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新米マネージャーが年上部下たちと面談して気付いたこと

現在勤めているの会社に入社して、もうすぐ5年が経とうといている。万年平社員だった私は、7月からマネージャー職についている。お金は欲しいが、特に出世欲はなかった。それなのに、何がどうなったのか出世してしまった。はっきり言って、望まぬ出世だった。

社会人として働き始めた前職を含めて、私はずっと営業職一筋だった。与えられた予算を達成するために働くのだが、本当は、営業は一番やりたくなかった仕事と言っても過言ではない。というのも、営業というと個人宅へアポなし訪問して押し売りする且つノルマがあって大変というものだと思っていたからだ。実際私は前職でも現職でも法人営業なので、想像していた営業とは違う。思い通りにいかないことも多いが、続けられてきたのには理由がある。一つは自分の担当しているお客様に喜んでもらえたり、感謝されたりすることが嬉しいからである。そしてもう一つは、営業という職種は個人プレーだからというのもある。

そう、私は昔から協調性に欠けていた。中高とバレーボール部に所属し、チームプレーをやってきたにも関わらず、だ。自分と異なる意見に対しては納得するまで話を聞きたいし、理不尽なことを言われると突っかかってしまう。良く言えば正義感が強いとも言えるのかもしれないが、チームで動くにあたっては都合の悪いことが多すぎる性格なのだ。輪を乱してしまうことが多い自覚もあるが、同時に自分がかざしているのは正論だから譲れない! という頑固さを持ち合わせてしまっている。6年間チームプレーをする環境で過ごしたけれど、私の協調性は育つことはなかった。

そのまま、あれよあれよと社会人になり、全体の予算を共有する程度でOK、ほぼ個人プレーの営業職で働くようになった。そして、私は今回昇進した。昇進したのだが、それと同時に異動もした。同じ営業部内ではあるが、別の課へ異動した。
異動すること自体に問題はない。現在の会社に関わらず、ある程度の人数と部署がある会社であれば異動も珍しいことではない。ただ問題なのは、異動した先が同じ営業部内であるにも関わらず、個人プレーではなく、チームで動く課だったのだ。私の苦手な、チームプレーを必要とする課だったのだ。

苦手なチームプレーをしなければいけない課で、生まれてこの方、人の上に立ったことのない人間がマネージャー。神様、私に一気に試練を与えすぎではないでしょうか?

弱音やら言葉にできない何やらをひたすらに吐いていたいところではあるが、吐き続けたところで私が異動してマネージャーをすることに変わりはないし、どうせやらなければいけない。なぜならそれでお金を貰っているから! そしてそのお金で私は生活をしているから! 生き延びるためにも、いくら苦手意識があっても、つべこべ言わずに私はチームプレーをしなければいけないし、マネージャーとしてチームのバランスを上手く取らねばならない。その事実は変わらないのだ。

私は早速、リーダー論が説かれている本やら、マネジメントとは何かと書かれている本をせっせと読んでいった。読んでいったのだが、本を読んでいて思ったことがある。それは、リーダー論やマネジメント論については、こうして本を読んで自分でアウトプットしていけば少しずつ身につくのだろう、と。ただ、人に関してはどうすればいいのだろうか。考えた挙句、ただ考えていても仕方ない。当の本人たちに聞くのが一番早い! そう思った私は、私の部下となった人たちと順番に面談していった。

同じ部署内ではあったので、みんな顔見知りではある。一緒に仕事をしたことがないわけではない。同じ社内にいるので何かと話す機会はあり、まったく知らない人ではない。知っている人ではあるのだが、上司と部下として接したことはもちろんこの異動がなされる以前までにはないし、部下それぞれが現状やチームに対してどういう考えを持っているのかはわからない。本人たちに真相を聞いてみるしか術がないのだ。

とは言え、もちろん面談もやったことがない。すべてが手探りだ。
ひとまず、課としての今期の事業計画を話す。そのあとに具体的な業務内容で困っていることがあるか、変えたいことはあるか、現状のチームに対してどう思っているか、というのを聞いていった。

正直に言おう。私は少し、いや少しどころか結構怖かった。それは、部下が全員、自分より年上ばかりだったのと、その課に属して長い人が多かったからだ。世間話をする分には良い人たちばかりなのだが、仕事となれば話が別かもしれない。何も知らずに異動してきて、しかもこんなちんちくりんで課のことをよくわかっていなさそうな奴(私)がまとめ役だなんて……。信頼も実績もない私が面談をしたところで、形式だけ済ませたような状態で終わってしまうんじゃないか。何も話してくれないんじゃないか。そういう不安が私にはあった。

不安を抱えながらも、私は年上部下たちの面談に取り組んだ。
まず一人目は、仕事終わりに私と飲みに行くこともあり、それなりに仲の良い男性だ。彼は事前に、私に話したいことを箇条書きでA4用紙2枚にまとめてきてくれていた。今回面談するにあたり、私から準備物は指定しなかった。部下の現状や今後についてどう思っているのかを聞けるだけでいいと思っていたので、私は何を聞くか準備する必要があったが、部下たちには特に身構えずに面談に臨んでほしいという思いもあったからだ。

「めちゃくちゃ意見まとめてきてくれたんですねー」と言うと、彼は真剣な顔で「僕はこのチームを変えたい」と言った。

2人目は、1人目と同い年の男性だった。私の8個年上だ。彼は1人目のように箇条書きで思いをまとめてはこなかったが、「現状どうですか? 何かこうしたい! って思うこととかありますか?」と私が質問すると、「チームを変えたいです」と言った。1人目の部下と同じことを言うのである。

3人目の女性も、4人目の男性も「変わらないといけない」と口々に言った。じゃあ具体的にどう変わらないといけないか、と深く質問を重ねていくと、その答えは各々違うものではあったが、今自分たちがいるチームを「変えなければいけない」という危機感を感じている点では、全員が共通していたのだ。

「変えないといけない、というのは、なんでそう思うんですか?」と一応聞くが、私はわかっていた。そのチームが崩れかけのチームだったからだ。

そのチームは立ち上がって6年弱くらい経つ。立ち上げ当初のマネージャーは2年ほど前に異動になり、私とそう歳の変わらない人が新たなマネージャーとなった。しかし、このマネージャーが難ありで、本人は無意識なのかマウントをよく取りがちで、自分と異なる意見は取り入れることなく、マネージャーという立場を少々利用してねじ伏せるところがあった。また、部下たちの手柄も、自分の手柄のように話すことがあった。
2年間のそういう言動の積み重ねで、部下たちは「どうせ意見言ったって潰されるだけだしな」とか「どうせ頑張ったって正しく評価されないしな」という考えになってしまい、チームとして協力体制が取られていない状態になってしまったのだ。協力体制が取られていないから、各々の成功事例も共有されることがないまま、どんどん閉鎖的になっていく。チームとして動かなければいけないのに、個人プレーが横行してしまっていたのだ。

そして、そのチームを立て直す……というと聞こえがかっこいいが、仕切りなおすために私が投入されたところもあるのだ。未経験の私をそこに当て込むというのは、会社としても一種の賭けなのかもしれない、と客観的に思う。
そんな会社の賭けに、部下たちもすがる思いで一緒に賭けたのかもしれない。私という、得体のしれない、急に自分たちの上に置かれた実績のないマネージャーに賭けたのだ。部下たちは、まだこの課において何の実績もない私が漕ぐ船に、覚悟を決めて乗り込んできてくれている船員のようなものだ。チームとして、こいつが自分たちの上司で良いのかはまだわからないけど、でもとにかく現状を変えなければいけないことは確かだ。だからいちかばちか、こいつに賭けてみよう。そういう思いで船に乗り込んできてくれているのかもしれない。信頼に値するかどうかはわからないけれど、今はこいつを信じてついていくしかない! と思ってくれているのだと思う。

異動した時に「お前のチームやで」と上司に言われた。なんて重い言葉だろう、と思った。
中小企業ではあるが、従業員数は100人を超えている。だから規模としては、決して大企業ではないがコンパクトな会社でもないなと思う。その中の1つのチームが私を中心に回っているなんて、そんな恐ろしいことがあるのかと思った。自分がチームの顔になるなんて、そんな日を夢見たこともない。夢見てないことが現実で起こってしまい、やはり不安が付きまとった。

でも、私が信頼に値するかどうかを差し置いて、私を信じてついていこうと腹を括ってくれた部下がたくさんいる。信じて、腹を割って「変えたい」とまっすぐに言ってくれる部下がいる。私がそれに100%答えられるかどうかはわからないが、私は上司として、会社の向かう方向とよっぽどズレていない限り、部下の意見を尊重しながら舵を切り続けなければならない。部下たちが気持ちよく働けて、結果、会社の利益になるようなチーム作りを、私は行わなければらない。

私はチームプレーが苦手だ。それは今もあまり変わっていないと思う。思ったことは割と口に出してしまうし、曲がったことは好きではない。納得するまで詰めて聞く(故に圧が怖いと言われる)癖もそのままだ。
だけど、自分を信じて全力で寄りかかってくれる人たちがいる。寄りかかられるだけだとしんどいが、私にとってはそんな向上心のある部下は頼もしい存在でしかないため、私も少し寄りかかれる。
チームとして思い描くビジョンはあるが、まだその旅は始まったばかりだ。苦しいことや乗り越えるのが難しいことも多いだろうが、部下たちがそうしてくれたように、私も全力で彼らを信じて慣れないマネージャー職を務めていきたいと思う。


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