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女だらけのお店に何かしらの理由で入店する男性の気持ちがわかった気がする

6歳年下の従姉弟が、4月から社会人になった。

正直、自分の日々の忙しさでそんなことは忘れてしまっていたのだが、ゴールデンウィークの帰省を前に母から「あの子に就職祝い買わへんの?」と連絡がきて思い出した。兄弟でもないし、特別仲が良いわけでもないし、別に買わなくても良いのかもしれない。しかし、3年前にその子の姉が就職した際に、なぜか就職祝いでブランド物のパスケースを買ってプレゼントしていた。そのことがあったから、母から「あの子には買わないのか?」と連絡がきたのである。従姉弟の姉には買って、弟には買わないのは不平等ではないか、という話だ。確かに、それもそうである。

というわけで、私は慢性的な金欠による節約生活を続けていたのに、予期せぬ出費を強いられることになった。

従姉弟は、無口である。直近で喋ったのは、お正月に祖母の家で会った時だ。iPadを買おうか悩んでいた私は、iPadで漫画を読んでいた奴に、スペックや使い心地など質問攻めをした。普通に会話はするのだが、ゲームが好きということ以外は何も知らない。すなわち、私は彼に何を買ってあげればいいのかが皆目見当つかなかった。

私の中で、就職祝いといえば「名刺入れ」「パスケース」「キーケース」のどれかである。あくまで個人的な意見であるので異論は認めない。このうちのどれかをあげれば大丈夫、と思っている。
しかし、もう4月がスタートして3週間が過ぎていた。他の誰かに、私の中の「就職祝い版・三種の神器」も、どこかの誰かからすでにプレゼントされている可能性も非常に高い。プレゼントには少なからずサプライズ性を求める私ではあるが、同じものを2つ所持してしまう従姉弟のことを考えると、ここは何が欲しいか聞くのがベストである。

「名刺入れ、パスケース、キーケース、どれがいい?」
「キーケース。ありがとう」

プレゼントしてもらうのが当たり前に感じているような返事に一瞬手が止まったが、これも先に産まれて働いている身として、人生の後輩の門出を祝うべきだと、ぐっとこらえた。

そして今日、キーケースを求めて街へ繰り出した。

事前に、就職祝いに良さそうなブランドや価格のリサーチを重ねていた。そしてそのブランドのお店も調べ、他の予定と合わせて効率的に回れるルートを脳内で組み立て、いざ出陣!

突入したのは、メンズ向けのショップばかりが出店している館だった。その館に入ったことはなかったし、実際に館の入口の前に立つまでは何も思わなかったのだが、入口に立った瞬間、入るのがとても嫌になった。

なぜか。
入口から見える限り、客も店員も、男性だらけだったからだ。

男性が嫌いだとか、男性恐怖症だとか、そういうことはまったくない。彼氏は欲しいし、イケメンはずっと眺めておきたい。でも、男性だらけの空間に自分が突入する、というのが、なんだかとても恥ずかしいような、居心地が悪いような、そんな気持ちになったのだ。

いや、でも私には時間がない。このあとは友人と予定があるのだ。そのためには、あと20分後に発車する電車に乗らなければならない。入口の前で1人グズグズと立ち尽くしている時間はない!

次こそ、いざ出陣!!!

スンとした顔で背筋を伸ばして入店する。そしてすぐにフロアマップを見て目的のショップの場所を確認し、エスカレーターをスンとした顔で乗って降りていく。スンとした顔は「男性ばかりの空間に異質な私がいることは自覚しているけれど、私はそんなこと気にしていないし、なんならこういう場所に来るの、慣れていますから。彼氏(架空)のプレゼントとか買うのに結構来たことありますから」という、アピールのようなもののための表情である。

一貫してスンとした表情で目的のショップに到着する。店員さんたちの「いらっしゃいませ」にもスンとした顔で顔を向け、余裕を見せるために軽く会釈をする。内心は、ブランド物のショップだから小綺麗な男性ばかりで目を合わせるのが辛かった。普段会社で接しているおじさんたちとは、同じ男性でも訳が違う。
しかし、そんな私の心情が漏れてはいけない。私はなんとか耐えて、スンとした顔で「すみません」と店員さんに声をかける。そして、私に呼ばれてやってきてくれた店員さんに向かって一気に言った。

「プレゼントでキーケースが買いたいんですけど、色はブラックで、価格は2万円前後、デザインはできるだけシンプルなもの……となると、この中だとどれになりますか?」

一気にまくし立てたので店員さんは少々驚いていたが、「このあたりですかね~」と、3つほど候補を出してくれた。1つずつ中を開いて説明してくれるのだが、私は一刻も早く、この居心地の悪い、男性ばかりの空間から脱出したい。次に予定があるから、ということもあるが、もはやその点に関してはどうでもいい。とにかくこの小綺麗な男性ばかりの空間にいるのが辛い。

「あ、これでお願いします。ラッピングしてください」

店員さんが候補のうちの2つ目を説明してくれているのを遮って、私はそう言い放った。もう本当に、早くこの館から出たい。梅田の人混みに紛れたい。

クリスマスやホワイトデーの時期になると、女性だらけのお店に、男性客が来店しているのをよく見かける。「彼女のプレゼント選んでるんだろうな~」と軽い気持ちで見ていたけれど、彼らも絶対居心地悪いと思ってただろうなぁ。好みとかよくわからないし、なんでもいいから早く選んで買って帰りたいと思ってただろうなぁ。

男性からプレゼントを貰ったことがある女性たちよ、もっと感謝しよう。いや、しているとは思うけれども。異性がターゲットのお店って、入るのだけでも勇気がいる。

「メッセージカードもつけられますけど、ご入用ですか?」
店員さんが聞いてきた。

「いや、いらないです」

即答した私はスンとした顔で商品を受け取り、スンとした顔でその館を後にした。ショップ滞在時間は、おおよそ7分。

従姉弟よ、私の苦労を想定できるくらいの、でっかい男になっておくれ。

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