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#25 人口減少時代におけるベッドタウンの未来―横浜市金沢区を例に―
はじめに
『J NOTE』第25回は、神奈川県横浜市金沢区を取り上げます。
金沢区は、横浜市南部に位置する人口約19万人の区です。東京湾に面している地域は、「横浜・八景島シーパラダイス」や「三井アウトレットパーク横浜ベイサイド」など、人気の施設が数多く立地しています。また、横浜市立大学や関東学院大学のキャンパスが置かれているなど、文教都市としての側面も持ちあわせています。
一方海に面していない地域は、区を縦断する京急電鉄の沿線を中心に、1960年代ごろから住宅地として開発されてきました。しかしながら、近年は住民の高齢化や人口減少が大きな問題となっており、国立社会保障・人口問題研究所の予測では、30年後の2050年ごろには金沢区の人口が現在よりも約25%減少するとされています。
そこで今回の『J note』では、横浜市金沢区を例にして、人口減少時代におけるベッドタウンの将来を見据えた街づくりについて考察します。
金沢区の人口減少について
金沢区では、1960年代から富岡地域を皮切りに、釜利谷や能見台、並木などで住宅地の開発が相次いで行われました。しかし、昭和末期には区内の大部分で宅地開発がひと段落したため、90年代に入ると人口の伸びは緩やかになりました。その後、2005年の21万人をピークに、人口は減少傾向となっています。(図1)
![](https://assets.st-note.com/img/1717224345438-BVq7QF3Ab5.jpg?width=800)
※1980年~2020年は国勢調査、2024年4月は推計人口によるもの
総務省「男女別人口及び年齢別割合 神奈川県」
横浜市「横浜市人口ニュース」No.1173 を参考に筆者が作成。
2024年現在、金沢区の人口減少率は横浜市の全18区の中で最大となっています。金沢区の人口減少が進んでいる理由として、
・20代後半から30代前半の人口が少ないこと
・東京都心に出るまで時間がかかること
などが考えられます。
①20代後半から30代前半の人口が少ないこと
金沢区は、横浜市全体と比較して30歳前後の若年層の人口がやや少ない傾向にあります。
次の図2は金沢区の年齢別人口、図3は横浜市の年齢別人口をグラフで示したものです。
![](https://assets.st-note.com/img/1717330426627-ax1Pjf7sq4.jpg?width=800)
横浜市「年齢別人口(住民基本台帳による):金沢区」を参考に筆者が作成。
![](https://assets.st-note.com/img/1717330459171-aVEqLTudSs.jpg?width=800)
横浜市「年齢別人口(住民基本台帳による):横浜市」を参考に筆者が作成。
図2と図3より、金沢区は横浜市全体と比べて50代以上の世代の割合が多く、とくに70代の人口の割合が大きいことが見てとれます。対して、20代後半から30代後半の世代については、市全体の割合と比べてもかなり少ないことが分かります。
その理由として、①金沢区内に住む学生が就職を機に区外へ転出していること、②近年住まいの都心回帰の動きが強まったために、郊外の住宅地である金沢区への転入数が以前よりも少なくなったこと、③戸建住宅が多いことから住民が入れ替わりにくいことなどが挙げられます。
このように、金沢区の若者世代の人口が他の区よりも相対的に少なく、加えて転入数も少ないことが、人口減少が急速に進行している原因であると考えられます。
②東京都心に出るまでやや時間を要すこと
金沢区は横浜市の南端に位置することから、東京の都心部に出るまで時間がかかります。
区の中心部にある京急金沢文庫駅からは、朝ラッシュ時の特急で横浜駅まで約20分、品川駅までは約49分かかります。また、横浜駅でJR線に乗り換えると、多少は早く東京都心に到達するものの、それでも新宿まで約53分、東京駅まで約56分かかります。
さらに、自宅から駅までの所要時間や、駅から職場・学校までの所要時間を加えると、金沢区から都内に通うには少なくとも1時間から1時間30分程度は時間を見積もる必要があります。
ニッセイ基礎研究所が2020年に行った調査によると、全国の片道通勤時間の平均は39.5分、神奈川県の平均は52.5分となっています。(リンク)
そのため、金沢区から都内まで通う場合、通勤通学時間は全国平均や神奈川県平均を大きく上回ることとなります。よって、通勤時間が長くなってしまう点が若者から敬遠され、金沢区が抱える若年層の都市部への転出超過問題の原因の一つではないかと考えられます。
将来の金沢区に向けた街づくり政策―テレワーク×住環境―
前述のとおり、金沢区は郊外型の住宅地のため、都心へのアクセス自体は良いものの、通勤通学に時間がかかる点がネックです。そこで、リモートワーク等で毎日出社する必要のない人、勤務場所が固定されていないフリーランスの人をターゲットにした街づくりを提案します。
金沢区は1960年以降に街びらきをした地域が多いことから、暮らしやすさに特化した街の構造となっており、公共施設や商業施設、教育施設などが充実しています。また、三浦半島の付け根に位置していることから自然も多く残されており、公園の総面積は横浜市全18区で最も大きいのが特徴です。
そんな金沢区では近年、コワーキングスペースやサテライトオフィスが相次いで開業しており、京急能見台駅からすぐの場所に「A-LOUNGE」、京急金沢文庫駅東口に「RoomUs 金沢文庫」、京急金沢八景駅近くに「ZXY 金沢八景」など、駅チカを中心に仕事ができる環境が整備されてきました。
このため、金沢区は生活環境が良く自然も多いことから、住みやすくて働きやすい「在宅勤務やフリーランス向きの環境」が整っているといえます。
しかしながら、他地域との大きな違いなどはないため、特段注目を集めていないのが現状です。また、首都圏から離れた地域を中心に、移住支援金や住宅取得補助金の制度を設立している自治体も多いため、金沢区はテレワーク支援の政策面で完全に後塵を拝している状態となっています。
そこで、自治体が中心となって「住みやすく、働きやすい」まちづくりを目指し、かつ世の中に対して強くアピールしていく必要があると思われます。
具体的には、テレワーク支援制度の拡充やポータル情報サイトの開設、SNSでの広告事業の強化などです。とくに、フリーランスの方は仕事でSNSを利用している場合が多いため、SNSでの広告はリーチされやすく非常に効果的ではないかと思います。
さらに、メタバース空間を利用した宣伝も一つの手です。メタバース空間を用いた事業を展開する自治体はまだ多くはないため、メディアで取り上げられる可能性が高く、その宣伝効果は大きいと思われます。また、在宅勤務やフリーランスの方にとっては、メタバース空間が会社や業種を越えて交流することのできる貴重な場となります。
このように、在宅勤務やフリーランスの方をターゲットにした街づくりは、都心部のアクセスが良く自然が多い金沢区にあった政策なのではないかと私は考えます。
おわりに
ここまで、横浜市金沢区の人口減少と未来を見据えた街づくりについて考察してきました。
金沢区は横浜市内で最も人口減少率が高いですが、商業施設や公園が多く住みやすく、かつ働きやすい街であるといえます。
金沢区同様、郊外の住宅地では軒並み少子高齢化や人口減少が大きな課題となっていますが、都心に出なくても働ける環境を整備することで、少しでも課題解決に近づくのではないかと私は考えます。
関連文献
石見豊「魅力ある郊外暮らしとコミュニティ」『國士舘大學政經論叢』第191号(国士舘大学政経学会、2023年)
鐘ヶ江樹「金沢八景における八景と旅の関連性に関する研究」『観光学論集』第16号(長崎国際大学国際観光学会編集委員会、2021年)
佐野誠「路線バス網の形成と地域の変化―横浜市金沢区を事例に―」『駒澤大学大学院地理学研究』第46号(駒澤大学大学院地理学研究会、2018年)
藤澤美恵子、中西正彦「大都市郊外の土地属性と人口動態の関係性―横浜市金沢区におけるケーススタディ―」『地域学研究』第51号第2巻(日本地域学会、2021年)
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