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オーストラリア2400km自転車旅7日目🚴‍♂️

7日目 「舐めてた」

 結局日が明けるまでに稼いだ距離は70キロ。1 2時間以上かけてそれだけ。。。。かなり遅い。ただ大きな成果は左膝の好調さだった。太陽を見るとなんだか安心して、道路の脇で少し横になった。できることなら眠ってしまいたかったが、日が出てくるとハエも出てくるので、それは難しかった。彼らが頼んでもいないのにプンスカプンスカ顔の周りを包囲するもんだから、30分で起き上がり、また走り出した。結局睡魔のせいで午前中は30キロしか走れず、午後に40キロも残してしまった。12時からは、、、思い出したくもない、地獄だった。太陽・風・ハエ・眠気・上り坂。休みたくとも日陰がない、止まっても座っても休めない、日の矢は降り続け、どんどん体力を奪っていく。あぁ、、、まずぃ。。。
やっとの思いで背の高い木を見つけ、その影の中に体を押し込んだ。。。

。。。遠い意識の中、車のクラクションが鳴った。
「お前大丈夫か⁈」と車から身を乗り出し声を掛けてくれた。無数のハエにたかられている俺が、生きているか死んでいるかを気にしてくれた。力なく、大丈夫だと言うサインに右手を上げた。水はまだあった。ただ休みたかった。ここでも休めないことを知って、また漕ぎ出した・・・・・・・・前にも後ろにも、右にも左にも、あるのは殺意に満ちた熱線と、焼き付いた黄と赤の大地。俺がどこにも逃げられないという証拠に地平線がこの地獄の広さを教えてくれている。目の前の道にいつ変化が訪れるのか、、、

あとどれだけ走れば抜けられる!?

・・・・・誰も教えてくれるわけがない、誰もいないのだから。ペダルを漕がなければ、この地獄を抜け出す可能性はゼロ、、、それだけは分かった。

ずっと左膝をかばうためにがんばってきた右膝に、痛みが走った 。。。
この時、頭の中で何かが切れた。

「ウギャーーーーー※!!*=*+#@*?+!!!!!」

奇声をあげた。極度の、極限の疲労と苛立ち。

「ギヤァーーーーー※!!*=*+#@*?+!!!!!」

乾いた大地は無情に俺の叫びを吸収していく。 目の前に破壊できるものは何も無い、怒りがどこにもぶつからず、また奇声をあげた

「バャーーーーーー※!!*=*+#@*?+!!!!!」

自転車を投げるようにして降り、ひたすら叫んだ。喉がちぎれるまで叫んだ。いつまでそんなことをやっていたのか、叫んでも何にも変わらないという現実を受け入れるのに何分かかったのか・・・・記憶がない。俺は思い出したように相棒を起こし上げた。雑な降りかたをしたため、相棒のフレームには傷がついてしまった。サドルとハンドルのちょうど真ん中に三日月型の小さな傷をつけてしまった。そのことを悔やんだ。

「ごめんよ・・・ごめん・・・」

喉が痛い。いくら水を口に含んでもすぐにロの中はガサガサ・・・

相棒にまたがった。

「ごめんよ。。。」どんどん遠くなる意識の中、またペダルを漕ぐより他、生き残る方法を持たなかった。最後の10キロ、あまりの逆風にペダリングできなくなり、相棒を手で押した。左膝の好調を維持することもできず右膝もやってしまった。。。道の長さを見ないために、ずっと下を向いていた。

きつい登り。

「・・・自転車完全になめてた・・・知らなかった・・・パラドゥーRHに着いたら、もう辞めよう。よくやったよ、俺・・・」

よくやった、と思った。そうしてパラドゥーRHに着いたのは午後8時。もう日は沈んでいた。長かった。きつかった。真っ先に1リットルのジュースを買い、息もつかずに飲みほし、バタンとその場に倒れこんだ。何も考えられず、震えていた。べンチとテーブルはショップの裏にあるキャラバンパークの中にしかなく、しぶしぶ腰をあげ、キャンプ代を払った。ショップを出て、柵を超えると、暗い中でも芝生が広がっているのが分かった。その中で一番近くにあった一対のべンチとテーブルを確保した。そのべンチに座り、肘をテーブルにつき、顔を伏せ、足をガタガタさせながら緊張が取れるのを待った。蚊をはたくのも億劫だった。

「今朝までは順調だったんだ・・・今朝までは・・・クソー・・・」

しばらくして

「よー元気か!?」と、ここでキャンプをしていたらしいオージーのおじーちゃんに、明るく声をかけられた。

「悪すぎる・・・」と低い声で答えた。

「こっちこいよ!」と、おじーちゃんは手招きする。

「足が痛いんよ・・・」

「だからついて来い!」

だから、の意味は分からなかったが、俺はゆっくりと立ち上がりついて行った。そこには大きなバスが、その脇にはおばーちゃんがアウトドア用チェアーにすわってリラックスしている。

「まーちょっと中に入ってみろ」

そう言われ、バスへの段差が億劫だったが、中に入ると立派な部屋だった。シャワールーム、キッチン、パソコンなどなど生活に必要な全てがそろっていた。彼らはこのバスで生活し旅をし、仕事もしているという。何の仕事かよくわからない。

「お前の車(自転車)よりはいいだろ! ?」皮肉なことを言う。

「おい青年、南に向かってんだよな。俺のこのバスに乗っけてやるよ。お前の足、大丈夫そうには見えないんだよ。」やさしいおじ一ちゃんだった。

「ありがとう。けどいいよ。体臭すごいから、俺」やっぱりまだ自転車を辞められない、と思った。

「そりゃ困る。とっとと降りてくれ」

飴と鞭がすごい。バスから降りるとべンチを出してくれた。おば一ちゃんに

「How are you!?」と聞かれ、
「悪くないよ」と答えた。じーちゃんのやさしい誘いで、元気がでた。

「まー座れよ。何がいい?コーラか、ビールか?」

「ビール!」遠慮ナシに言った。

自転車の旅を始めてまだ数日なのに、オーストラリアの人たちにこんなに優しくしてもらって嬉しい・・・・自分が逆の立場だったら、見るからに臭い旅人に絶対に声を掛けない。

「これで足の痛みもとれるだろうよ。」そう言って渡してくれた。いっきに飲み干す。飲み干してから

「ありがとう!」と言った。そしたらもう一本でてきて、また遠慮なくもらった。今度はゆっくり飲もうと思った。まさかビールをもらえるなんて。冷たくてうまかった!じーちゃんは、うまそうにビールを飲む俺を見つめながら、

「なんでそんな辛いことするんだ?」と。

「知らなかった・・・始めるまで、これが辛いことだって」そう言うと、じーちゃんは納得いかないという顔をした。クールな答えを言えなくてごめん。酔っ払っている俺は

「ビールほんっとにうまい!ありがとう!」と言った。その後はたわいもない話をした。日本のこと、オーストラリアのこと、彼らのバスの自慢話など。そういえばスイカもだしてくれた。

「ビールとスイカあいませんね。」生意気を言った。

「じゃー返せ!」

謝っておいしくいただいた。とても楽しかった。だけど、疲れていた。。。

「今日はこれでひきます。本当にたくさんありがとう!」そう言ってべンチから立ち上がった。

「そうか。俺たちは明日朝早くをココを発つから、もし気が変わったらそれまでに言いにこいよ。」そしておじいちゃんは腰に手を当てながら一旦バスの中に入り、またすぐ出てきて、 コレを持ってけ、と言って錠剤を12錠くれた。

「何これ?」

「痛み止め。俺は頭痛のために飲んでんだが、お前の膝にも効くだろうよ」

ちくしょーじーちゃんやさしいなぁー。。。
コンチキショーと思う。じーちゃんに今すぐにでも抱きつきたかったが、足が痛くて出来なかった。最後に、

「なんで、そんなに優しくしてくれるんですか!?」って聞くと、

「アイ ドンッ ノー!」と言って笑っていた。あぁ、なんかカッコイイ。

「それじゃーまたな青年」

「うん、ほんとにありがとう!」おじーちゃんはおば一ちゃんのもとへ、俺は相棒のもとへとそれぞれ別れた。

「ただいま相棒」声をかける。体はとても疲れていた。だけど気分は晴れ晴れとした。あー今日もテーブルか・・・とぶつぶつ言いながらテーブルの上にマットをしいて寝ようと思ったら、でっかいゴキブリがマットの上をはっていた。

「おいコノヤロー!そこは俺の寝床だ。」靴を片方とり、バチンッと勢いよく叩いたら、ゴキブリの体液が顔にとんだ。マットもベチョッとなった。

あぁ、、、マットごと払い除ければよかった。

「ダメだ、俺酔ってらぁ~」シャツの袖で顔をぬぐい、昨日引きちぎったTシャッでマットを拭いて、あとは倒れた。。。

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