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気持ちが追いつかない。



突然の退院許可

 術後6日目。朝の回診に来た主治医から「明日抜糸して、明後日には退院できますよ。」と言われました。経過が順調なので、予定通り術後8日目に退院できるということを伝えたかったのでしょう。でも、突然のことに私はとても驚いてしまいました。このままでは、4月からのことが何も相談できていないまま退院することになってしまう。入院している間にしっかり話して決められると思っていたのに。混乱して。伝えたいことがあるのに何も言えないまま、主治医が部屋から出るのを見送りました。
 主治医は、「1年目から遅れるのも不安でしょうし、4月から働ける状態ですよ。」と言っていました。そうだけれど、そうじゃない。入院中に体力はどれだけ落ちているのか。あと3週間で働けるくらいの身体になるのか。何より、声が出ない。反回神経麻痺はなさそうだと聞いたけれど、それならこんなに声がかすれていて出ないのはなぜなのか。主治医との現状の捉え方の差に戸惑いました。手術をしてから仕事については考えようと思ってましたが、そのときが来たのです。一旦保留にしていたことに向き合わなければならない時期を迎えて、突然大きな不安に襲われました。前日までとても穏やかに過ごしていたのが嘘のようでした。

身体と心のスピードが違う

 退院までの流れについて書かれたプリントを入院前にもらっていましたが、手術を無事に終えることに必死で退院のことまで考えられていませんでした。10日くらいで退院できると何となく分かっていても、実感が伴わないような感じです。手術が終わってほっとしていたら、休む間もなく「退院できますよ。退院してください。」と言われて、心の準備ができていないのに追い出されるような気持ちになりました。身体は順調に回復しているのかもしれないけれど、気持ちがまったく追いついていませんでした。
 朝のうちに師長さんが来てくれて、退院日の相談をしました。抜糸翌日に退院するのが不安なので余裕を持って退院したいことを伝えると、「部屋に空きがあるので、ゆっくり退院しても大丈夫ですよ。」と言ってくれました。とりあえず、抜糸翌日に慌てて退院するという事態は回避できました。

何で私が、何で今

 元気なら考えなくてもいいことを、たくさん考えなければいけない。どうしてこんなにつらい思いをしなきゃいけないのだろう。何で私が。何で今。答えのない問いが、また顔を覗かせました。そういう運命だったんだと割り切れないし、答えのない問いについて考えてしまうのが悲しくて。ひとりで泣いているうちに、疲れて眠っていました。就職に不安を抱いていることを、日勤の看護師さんにも言えないまま夜を迎えました。
 この日の夜勤は、何度か受け持ってくれたことのある看護師さんでした。部屋を出る前に「何か聞いておくことある?」と尋ねてくれたので、今日ずっと言いたかったことをやっと伝えられました。4月から働けると主治医には言われたけれど、4月から働くのに私は不安を感じていること。まだ混乱していて気持ちをすべて伝えることはできませんでしたが、相談窓口に繋ぐ約束をしてもらうことができました。


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▽ まとめ


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