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オーストラリア2400km自転車旅初日前半

初めに

 日本と赤道を挟んで真反対に位置する国オーストラリアに、ワーキングホリデービザを使って一年間滞在した。語学学校で英語の勉強をしたり、ホームステイ先のホストマザーと喧嘩して家出したり、ファームステイ(牧場)先で、牛のウンチをその牛の頭にのせたり、7万円で買った車を7万円で売ったり、一年間のそんな日々の出来事をずっと日記に付けていた。

特に10か月目、11か月目がエキサイティングだったので、忘れないよう記録に残したいと思った。その時何をしていたのかというと、ずっと自転車を漕いでいた。

その道中、「なんで、そんなことをやっているんだ!?」と何度か問いかけられた。ずっとその問いにちゃんと答えられないまま、結局今になってみても、はっきりした答えはないけど。。。

いろんな出来事、出会い、景色、感情を経験した。

「なんで?」には答えられないけど、

「何、をしてたの?」と聞かれたら、

それはやっぱり『旅』だったんだろな、と。

2 0 0 2年1 2月1日早朝、季節は夏、オーストラリアの左肩に位置するブルームという街のキャラバンパーク(有料でキャンプさせてもらえる広い公園)の薄暗いシャワールームでシャーワーを浴びた後、買ったばかりの黒のバイクショーツとお気に入りの白いT シャツを着た。黒色のショーツが太ももをバチッと引き締めた。シャワールームを出ると、涼しい風が吹き、濡れた頭がひんやりした。その爽快感とともにいよいよ実感が湧いてきた。俺は今日この街を出発する。パースまで2400キロ、自転車で。

自分のテントの場所まで戻ると、シュンが朝飯を作ってくれた。シュンはキャンプ用品を一通り持っていて、この時も野菜炒めをガスバーナーで作ってくれた。シュンの作ってくれる飯はいつもうまい。荷物の整理も終わり、それを新品の自転車に積む。テントもたたみ、マットそして1 0リッターの水タンクも満タンにして積んだ。完全に積み終わった俺の自転車から5歩ほど後ろに下がり、それを眺めると、なかなかぽくなっていて興奮した。まさに自転車で旅をする人の自転車の雰囲気を出していた。俺にとって自転車での旅は人生これが初めて、そもそも一人旅そのものが初めてだった。期待感でゾクゾクした。

シュンとはここで一端のお別れ。シュンは自分の車を持っていたので、彼は車で、俺は自転車に乗ってすぐ近くのインフォメーションセンター(街の観光案内所) で再び落ち合うことにした。この時シュンは俺にサンドイッチを持たせてくれた。シュンは、玉ねぎスライス入りサンドイッチをよく作ってくれた。彼は結婚したらいい旦那さんになるだろな、と思った。

―シュンとの出会いについて―

シュンとは半月前、ブルームから東に1 2 0 0キロほど離れたところにあるキャサリンという町のB P (バックパッカーズの略称で、何人もが相部屋で寝る旅人用安宿)で会った。俺は、キャサリンにある全てのB Pをまわって、一番安いところに決めるつもりだった。一発目に寄ったB Pで、受付の太ったおばちゃんが部屋を見せてくれるというのでついて行くと、広々とした砂地の敷地の中に緑色の木々と交互に5つほどの宿泊ユニットがあった。奥から2つ目のところに連れていかれた。その中に入ると右手にシャワールーム、次にキッチンがあり、左手奥にドミトリー(共同で寝る部屋)があった。薄暗かったのを覚えている。

そのキッチンでアジア人がソーセージを焼いて油っこい臭いをさせていた。

「あなた仕事も探しているって言ってたわね!?彼は今マンゴーピッキングをしているわよ。いろいろ聞いてみたら」と、受付のおばちゃん。

それは良いと、さっそく話し掛けた。この時俺は彼を韓国人かと思い、下手な英語で話し掛けたところ流暢な英語で返ってきた。マンゴーピッキングの場所や労働時間、時給など聞けることは全部聞いた。聞き終わった後

「ところでお名前は?」と彼が。

「ヒロ」と答えると、一瞬沈黙があって

「日本人なの!?」と。

「後ろ髪が中途半端に長いし、眼鏡もなんだか日本人ぽくないし・・・」と言う。彼は俺のことを中国人だと思っていたようで。しかし、初対面の相手に「後ろ髪が中途半端に長い・・・」とか失礼(中国人にも)だな、と思わなくもなかったが、まーこちらもお洒落で髪を伸ばしていた訳でなく、ただ伸びていただけなので、別にいいかと。これが彼との初めの出会い。

その後、街中の他のBPをまわったが、シュンのいたところが良かったなと思いそこでの滞在を決め、彼と同じマンゴーファームで働くことにした。

その日からシュンと友達になるのに長い時間はかからなかった 、と思う。

一方彼にとって俺たちがこの時点で友達になった、という境界線はなかったよう。彼はいつでも誰に対しても、初めっから自然体だった。普通どんな人も、初対面の時は多少の壁があると思うけど、、、不思議なやつ。

キャサリンでの生活はとても楽しかった。もちろんシュンがいたことが大きかったが、他にも仲のいいバカを言い合える友達ができて良かった。マイケル(イギリス人)とかトーマス(べルギー人)とか。マンゴーピッキング中、俺は毒グモか何かに右足首を噛まれひどく腫れあがった。実は、もう日本に帰ろうかと弱気になってしまうくらい痛かったが、虫刺されが理由で帰るのもカッコ悪いなぁと思い耐えた。痛みを紛らわすのに冗談で

「足首をエミュー (オーストラリアのダチョウ)に噛まれた~!絶対に許さねー!捕まえてぶっ殺してやる一!エミュー!ファッキュー!」と叫んでいると、マイケルもトーマスも喜んだ。

「何て悪いエミューだ!ヒロ!俺たちも協力するぞ!そのエミューとっ捕まえてやる!」

俺の足首を心配するわけじゃなく、冗談が好きみたいだった。ある時は、深夜2時くらいにマイケルがバッと起きだし、

「何かゴソゴソ物音がする・・・エミューじゃない!?」

するとトーマスも起きだして、

「ゴミ箱の中が怪しい・・・ヒロちょっと見て来いよ!」

エミューのくだりいつまで続くんやろ・・・・夜中の2時やし・・・足痛いし・・・堪忍してくれと思うけど、冗談を言い出したの俺か、と思いしぶしぶ起きて足を引きずりながらゴミ箱の中をチェック。

「おおー !エミューのやつがゴミ箱荒らしてやがる!冷蔵庫の中のリンゴも1個減ってるー!ちくしよーエミューのやろー!ファッック!!」

冷蔵庫の中のマイケルのリンゴを勝手に食ったのは俺。だけど、マイケルはトーマスを睨み付けた(笑)

トーマスは、ヒロのためのエミュー調査だとか言って、仕事終わりにエッチなお店に数回通っていた。一度その捜査に同行させてもらった。見たことない変な色に塗装されたその店の中には、全部見せの本やビデオが所狭しと並んでいた。それに「一体これはどうやって使うんだ??」と思う不思議な道具もたくさんあった。俺とトーマスは鼻息が荒くなった。口数も減り、二人とも英語が下手くそになっていた(笑)毎日そんなバカなことばかりしている俺たちを見て、シュンはよく笑ってた。

結局キャサリンには一週間滞在した。マンゴーファームがシーズンを終えてしまったので、この街を出るつもりだったところ、シュンが行こうとする方向が同じだったので彼にリフト(車に乗せてもらってガソリン代をシェアする)を頼んだ。俺も車を持っていたがこの街でそれを売った。シドニーからキャサリンまでという長い道のりをそれで旅をしてきたので、売ってしまう際には少しおセンチになった。しかしそんなことは言っておれず、それを売ってやっと所持金1 5万円ぐらい、、、まだ3ヶ月以上ビザが残っていたので 心許ない額だった。

そうして俺たちが向かったのがブルームという街。ブルームまでの道中、良いことばかりではなかった。シュンの車はオンボロ、ほんとにオンボロ。4 2万キロをすでに走っていた。ある意味凄みがあった。もともとブルーカラーの車だったんだろうけど、グレーと時々ブラウン色に行きついていた。そのブルームまでの道中エンジン温が異常に上昇し、オーバーヒート。車が止まってしまった。ホースに亀裂が入っていて、そこから冷却水が漏れ出していた。その後が大変で、一番近くのガソリンスタンドまでヒッチハイク、そこからロードサービスに電話、しかしその日は休みだったらしく、来てもらったとしても牽引代がバカ高いと。仕方なくガソスタのおっちゃんに相談したところ、何でも近所にメカニックがいるというので、その人に連絡をとってもらい、なんとか修理してもらうようこぎつけた。そのメカニックが本当にいいおっちゃんで快く修理を引き受けてくれ、無事シュンの元ブルー車は息を吹き返すことができた。

広大な国オーストラリアのバカ長い道路の途中で車が止まってしまうというのは大変な恐怖だった。特にこの時期はひどく熱かったからなおさら。シュンの車が再び走るようになった時、俺は安堵感でグッタリ。そんな中さっそくシュンは軽い調子でエンジンをかけ車を走らせた。彼の横顔をふと見ると、薄く微笑んでる。

「アクシデントがあってこその旅だよ!いいスパイスになった!」

と嬉しそうに言う。何でも楽しめてしまうってのは、すごい才能だと思った。時はすっかり夕暮れ、突然雨が降り出した。ザーザーうるさい雨ではなく、ひ弱な雨でもなく。窓は全開のまま、ホクホクにほてった腕に雨粒がヒャッと当たるのがたまらなく気持ちよくて。

広大な大陸の中を、広くて長い道が続いている。その道の遥か先にあった真っ赤な夕日は、過去一度も見たことない大きさだった。この雨とシュンの笑顔のおかげで、俺もすっかり疲れが取れた。

無事ブルームに着いたお金のない俺たちは、いやシュンは金には困っていなかったかも知れないが、さっそく次の日から仕事を探した。この街では真珠採集の仕事があるとの情報を得ていたが、シュンいわく

「この町の真珠に関する日本人相手の仕事紹介は、マイケルという男が仕切ってるらしい・・・しかもその男、日本人の女の子を仕事名目で自分の家に泊めさせて、いたずらをする畜生らしいよ。」

この噂はどうやら本当のようで、街中のあちこちの掲示板に、

“真珠の仕事やってみませんか?電話ください。マイケルまで"という張り紙が貼ってあるのを目にした。仕事紹介所に行っても

「あんた達日本人だろ。ここに電話してみな。仕事もらえると思うぜ。」

と、渡された紙に書かれた電話番号の上のところには「マイケル」と書かれていた。う~む怪しい、と思いながら、俺たちはいったん宿に戻った。

そこの公共キッチンで一人の日本人女性に会った。きれいな黒髪の、肌も日焼けで真っ黒なかわいい女の子だった。彼女はこの街に一ヶ月前からいたようで、何かといろいろ聞いてみたところ、やっぱり「マイケル」の名前が出てきた。しかもそいつに襲われそうなったって・・・・。

実際どのレベルで何されたか分からないが、行くなや!そんなとこっ!て思う。

俺とシュンは2人で小さな会議をした。

「マイケルという男に仕事乞いに行くのはどうもねー、仕事紹介料取られんのもいけすかねーし、女の子に悪さしてるってのがなー。」

多少のひがみを込めて言った。

「・・・そだね」シュンはのんびりうなずいた。

俺たちは次の日から、自分達で仕事を探し始めた。いくつかの高級真珠ショールームに、汚い格好で、少し気が引けながらも、「仕事ありませんか!?」と乗り込んだ。どこもまともにとりあってはくれなかったが、最後の一軒

「直接力にはなってあげられないけど、これ持って行きな。」

と紙切れを一枚渡された。そこには数社の真珠工場の住所と電話番号が!

「おぉーー!」と思った。探偵にでもなったような気がして楽しかった!

けど楽しかったのはここまで。その後リストに載っているすべての工場に直接仕事を交渉しに行ったが、今はシーズンじゃないと断られ、結局一軒も捕まらず。かといってもうマイケルに仕事を乞う気にもなれない。

その時割り切れた。俺は仕事をせずに 、前々から始めたいと思いを募らせていた自転車の旅をするっ!と。

この日から3日ほどかけて旅の用意をした。自転車や付属品をいろいろ買って、残金は1 0 万円切った、これは恐ろしい。。。

そのころ毎晩1缶、シュンはアル中なので2、3缶のビールを持ってビーチに通った。夜のブルームはとても心地よい風が吹く。大きなビーチで、そばに数件バーがある。ほどよく人影も感じながら、時間を気にせず皆テラスや浜辺でお酒を飲んでいる。

気温は寒くもなく暑くも無い、ほんとに気持ちが良い風が肌をなでる。波の音がなんとものたりのたりして、とても美しい海だった。

「・・・こんな素敵なところに、男と一緒っかぁ~」

「いやいや、こんな素敵なところで男友達とビールを飲みながら、女の子の話をするのが楽しいじゃん!」とシュンは言う。

「そぅ!?・・・」

とにかく俺たちは2時間でも3時間でもずーっと寝っころがって、たわいもない話を楽しんだ。時間が流れているという感じはなかった。シュンは『流れ星』を見つけるのが上手だった。

「あっ!また発見!しかもダブル!!」そんなことをよく言ってた。

「本当かぁ!?」夜空がバカでかいから、俺は全天把握できない。

ほんとにシュンは見たのか・・・疑った。 

この時のことを思い出すと、今でも幸せな気持ちになる。楽しかった・・・

―ここまでがシュンとの出会いエピソード―

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