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not/good




 きっと大嫌いと大好きは紙一重なんだろう。


 最低で、クズで、どこまでも自分勝手なその人は、どうしようもなく私を振り回す。その度に裏切られて、傷ついて、大嫌いだと何度も思うのに、その人があまりにも優しく抱きしめてくれるものだから、それだけでまた、私はあなたに期待してしまう大馬鹿者になってしまった。



 指先を絡めて、互いの視線が絡んで、その先にある感情は一体何なんだろう。まつ毛が触れ合う距離で小さく心の中で問うた。


 答えは、何度考えたって分からない。そうやって今日もまた答えを誤魔化して、淡い空気の中に溶かしてしまうけれど、本当は知っていて、それはきっと、この瞬間を終えてしまうことになってしまうことも知っている。十分に分かっているのだ。だからこうして知らないふりを続けている。


 私は、あまりにも儚くて時々幸せで残酷なこの空気の中でまだ溺れていたい。いっそ、自分で呼吸できないぐらいになってしまえばいいんだろうか。あなたによって生かされているのも悪くないかもしれない。


 良くないことは十分に頭では理解しているけれど、どうしようもなく女の本能の部分が求めてしまうのだから抗いようがない。



 その声で名前を呼ばないでと思うのに、その声で私だけを呼んで欲しい。他の人の名前なんて呼ばないでという矛盾を、もう何度、何十回、何百回繰り返しただろうか。


 いっそ、その自分勝手さも我儘さも全部、私だけに向けてくれればいいのにとさえ思う私は、きっとどこか歪んでいる。何かが欠落してしまったのかもしれない。

 そうして何十回目かの、こんなことなら出会いたく無かったという思考に辿り着く。そしてその後に、あなたの事を知らない世界がどんなに味気ないものなのかを考えてしまう。

 この堂々巡りはまだ終わらない。まだ、終わらせないで。誰にも邪魔させない。
いつか全て自分できちんとけじめをつけるその日までは。もう少しだけ。



#創作大賞2023 #恋愛小説部門

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