るお客さんの姿が映る。コップを探していたけれど、見つけたみたいだ。自分の分と友人の分。あ、注ぎ口もう少しちゃんと閉めて。と心で伝えてみる。あ、後で、閉めに行こう、と心に刻む。 カップルで来たお客さんが席移動の希望をお願いしてくる。もちろん、オッケーである。お二人のために、と思い、流し入れた生地はいつの間にかきつね以上の色になっていた。まぁ、大丈夫だろうと思いながらも若干の不安を抱えたが、上からかけていくメイプルシロップにいつも以上の愛を込めて上書きすることにし

2021/5/23 「脳みそ出血」

これは昨日、文章を書き終えて、さぁ眠りに着こうとしていた矢先に起きた出来事である。些か珍しく、この先グロティスクな文体になってしまうことをここらへんでご了承いただき、先に進んでいただけるとありがたい。なお、そのグロティスクな文体にも、暖かさや、澄んでいる世界を。と思いつつ描いていこうとは思っているので、もしよければ、ここで終わらずに進んでもらえると幸いである。 早朝4時になっていたかもしれない時間帯だった。詳しくは覚えていないのだが、確かそのくらい、一瞬でも眠りにつけたのか

2021/4/22 「文学」

先日、父と車の運転練習がてらドライブへ行きました。私はこの時間が結構好きです。私みたいな若い人たちが好きな曲。が流れていると思いきや、父親が放った「飽きた」という言葉一言で、今度はノスタルジックな雰囲気を持つ曲や、ヘビーメタルというようなジャンルの音楽が流れる狭い空間。というのはかなり独特。父とのドライブの時だけしか感じられない世界観です。まぁだからといって、私の好きな曲は変わらないので。またすぐ、こちらの世界観へと戻してしまうわけですが。そういう、世界観がころころ変わってし

2021/4/6 「キナリノカナリア」

あのキンキンごえは、毒。毒を毎日浴びています。今日も昨日も一昨日も。明日だって明後日だって、私がここにいる限り毎日聞くことになるのです。そんな毒を大体毎日浴びていたら、身も心も弱くなる。ちょうど、骨の髄が見えなくなっていくところです。 二階にいても聞こえてくる、下からの声。聞きたくなくても聞こえてくる、あの声。たった今、ドアを閉めて必死に逃げたけれど、今度は外側から家の壁を這い上がってきて、出窓から入り込んでくるのです。 だから、どこに行っても逃げられない。 聞いている