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オーストラリア2400km自転車旅9日目🚴‍♂️

9日目 「再び天国へ!」

午前6時、120キロ走りきっていた。いつもは1 0キロ毎に休憩していたのを、この走りでは20キロに一度の休憩で抑えることができた。膝の痛みは少なかった。足先を強く下に落とすべダリング、そして痛み止めとディープのおかげだった。ただ悪いことは、ケツと手の掌の痛みがあまりにもひどく気が滅入ってしまったこと。
俺の体重は長時間ケツだけにかかっているため、ヒリヒリのギドギドになっていた。立ったり座ったり、ハンドルに肘をついたりして何とか相棒に乗りつづけた。残り30キロ、その痛みすらも忘れてしまうほどの強い眠気に襲われ、自転車がよれて、何度も転倒しそうになった。自分で自分の頬を強く叩き、体にムチをいれて走り続けた。意地でも午前中に着きたい、日が強くなるとやばいのだから、必死。残り15キロ、風景は変わってきていて、あたりは半砂漠な荒野ではなく、家や工場が見え始めた。もうすぐ街だと思うと何だか緊張して目も覚めてきた。Hwyをそれ、右折し、街の手前の大きな橋にさしかかったところで、ケツの痛みに耐えられなくなり自転車を降りた。手で押して橋を登った・・・その時、車のクラクションがなる。たまにクランクションを鳴らしてエールをくれる人がいるもんだから、今回もそれだろうと思い、手を上げて応えた・・・・! ?

「・・・んっ?あれっ! ?」ボコボコにぶん殴られた後の顔みたいな車だ。多くのオージーが質の良い日本車に乗っている中、異様な雰囲気でオンボロのオーストラリアン車に乗っている日本人が、俺の横を通り過ぎていった。そいつはわざわざUターンし、また俺を通り越し、橋の向こう側にそのガラクタを停めた。俺は急ぎ足で橋を渡った。

「シュン!まだこんなところにいたんか! ?」彼は車を修理に出したりなんやらで、なかなかこの町を離れることができなかったらしい。で、まさに今日この街を飛び出そうとした時に俺たちは出会った。

「なんかヒロ、元気なく手あげるし、顔が死人みたいで、どうしようかと思った。クラクションならさないほうが良かったかなって・ ・なんかあったんだろうな・・・って思ってさ」

「はは!ごめんごめん、シュンって気付かんかったんよ。っていうかシュンそれ俺の服ちゃうん!?」俺はブルームで何着かのまだ着れそうな服をシュンにもらってもらい、どうしようもないボロボロのやつは捨てたはずだった。そのどうしようもない捨てた方のシャツと短パンを彼は着ていた。あぁ、、、意味不明。その後何を話しただろうか、とにかく憶えているのは、

シュンが言った次のこと。

「ヒロ、実は後悔してることがあって・・・バーンヒル。何で僕はあそこで一泊なり 二泊なりしなかったのかなって。あの後80マイルビーチも行ったし、他の海も見たけど、違った。全然ちがう」シュンはバーンヒルのような海が、きっとそこ以外にもあるだろう、と思っていたようだ。ところがそれがなかったと。

「う~ん、こっから500キロ、さすがに自転車で戻ろうと思える距離じゃないけどな、車ならなぁ・・・行けよ!!シュン」

シュンはしばらく考え込んで、

「・・・そうか・・・そうだね。行くよ。うん。」迷っていたと言うわりにあっさりと決めた。

「だったら食料と酒を買い込まないと!よし・・・ヒロありがと!」すっきりした顔で車に乗り込み、また街に戻っていった。俺も、とにかく街の中心部に向かった。あと少しだ。

「あーケツ痛てー!・・・ちきしょー」とぼやきながらも街に着いた。ブルームから600キロ、とうとうやった!そしてスーパーマーケットとその駐車場にシュンの車を見つけた。ジュースを買おうジュースを!と思い、相棒をしっかりと柱に鍵でつなげて、スーパーに入っていった。オーストラリアのスーパーはとても大きく日本とはスケールが違う。もちろんシュンに会った。

「買ったよ食材!後はビールなんだよねぇ、ビール・・ ・」アル中のシュンは、ビールがないと生きていけない。リカーショップ(酒屋)はそのスーパーの中にあったのだが、開くのが1 0時からということらしい。その時はまだ、9時をちょっと過ぎたぐらいだった。

「他のとこあたってみるよ」とソワソワした感じでシュンは足早に去っていった。バーンヒルのことを思い興奮しているようだった。俺は久しぶりのスーパーが楽しかった。といっても買ったのは、期限が切れかけで安くなったコーヒー牛乳だけ。喉はカラカラのカピカピだったがすぐにそれを飲まなかった。というのも、シュンにB Pを一つ勧めてもらったところがあって、そこに着いてから飲もうと我慢した。

「おめでとう俺!祝ポートヘッドランド着!よくやった!」と喜びをかみしめながら一人打上げをしようと思った。そのために残っていたタンクの水もすべて橋のところで捨てた。そうしてスーパーからBPに向けて走り出したのだが、これがなかなか見つからない。まだ1 0時になっていないというのに異常な暑さだった。午前中に着けてほんとに良かった。。。喉の奥がお互い引っ付いちゃって離れなくなった時はどうしようかと思う。そうこう街をくるくる回っていると、酒屋を見つけた。そこにまたシュンがいた(笑)

「今日はよく会うねー!」といって声を掛けた。シュンの頭はビールでいっぱいだった。

「ここも営業は1 0時からだって・・・」

見るからにお店は閉まっているのに、ノックして店員呼び出して、ビール売ってくれって頼んだということか!?すごいなーシュンは・・・。

10時まで時間つぶしに付き合うことにした。影の下に入っていたにもかかわらず異様な熱さだったのを覚えている。この時点で我慢できずにコーヒー牛乳を飲んだ。フライング打上げ。シュンは、熱さとすぐそこにあるビールに手が届かないイライラで、形相が変わっていった。

「すごいなーシュン・・・」俺はもう一度そう思った。

「はぁ〜バーンヒルに行くって決めたのはいいけど、 一人で行くのは少し寂しいなぁ・・・」

「(ん?ひょっとして俺のこと誘ってる?? )」

「あーヒロ・・・あれだねー、あの、バーンヒルはいいところだよね」

「誘ってる!?」

「うん!どう!?一緒にいかない!?」

今まで何度かこの自転車の旅を辞めようと思ったけど、昨晩の走りでやっとレールに乗った気がした。パースまでがんばって行けるんじゃないかって!

だから、気持ちのベクトルは南にしか向いていなかった。それに、たったの9日間の旅とは言え、シュンとバーンヒルに行くことはその糸を切ってしまうことになるんじゃないか・・・抵抗を感じた。

「おぉ~不意打ちだなそれ」と応えた。

「またちゃんとこの場所まで戻すから」シュンはそう言った。

抵抗感はあったけど、もう一度バーンヒルの砂埃だらけのベッドで横になったり、海風に吹かれている自分の姿を想像し、何だかとても嬉しくなった。

「行くか!」

「そうこなくちゃっ!」その時ちょうど1 0時になった。シュンは店に駆け込みビールをボックス( 2 4本)で買い、その場で2本取り出した。

「ヒロ、とりあえず、はい!」満面の笑みで一本渡してくれた。

「(さっきまで鬼の形相やったのに)」俺たちは偶然の再会に、そしてこれからの素敵なバーンヒルでの生活に乾杯した。

「乾杯!!」気が狂いそうなほどの暑さの中で飲むその味は、ただウマい!シュンはさっさとそれを飲み終え、自転車のタイヤを素早く取り外し、車に積んでくれた。俺はバイクショーツを脱ぎ短パンに、靴と靴下を脱ぎサンダルに履き替えた。一気に体が軽くなった!

「よし、行こーっ!!」元ブルーの車に二人で乗り込んだ。ポートヘッドランドに着けたこと、バーンヒルにもう一度行けること、シュンとまたビールを飲めること、、、、嬉しかった。シュンは勢いよくエンジンをかけ、アクセルをふかす。今日もなんとかこの車は動きそうだ。もちろんエアコンなんて効くはずもなく窓は全開。この日の熱さのひどかったこと。窓の外に腕を出すと、まるで電気ストーブの前に腕を出したようだ。窓閉めたほうがいいかも・・・

「シュン、これはちょっとやばくないか?・・・」

「し、死ぬ・・ ・」シュンの目は色を失っていた。一時間ほど走った後、空気が一気に締まり、グンと気温が下がったのが分かった。正常に息もできない異常な暑さはどうやらポートヘッドランドの周りだけだったようだ。

「助かった!」とシュンは言った。助かった、と俺も思った。あの熱さには明らかに殺傷能力があった。休憩なしに一気にサンドファイヤーまで走り抜けた。あの上品な夫妻から『ディープヒート』をもらったサンドファイヤーだ。おおよそ2時間半。車とはおそろしい。本当におそろしい、人間はすごいものを作った。Hwy沿いには1 0キロ走るごとにサインがある。俺はいつもそのサインを目安に休憩をとっていた。だいたい1サインに要する時間が5 0分。それが目に入ると嬉しくて、それを目標にがんばってこれた。ところが車となると1サインになんと5分しか要さない。あの5 0 0キロを、一週間かけた 500キロを鼻で笑うようにどんどん丘をこえて行く。道をぐいぐい吸い寄せてくる。どこも同じように見えるHwy、だけど俺は思い出すことができた。

あっ、何日前の何時頃に通ったところだ!ここはきつかったなぁ・・・

「ウォーーーーーーーーーーーーー ! !」窓の外に向かってありったけの声で叫んだ。シュンは

「また叫んでる・・・」といった感じに笑っていた。サンドファイヤーで小一時間の休憩をとった。この時シュンは、玉ねぎ入りのサンドイッチを作ってくれた。バーンヒルまであと150キロ。シュンは再びアクセルをふかした。

バーンヒルの手前、太っちょライダーど出会ったところ、あのシャムロックに寄った。もしかしたら俺の置いていったテントがまだあるかも知れない、、、と思ったが、なかった。誰かがもらってくれたなら、その方が良かった。今回はスイカを一つ買うことができた( 5ドル)。コレがとてつもなくでかい卵形で、日本のあの丸いスイカを2つ並べたくらいの大きさはある。バーンヒルに着いたら食べようということにした。そして俺たちは、あのでっかいタイヤに辿り着いた。半日で戻ってきてしまった・・・何ともはや・・・

「じゃーシュン、ちょっと待ってて」車を降りて、トコトコ歩き、ゲートを開けようとチェーンに手を伸ばす・・・

「あれ、・・・何だよコレ! ?」

「どうしたヒロ!?」シュンも降りてきた。

「・・・鍵っぽいものがさ、かかってんだよ、鍵っぽいのが」シュンは唖然としている

「ウソだー!?」それはとても受け入れがたい事実だった。

「やっぱりこの前泊まっておくべきだった・・・天国への扉はいつでも開いているわけじゃない・・・ってことか」と詩人は言った。俺たちはただ立ちすくんだ。もうシーズンオフ、ということなのかなぁ。恐らく俺とハーブが今年最後の客だったんじゃないだろうか。俺たちはここに来るまでの間だ、バーンヒルでの夢の時間を想像しては、その期待を膨らませ、ニヤニヤしていた。その期待の泡は弾けた。人様だけなら簡単にくぐれるゲートなのだ、ただ車が入れない。車だけ残して行くという訳にもいかない。ビールやせっかく買った食材がある。どうにかならないものか、俺には、シュンにバーンヒル行けよ!と言い聞かせた責任もある。あきらめたくない。オーナーの家がバーンヒルにあるのは確かだ。

「シュン、歩いていこ!歩いていって、オーナーにお願いして鍵を借りてこよ!」片道10キロ、歩けない距離じゃない。。

「・・・そうだね、まだあきらめるのは早いか。よし、歩こう!」しかしその時は確かもう 4時を回っていた。今日は無理だと判断し、バーンヒルステーションから南に10キロ、そこからHwyをずれて、海に向かって20キロ行った所にあるポートスミスというキャラバンパークで一晩過ごすことにした。

「待ってろバーンヒル!明日だ明日!」置ゼリフを吐き捨て、一旦そこを去った。

「だけどあれだね、こんなことでもなかったらポートスミスなんて行くことはなかったね。意外に素敵なところだったりして!」とシュン。

「あっ確かにそうかも」そうして少しポジティブシンキングで向かったポートスミスだったが、バーンヒルと比べ、月とスッポン、くだらない場所だった。そのくだらなさは、俺たちにやはりバーンヒル、あそこでなきゃだめだ!と確信させた。とにかく海に行ってみようかということになって海にも行ったが、それもだめ。干潟だった。ただで帰るのもしゃくなので、カニとシャコっぽいのとムツゴロウをつかまえた。それでシュンが味噌汁を作ってくれた。さりげなくカニの出汁がでていて

「あれ?うまいぞコレ!」

「あれってなんだよ、あれって」とシュン。この晩、シュンはテントで、俺は例のごとくパークのテーブルの上で寝た。シュンはテントで一緒に寝ようと言ってくれたけど、今日も星の下で寝ると言った。多分俺の体はすごく臭い。虫除けをしっかりしてからマットをテーブルの上にしいた。

「明日、うまくいくといーなぁ・・・」願いながら眠った。。。。。。

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