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「10月の珈琲 Colombia:裏側の世界」

香りのもとは、葉の裏側にぎっしりとあった。

Colombia:裏側の世界
金木犀が香る夜
閉まる雨戸の隙間から
するりと部屋に滑りこむ
みじかく、ほそく、やわらかい
窓に張り付いていた小さな家守
背に光を浴び、闇夜へ帰っていった
ガラス越しに交わるコクと酸味

金木犀がやさしい香りを漂わせはじめた。

暗闇の冷たさにふわりとした甘い香りがふくらむ。

空気が少しばかり明るくなったように感じながら、雨戸をひいた。

するり…

閉まる雨戸の隙間から、なにかがするりと灯りのついた部屋に滑り込み、足の指を這った。

やわらかい…

雨戸を閉める手をとめ、足元を見、畳を目で追った。

そのみじかく、ほそく、そして、とてもやわらかいなにか。

あぁ、家守。
やわらかさに、ガラス窓に張り付くしろい腹を思い出した。

どうやら、家守は、閉まる雨戸の音に驚き、家の中に入ってきてしまったらしい。

透明のガラス窓で仕切られていたはずの外の暗闇と明かりの灯る家の中が、するりと入り込んできた家守によって交わったことを感じた。

ただ、家守はここはどこ?と、居心地悪そうに固まっていた。

これはいけない。

家守を外に返そうと動いたわたしに、さらに驚いた家守が慌てふためいて、畳のすみへと逃げ、金木犀の香る闇夜に帰っていくのが見えた。

その小さな背には、普段、浴びることのない光が当たっていた。

それは、葉の裏にぎっしりと香りの元を背負った金木犀のようだった。

10月の珈琲「Colombia:裏側の世界」のコクと酸味は、家守の知るわたしの知らない闇夜の世界は金木犀の香りでやわらかくなったコクのようで、そして、一瞬にして、家に入り込み、逃げていったやわらかい家守のような酸味だった。

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