マガジンのカバー画像

ベルベット・ヘイズ

6
心地よくて、形が無くて、それでもいいと思ってた。
運営しているクリエイター

#恋愛小説

▪️chapter.4

▪️chapter.4

・・・

「記念に撮影しておこうよ」

彼は、脇腹のタトゥーをなぞりながら、名案だとでも言うようにパッとベッドから身体を起こしてフィルムカメラを手に取った。

「いや、恥ずかしいからいいって」

「ファーストタトゥーだよ?思い出に残しておこうよ」

はい、そこ立って。と、裸の私を鏡の前に導いた。画角を確認する様子は、至って真剣で、恥ずかしがっている私の方が恥ずかしくなってきた。

作品として撮影を

もっとみる
▪️chapter.3

▪️chapter.3

・・・

何かが変わるかと思った。

きっと私の母が知ったら、怒るというよりショックを受けてしまうんじゃないだろうかと考えると、なかなか決断するまでに堂々巡りを繰り返した。けれど、これは自分へのケジメでもあり、決意でもあった。

私の人生は私のもの。
主役になるのも脇役になるのも自分次第。 

そう言われてハッとしたあの時。
自分は自分で脇役に徹していたけれど、私を主役にしたストーリーがあってもと

もっとみる
▪️chapter.2

▪️chapter.2

・・・

気がつけば3年という月日が経っていた。

知り合った頃のあの人はギリギリ20代で、私はギリギリ20代前半だった。こんなにも一年経つのって早いんだね、と1ヶ月振りの背中に問うた。

コーヒー豆を挽きながら、確かにね、と言ったあの人の気持ちというのは、私には怖くて聞けないままだった。

マップを見なくても覚えたこの家と、緊張することなく玄関の扉を開けられるようになって、おかえりと言われるこの

もっとみる