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本よみ日記14

8.31火

明日から幼稚園が始まるが、今日は息子の病院に行く日。少しだけ気が急いる。

いつも通りバスに乗って駅へ。先日ジム・ジャームッシュの「パターソン」を観てからバスの運転手さんを見る目が変わってしまった。この人も休憩時間に詩を書いたりするのだろうか。

終わって昨日からあんこモードだった私はあんパン、息子はチョココロネをパン屋で買って食べて満足し、バスの時間まで大きな本屋に行こうとなった。

光文社古典新訳文庫の棚にいくと、ドストエフスキー『罪と罰』が平積みされている。登場人物が記されている栞や字の大きさなど、確認して読めそうな感じがしたがちょっと不安もある。やはりまずは『罪と罰を読まない』を読んでみようか、どうしようか。

バスの時間が近づいてくる。いろいろ見たり自分に聞いてみたが、今日買う本は決まっていた。新潮文庫の棚で堀江敏幸の『河岸忘日抄』を手に取ると、ずっしりと重い。


はじめて読んだのはかれこれ15年以上前で、読み終えたときのことをよく覚えている。荻窪か西荻窪かの古い喫茶店でひとと待ち合わせをしていた。そのひとは友達であったが、かつては友達以上のようなものをそれぞれ抱えていた。

読み終わってしまうのが惜しくて惜しくて、これでもかというくらいゆっくり読んでいた。そんな読み方なのに、ちょうど読み終わったタイミングで友達は現れ、フンっと心の中でほくそ笑んだ記憶がある。


待ちきれず、バスの中で頁をめくる。

海にむかう水が目のまえを流れていさえすれば、どんな国のどんな街であろうと、自分のいる場所は河岸と呼ばれていいはずだ、と彼は思っていた。『河岸忘日抄』

ああそうだ、この出だし、はじまりだ、と思い出し、言葉どおり胸がいっぱいとはこういうことかと噛みしめる。

手放して、また買って、思い入れのある本というのはやっかいだけど愉快な存在だなと思う。その日の夜、堀江敏幸は夢に出てこなかった。

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