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オーストラリア2400km自転車旅6日目🚴‍♂️

6日目「希望の光・ディープヒート」

朝5時に目が覚めた。わけのわからない鳥がキーキー朝からわめいている。火の鳥は・・・・もういない。

「ちょっと黙ってくれないかなー」と頼んだけど無駄だった。

従業員がきて、何か言われるのがいやだったので、テーブルからべンチに降り、再び目をつぶった。朝6時、近くのべンチから

「あいつ、一晩中外にいたのか・・・」

と従業員どうしがごにょごにょ話し合っているのが耳に入る。

「(アコモで寝たいけど、お金ケチりました)」

とつぶやいた。けだるい体をどうにか起こし、ゆっくりと屈伸した。店に入り、朝ご飯に桃缶を一つ、それを食べ終えてから、相棒にまたがり軽く走ってみた。

「ダメだっ・・」当然のように膝は痛い。期待なんかしていなかったが、それでも落胆した。自転車から降り、これからどうするか考えた。

1もう辞める。ヒッチハイクで街まで。

2もう一晩ここのRHのべンチで過ごし膝の様子をみる。

3今日も走り続ける。

4火の鳥を探す

どうすればいいか決められずにいた。とりあえずトイレに行った。するとシャワーがあったのでこりゃいいや、と思いシャワーを浴びた。涼しい!気分がスッキリした!相棒を見つめながら、これからどうするか考えていると、相棒のチェーンやギアについている赤土が気になった。オーストラリア特有の赤土。

「しかしお前もよくがんばってるよな・・」彼のサドルをポンっとたたいた「よし!お前をきれいにしてやらないと」

Tシャツを一枚引き千切り、それで丁寧に拭いた。油もかけて拭いた。

「しっかしふざけた国だよなこの国は。暑すぎだっつーの」

相棒といろいろ話した。そんな俺に一人のおばちゃん(中国人)が話し掛けてきた。上品な装いだった。

「何やってるの! ?」

「えっ、自転車の手人れを・・・」

その後、いろいろ話した。話しかけられてすごく嬉しかった。ブルームから来たこと、膝を壊したこと、昨日路上で用をすませたこと。とか

「あなたクレイジーね!」

セリフと笑顔が釣り合わなかった 。おばちゃんの旦那さんも寄って来た。 上品なおじちゃん(スイス人)だ。おばちゃんは彼に今俺が言ったことをまた逐一説明した。それを聞いたおじちゃんは言った。

「そりゃあんたクレイジーだ!」

「(夫婦そろって同じこと言いやがって)」と思った。おじちゃんは続けて言った。

「私たちは今日ポートヘッドランド(シュンが初日に向かった街)に行くから一緒にきなさい。病院で膝を診てもらってからまた自転車を始めればいいじゃないか」と。

そう言ってくれて嬉しくなった! 嬉しくなったけど、

「no thanks!でもありがとう!」

強がりを言った。

「日本人は皆クレイジーなのか??」

とにかくこの時点で『辞める』と言う選択肢は消えた。実力も経験も自信もない。ただ、途中で辞めんのカッコ悪いな、という『意地』が残っていた。

「そうか」

その夫妻は不思議なものを見るような目で俺を見ていた。その後、彼らから多くの親切をもらった。

「何か食べさせてあげるから私たちの車にきなさい」

と招待してくれた。彼らはレンタカーで旅をしていたようで、その車はキッチンつきだった。腹が減っていたもんで、遠慮なく出向いた。で、出してくれたもんは、インスタントラーメンに菜っ葉と卵をのっけてくれたものだった。外の気温は暑いんだけど、そんな中でも温かいもんはおいしかった!他にもコーヒーを出してくれたし、クッキーも持たせてくれた。クッキーは明日の朝飯にしよと思いリュックにしまった。コーヒーには砂糖を5スプーンも入れてもらい、カロリーをしっかり稼いだ。砂糖をいっぱいとって喜んでいる俺を見て二人は笑った。彼らの好意はそれだけでは終わらなかった。

「これを持っていきなさい」

持たせてくれたのは『ディープヒート』。何だこのはみがき粉みたいなもんは?と思っていると、おばちゃんがその蓋をあけて、ちょっと中身を押し出し、俺の首筋の蚊に刺されていたところに塗りはじめた。俺はもう24歳だというのに、なんだか子どもになったみたいでくすぐったいというか、こっ恥ずかしかった。

「虫刺されにも効くし、筋肉痛にもいい。君の膝にもいいに違いない」とおじちゃんが言った。首からメンソールの匂いがした。

これが!このディープヒートがこれから先、膝の鎮痛剤として大活躍してくれることに。

「ありがとう!」と日本語で言った。

そうして彼らはポートヘッドランドへと発っていった。俺はずっとその車を見ていた。

「なー相棒、もう少し俺に付き合ってくれるか?」自転車に話し掛けた。

彼は何も応えない。さっそくディープを膝に塗ってみようと思った。説明書を読んでみると、しつかりと浸透するように塗り込みなさいと書いてある。あっ!そういえば今の今迄、膝をマッサージしてやろうとか、そういう労りの気持ちがなかったんじゃないか!?

「よし、ディープを塗るついでにしっかりと丹念にマッサージをしてやろう!」

ディープをたっぷり左膝に塗り、マッサージを始めた。マッサージを初めて10分後、左足の付け根から足の指先まで電撃が走った。ビクッとした。おったまげた。ツボを見つけたようだ。一点、押すとすごく痛い一点があった。

「これかー!痛んでいるのはココかー!」

興奮した。そこを押すとひどく痛いけど、疲れが抜けていく感じがあった。

「イタッ!でも気持ちっ!」

と言いながらひたすら押し続けた。押すと痛いんだろうなーという恐怖心がさらにそのツボを気持ちよくさせた。その後、右足も含め2時間マッサージをし続けた。そのツボを重点的にありとあらゆるところを揉みまくった。揉んで揉んでほぐしてやった。揉んでやった。揉んだ。さすがに2時間それをやると両腕はだるだるになり握力がなくなった。そして足がホクホクのうちに相棒にまたがり、ソーッと漕いでみる・・・

「おぉー、痛くないっ!痛くないじゃないかっ! !」痛みがひいていた。あぁー嬉しぃ・・・」
心の中に光が射した!これで決心がついた!

「今晩発つっ!」

日が傾き涼しくなるのを待ちながら、またひたすらマッサージを続けた。膝とたくさん話した。

「パースまで行きたいって思って始めたけど、独りよがりだった。ごめん、俺の勝手な衝動に付き合わせて。逆だったら俺もやだわ。お前勝手にやってろや、巻き込むなやって思うわ。感謝しないと、お前たち全員に」

お尻も一日中俺の体重を支えてくれていた。

手も一日中ハンドルを掴み続けてくれる。

顔や腕は、強烈な日差しを受け続ける。

『あぁーみんな今日までごめん。。。それでありがとう。みんなにお願いがある。パースまで俺と一緒に行ってほしい。これからもよろしくお願いします』・・・・

そして時はきた。次のパラドゥーRHまで140キロ。決して短い距離ではないが、どんなに時間がかかっても良い、とにかく左膝最優先の走りをしよう、この旅を諦めないために。

「よし相棒と体たち行くぜぃ!」

ゆっくりスタートした。時速10キロを下回っていて、太っちょライダーには見せられない走りだ。30分に一回休憩をとり、1 0分間のマッサージを入れた。ディープを毎回塗った。始めの3 0キロはずっとそうやって走った。調子を確かめながらゆっくりゆっくり。完全に痛みが無かったわけではない、けど十分耐えられる痛み、走ることを続けられる痛みだった。さらに良いことがあった!スタートから30キロ走ったところで、全くといっていいほど痛みを感じないペダリング方を見つけた。左のペダルが一番下に達する直前のところで、足先をガクンと強く下に落とす。足首の負担は大きかったが、とにかく今は膝だ。

「おぉ!これなら行ける!」

この日の晩は、ただただステディーに走った。そんな道中、ライトが大きな黒い塊を捉え、俺は慌ててブレーキを握った。

「おっ!スゲェー臭いっ!」それは大きなカンガルーの死体だった。今までも何度となくカンガルーの死体を見てきたから、ここで敢えて気にとめる必要はなかったが、そいつはあんまりにもデカイから、この時は見入ってしまった。ハンドルを右に左に振ってライトを満遍なく当ててみる。アバラがえぐれていて数本の骨と濡れた質感の内臓が飛び出てる。恐ろしく厚い太ももは力強さをまだ残してる。そんな彼の顔にライトを当ててみる・・・目は陥没してしまって深く黒い。ゾクッと寒くなった。

「私が何をしたって言うんだ。なあー教えてくれよ・・・」

その陥没した大きな黒い目が、そう訴えかけてくる。

俺は固まってしまった体を何とか動かし、相棒に飛び乗って、急いでそこを離れた。息を切らしながら後ろを振り向かずがむしゃらに走った。40キロ走ったところで、ガクンと疲れた。全く車が来ないもんだから、アスファルトの上に相棒と隣同士で仰向けに寝て星を眺めた。気が狂ってしまいそうなくらいキレイな宇宙。すごい・・・

「なー相棒、毎日毎日凄い数の死体をみかけるなあ。この国では一日に一体どれだけの動物が車にひかれているんだろう?そりゃー無念だろうな・・・世界の乗り物が自転車だけになればいいんだろうけど、ま、そういうわけにはいかないか」・・・・それにしてもすごい星空だ。

「きれいだなー相棒・・・お前じゃないよ、星がだよ・・・」

夜空を見て、心が震える経験を日本でしたことはない。

・・・

・・・

不覚にも道路の上で眠り落ちた・・・その間1 0分か2 0分か。

ガサガサという動物の音で目が覚めた。

「わっ!やばっ!眠っちまった!?こりゃ洒落にならん!!」

いそいで飛び上がり、相棒をたたき起こし、また走り出したものの、心臓のバクバクは当分治まらなかった。この時心に誓った。どれほど疲れていても、もう二度と路上では横にならない。アバラから内臓を飛び出さす気はさらさらない。

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