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My Bloody Valentine徹底解剖・全音源レビュー


こんばんは、内山結愛です。

一つのバンドを徹底的に調べ、深く学び、聴きまくる、いちバンド深掘りシリーズ!

今回はMy Bloody Valentineについて、バンド概要から今までリリースした全音源のレビューまで、まるっとこの記事を読めばマイブラのことが(ほぼ)全てわかる記事をお届けします。


■My Bloody Valentineって…?

 1984年にアイルランドのダブリンで結成。バンド名はカナダのB級スプラッター映画に由来しており、「マイブラ」や「MBV」の略称で親しまれる。メンバーはKevin Shields(G、Vo.)、Colm Ó Cíosóig(Dr)、Bilinda Butcher(G、Vo.)、Debbie Googe(B)の4人。

 活動当初は当時のオリジナルメンバーの影響もあり、ガレージロックやポストパンクに傾倒したサウンドスタイルだった。1987年頃、当時ボーカル担当でバンド名の考案者でもあったDave Conwayとその恋人Tinaが脱退し、Kevinがしぶしぶリードボーカルをつとめることになり、Debbie Googe、Bilinda Butcher加入後は音楽性も大きく変わることとなった。1988年にはAlan McGeeがオーナーをつとめるCreation Recordsへ移籍し、EP『You Made Me Realise』と1stアルバム『Isn't Anything』をリリース。これらの作品は批評家からも高い評価を受け、『Isn't Anything』はインディーチャートでも一位を記録し、大きな成功を収めた。

 現在までアルバムは3枚しかリリースしていない。少ないアルバムのリリースで、マイブラらしいシューゲイザーサウンドを確立するにあたって、様々なアーティストからの影響も外せない。Kevinは、『Isn't Anything』(1988)制作当時からDinosaur Jr.やSonic Youthといったエッジのたったギターを特徴とするアメリカのバンドや、Public EnemyやEric B. & Rakim、LL Cool JなどのHIPHOPなどに影響されたことを公言(*1)している。数々の影響を受けた音楽が、マイブラの持ち味である何層にも重なるノイジーなギターサウンドや、リバーブの深くかかったウィスパーボイスな歌唱、歪ませた幻想的な音像というスタイルに溶け込みながら、自分たちらしさへと昇華されてきたのが彼らの音楽だ。そのような過程で誕生した『loveless』はシューゲイザーの金字塔として広く知られ、マイブラサウンドは現在もジャンル問わず様々なアーティストに影響を与えている。

 マイブラのほとんどの曲を手掛けるKevinは、オリジナリティのあるギタープレイ・サウンドでも知られている。ノイジーで浮遊感のあるサウンドを生み出すギターの「トレモロアーム奏法」はKevinのトレードマークとして知られており、後のミュージシャンにも多くの影響を与えた。2003年版の「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリスト」では、95位にランクインしている。また、空間に奥行きを持たせ、サイケデリックな音色を作り出すリバース・リバーブペダルの使用もKevinのギターサウンドの大きな特徴として挙げられる。

 ギターに関する技術的な話題はもちろん、マイブラの幻想的な世界観はKevinの精神性と切り離して語ることはできない。Kevinのこだわりだという「解放感と自然発生的な感覚のあるもの」といった精神世界的な感性も、マイブラ作品の制作面の多くに通じている。このこだわりについて、「なんだって起こり得る、というフィーリングをつかまえることを目指している。」とKevinは語っており、制作中にその場で実験的に自分のフィーリングの赴くままに音を重ねることもあった『In'tAnything』は、特に自然発生的な作品だったと振り返っている(*2)。

 マイブラは後世語り継がれるゴシップな話題にも事欠かない。1991年頃、『Isn't Anything』の制作費が7千ポンド(当時約120万円)だったのに対し、『loveless』は27万ポンド(当時約4500万円)もの制作費を費やし、Creation Recordsが破産寸前になったことなどから『loveless』がリリースされてすぐ、レーベルとの契約が打ち切られた。Creation Recordsとの契約を終えたバンドは、翌年にIsland Recordsと契約を結び、新しいアルバム制作のためホームスタジオを建設したがトラブルが続き、レコーディングは停滞。『loveless』リリース後は、アルバムリリースを含め表立った活動が無く、長い間バンドは活動休止状態となる。その間KevinはPrimal Screamにサポートギタリスト(1998〜2003) としてライブにも多数参加し、『XTRMNTR』(2000)、『Evil Heat』(2002)の音源もリリース、Patti Smithとのコラボでも、ライブ参加やライブ音源『The Coral Sea』のリリース(2003〜2006)、映画「Lost in Translation」(2003)の劇伴をBrian Reitzellと共に担当するなど、その他のメンバーもマイブラ以外の自由な音楽活動をしていた。

 マイブラは2007年に再始動を発表し、新作の発表などは無いもののライブ活動が行われた。2013年2月2日には22年ぶりのアルバム『m b v』のリリースを突如告知し、その同日販売開始された。2021年時点でKevinは「MBVの新作は必ず作り上げる。」と明言しており(*3)、音楽制作への意欲を見せているものの、現時点(2024年5月)で新たなリリースは発表されていない。


*1『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p77、p114
*2『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p54
*3「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン、ケヴィン・シールズが語る過去・現在・未来」Rolling Stone Japan

■私とMy Bloody Valentine(My Bloody Valentine関連記事)

 今でこそ「シューゲイザー」という言葉はよく知っているし音楽も大好きだけど、ヒットチャートやJ-popを聴いて育ってきた私は最初はその言葉も、もちろんMy Bloody Valentineのことも何も知らなかった。初めてMy Bloody Valentineの音楽に触れた時、未体験の音像に圧倒され、混乱することしかできなかった。
 私にとって My Bloody Valentineは「シューゲイザー」の教科書で、My Bloody Valentineを通して「シューゲイザー」を知り、My Bloody Valentineについて知りたいと思い、吸収し続けた今日までの私のMy Bloody Valentineに関するお仕事や記事を紹介!

・Mikiki〈マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(my bloody valentine)と私〉の連載寄稿

・BUBKA2月号「BUBKAアワード 2021-2022」のコーナーにて、My Bloody Valentineの『Loveless』全曲レビュー

・#DOMMUNE 「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界」に出演

・『Loveless』を2019年と2023年に2度全曲レビュー

■お気に入りの一枚『Isn't Anything』(1988)全曲レビュー

l. Soft As Snow (But Warm Inside)
イントロのドラムでワクワクさせる天才。「Only Shallow」とかもそう。粒子小さめでジャリついたギターが不穏にウワンウワンと反復して蠢いている。幻聴みたい。幽玄なコーラスもかなり不気味。全部幻聴みたい。歌のメロディは全然不穏なんかじゃなくて美しいのが面白いバランス。0:55〜好き。KevinとBilindaの恋愛関係を描いた曲らしい。

2. Lose My Breath 
鬱々とした雰囲気。悲哀に満ちたBilindaの歌声。アコギの響きが寂しくて温かい。ドラムが遠くの方で実はとんでもなくバタバタしている。「ウー」のコーラスが耳に残る。基本的にずっと同じ温度感だけど、終盤ほんの少しだけ高まる演奏の熱が、静かにグッとくる。

3. Cupid Come
マイブラはギターが何か別の生き物みたいに聴こえる時がある。イントロの小刻みに規則的に刻まれるベース好き。終盤のブシャーと強烈にノイジーになっていくギター格好良い。全てがギターに飲み込まれていく。本作はレコーディングするのに5日間しかなく、Kevinによると「レコーディング中に睡眠欠乏状態になるとどうなるか?ってことを実験した」(*4)アルバムらしいけど、まさにそういう妙な夢見心地感がある。

4.(When You Wake) You're Still In A Dream
重たいけど疾走感がある。攻撃的で格好良いギターリフ、金属を感じる。不思議な爽やかさ。「ウー」の神々しいコーラス。歌詞の様子がおかしい。レコーディングの時毎日2時間くらいしか寝てなかったらしいから沢山寝かせてあげたい。

5.No More Sorry
光が差し込む。揺らめく音像。スピリチュアル轟音。『Isn't Anything』は色んな曲調があって試行錯誤を感じられる。

6. All I Need 
全ての音の輪郭が曖昧。全てが一つになって溶け込んで行く。何層にも重なった幻想的なギターが耳をつん裂き、包み込む。ドラムの音が鼓動音に聞こえる。ボーカルも本当に聴こえているのか自信がなくなってくるくらい薄らと、ドリーミーに響いている。このギターサウンドは当時相当斬新だっただろうな。Kevinによると「波がぶつかって砕けるような感じのエフェクト」(*5)らしい。

7. Feed Me With Your Kiss
大好き!キメのタイミングが一拍ずつ増えていくイントロ好き。ギャリッギャリなサウンド。ギターが重機。火花出てそう。「この音こそグランジではないか」と評されたこともあるらしい。わかる。2:20〜ドライブ感あるこのフレーズ、めっちゃ格好良い。KevinとBilindaのユニゾンだけが優しく響いている感じも好き。演奏はひたすら容赦ない。

8. Sueisfine
Kevinによるとこの曲の歌詞は「歌の歌詞を思いつくというよりも、精神面で少々異常をきたしている人の状態になり、そこに共感して書いた」(*6)らしい。ドラムがマシンガンみたい。不協和音なギターのノイジーさと、しっかり味わうと甘さが出てくる歌のメロディという組み合わせは発明。重なるボーカルが不自然にズレている「Sueisfine」と繰り返すフレーズ、気づいたら「Suicide」になっていくアハ体験…好き。

9. Several Girls Galore
酔う…ナイスサイケデリック…。時空が、空間が歪められる。その場にある全てをゆっくりと薙ぎ倒して行くような凶暴ギター。ノイズノイズ。歌声は神々しく、メロディも甘いけどなんだか危なそう。ずっと「正気の沙汰じゃない」と歌っているけど、本当そんな感じ。

10. You Never Should 
ギターがブリブリ鳴ってる。どうやってこんな音を出しているんだ。ドラムのリズムも相まって「今工事してる…?」みたいな時が何回かある。Kevinが初めて作った音源は、バキューム式の掃除機を楽器にしたものだったらしいけど、その頃から音楽や音に対する実験的な姿勢、興味関心凄いな…。1:40〜もはや事件。この爆撃は何事!?でも段々と気持ち良くなってくる。轟音の向こう側に連れて行かれる。

11.Nothing Much To Lose
格好良すぎて笑っちゃう。初めて聴いた時はこのイントロを受け入れるにはまだ自分が幼すぎて「!?!?!」だったと思う。ドラムの連打と巨大な波みたいに襲いかかってくるギターにテンション上がる。イントロあんなに暴れていたのに、歌が入ると思いの外穏やかで安心感がある。性急な緩急。1:25〜また間奏の大暴れに戻るの面白い。あまりにも急。違う曲を途中で挟んでるみたい。緩急に振り回され続ける。どんどんボリュームが上がっていくようなノイズが格好良い。

12. I Can See It (But I Can't Feel It)
タイトル、括弧の中で反対のことを言うシリーズ好き。さっきまでのノイズが嘘だったみたいに、温かな演奏。歌声光ってる。二人の声の重なりが甘くて煌めいていて好き。嵐が過ぎ去った後の平穏。歌詞は不穏。


*4 『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p75
*5 『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p79
*6 『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p78

■全音源レビュー

♦アルバム編

『Isn't Anything 』(1988)

ひどい睡眠障害の中制作されたデビューアルバム。生き物のように、時に重機のようにうねり吠えるギター、輪郭が曖昧なボーカル、ノイズに耳を凝らすと気づく甘美なメロディ。当時KevinはDinosaur Jr.やSonic Youthなどに熱が入っていて、自分たちらしさを残しつつ、彼らのようなノイジーで爆音なギターサウンドの構築を探っていたという。実験性に富みながら、不穏で甘美にサイケデリックな世界が繰り広げられている。

『loveless』(1991)

シューゲイザーの金字塔的作品とされる2ndアルバム。その一方で、約25万ポンド(当時約4500万円)とレーベルを潰しかけるほどの制作費がかかっている。加えて、BilindaとKevinの恋愛関係は破綻し、他メンバーは病気を患っていたりと、バンド内が不安定な状況の中で、ほとんどKevin一人で作ったなど、色んな意味でとんでもないアルバムでもある。そんなKevinは制作当時の状況を「思考プロセスではなく、感覚がクリアで、絶え間なく"わかって"いた」と振り返っている。本作はジャンル問わず多くのアーティストや後世のギターサウンドに計り知れない影響を与えているが、特に「Only Shallow」の印象的なスネアの連打で始まるイントロは多くのバンドによってオマージュされている。

『m b v』(2013)

1996年から1997年の間に自宅スタジオでKevinがBilindaと2人で録り溜めていた楽曲を基に作られた、前作から22年ぶりの3rdアルバム。ほぼ全ての曲作りや楽器演奏をKevin一人で行なっており、Bilindaはボーカルで参加。本作の構成は、ノイジーなギターやその圧倒的な音の厚みといった『loveless』らしいサウンドを楽しめる1〜3曲目の第一パート、幻想的でドリームポップな4〜6曲目の第二パート、インダストリアルやメタル要素も感じる凶暴な7〜9曲目の第三パートの計3ブロックに分かれている。Kevinによると、自身の死生観をテーマにした6曲目「New You」は、故Kurt Cobainに捧げた曲だという。22年の時を経てさらに磨き上がったマイブラらしさ、幼少期から通ずるKevinの音楽に対する好奇心は薄まることなく、より自分自身の内側を滲ませながら、マイブラの可能性を切り拓いた一枚。

♦シングル・ミニアルバム・編集版編

『This Is Your Bloody Valentine』(1985)

Tycoonからリリースされた7曲入りのデビュー作。当時のメンバー編成はDave Conway (Vo.)とその恋人のTina (Organ)、Colm (Dr) 、 Kevin (G、 B、Back Vo.)。初めて聴いた時、ボーカルがそもそも違うため、このダークで不穏なゴシックガレージパンクサウンドを聴いてもマイブラだと信じられなかった。淡々さと真逆にいるような、抑揚たっぷりのDaveのボーカルや、テンション高めの曲たちが並ぶラインナップはいつ聴いても驚く。一方で、攻撃的なギターのフィードバックノイズや️、サイケで独特な浮遊感ある演奏は、のちに確立されるマイブラらしい演奏スタイルへ繋がっていくことを予感させる。

『Geek!』(1985)

Tinaが脱退し、Debbie Googeをベーシストに迎えて、Fever Recordsからリリースされた4曲入りシングル。火花が飛び散るようなギャリギャリギターサウンドに、現在のマイブラの片鱗が見られるが、前面に押し出された濃厚ゴシックなDaveの歌声にはまだビックリしてしまう(一方で、Daveのボーカルがクセになっている自分もいる)。「Sandman Never Sleeps」のKevinによる違和感のあるコーラスは、その不気味さにニヤニヤしてしまう。

『The New Record by My Bloody Valentine』(1986)

Kaleidoscope Soundからリリースされた4曲入りシングル。何があったのかDaveのボーカルの抑揚はわりかし落ち着いているが、まだ現在のような男女ボーカルではない。ギターのノイズ、轟音、音割れが強烈で、サウンドは確かに凶暴だがデビュー作ほどのゴシックさや不穏さはなく、メロディは明るい。ギターのノイズがシャワーのように降り注ぐ一曲目のタイトルが「Lovelee Sweet Darlene」で、その演奏と曲名のギャップが面白い。ビシバシと響くColmのドラムは相変わらずマシンガンのようで格好良い。

『Sunny Sundae Smile』(1987)

Lazy Recordsへ移籍してから初めてリリースされた4曲入りシングル。徐々に定着し始めたKevinの轟音ギターや、Colmの勢いのある激しいドラミングはより磨き上がり、ビシバシというかボコボコで勢いがある。今までにない煌めきを感じるのは、女性ボーカル(Bilindaではない)を取り入れたことも大きく影響しているはず。キュートなメロディがお気に入りだった「Paint A Rainbow」は、「屍姦」について歌っているなんて…!

『Strawberry Wine』(1987)

Lazy Recordsからリリースされた3曲入りシングル。オリジナルメンバーだったDaveが脱退し、その代わりにBilindaが加入、現在のメンバーで発表された初めての作品でもある。どんな曲もBilindaが歌えば爽やかな風が吹き込むよう。これまでは男性ボーカル中心だったこともあり、濃厚さが中和され、ポップでハッピーなサウンドに昇華されている。メンバーの交替があるたびに変化していくサウンドに注目するのも楽しい。

『Ecstasy』(1987)

Lazy Recordsからリリースされた7曲入りミニアルバム。こんなハッピーなマイブラもアリかもしれない。一方ギターはしっかりノイジーでサイケデリック。The Jesus and Mary Chainにも影響を受けており(*7)、フィードバックノイズの効いたギターサウンドは「Clair」でよく堪能できる。「I Don't Need You」や「(You're) Safe In Your Sleep (From This Girl)」は、フォークロックとノイジーなギターが溶け合ったサウンドで爽やか。12弦ギターにリバース・リバーブ (マイブラサウンドに特徴的なエフェクトの一つ)をかけることで生み出されているキラキラ成分に心踊る。

『You Made Me Realise』(1988)

Creation Records移籍後初の5曲入りシングル。「You Made Me Realise」は当時Kevinが好きだったSonic Youthのオマージュ曲として当初EPの5曲目に収録される予定だったが、Alan Mc Geeがリードトラックに推した(*8)。ブルドーザーのような強烈にノイジーなギターを聞いて、2008年のフジロックで20分近く続いたというノイズパートを体感してみたかったと強く思った。HIPHOPな「Slow」では Kevinの代名詞でもあるトレモロアーム奏法による甘美でサイケデリックな音世界を存分に堪能できる。本作でマイブラはより「マイブラ」に化けた。

『Feed Me With Your Kiss』(1988)

Creation Recordsからリリースされた4曲入りシングル。表題曲は『Isn't Anything』にも収録されており、「You Made Me Realise」で目覚めたギャリギャリなギターノイズが疾走感と掛け合わさって無敵。ベースとユニゾンするギターリフ、キメが一拍ずつ増えていくイントロや間奏、KevinとBilindaが声を重ねれば夢見心地な空間が広がり、サウンドのノイジーさと、メロディの美しさ、甘さのギャップが奇跡的なバランスで成り立っている。

『Instrumental』(1988)

アルバム『Isn't Anything』の初回プレス限定5000枚に付いていたシングル。両面ともインスト曲で、マシンガンのようなドラムがブっ放されギターがうねりまくる攻撃力抜群のA面 (一瞬「Feed Me With Your Kiss」が流れ出したかと思った。)、Public Enemyの「Security Of The First World」からサンプリングしたドラムループ(*9)に、もはや幻聴のようなギターとシンセが漂う、催眠的でトリップ感覚を味わえるB面の2曲が収録されている。

『Ecstasy & Wine』(1989)

Lazy Recordsからリリースされた、シングル『Strawberry Wine』と、ミニアルバム『Ecstasy』を組み合わせて発売された編集盤。当時Lazy Recordsがバンド側の許可を得ないままリリースしてしまった(*10)ことなどから、現在オフィシャルのディスコグラフィからは外されている。

『Glider』(1990)

Creation Recordsからリリースされた4曲入りシングル。打ち込み、ダンスビート、ギターのノイズ、幻想的なコーラスが全て混ざり合い、反復の中で気持ち良くなっていく「Soon」。この曲は『loveless』の最終曲でもある。凶暴なバイオリンのような音を繰り返すギターが印象的な「Glider」は、「このまま終わりが来ないのではないか」とさえ思えてくる。これは「無限の持続性」を内包した『loveless』に通じているよう。

『Glider E.P. Remixes』(1990)

Creation Recordsからリリースされた2曲入り12インチシングル。「soon」のAndrew WeatherallのRemixと、「Glider」のKevinのRemixが収録されている。「soon」は原曲よりもギターのノイズ成分が抑えられ、ビートが強調され、バブリーでディスコな雰囲気。「Here we go!」の掛け声は何度聴いてもツボ。「Glider」は原曲のギターのワンフレーズを9分近くひたすらループさせていて、原曲でも「このまま終わりが来ないのではないか」と思っていたけど、「今度こそ終わりが来ないのではないか」と不安になりながら、轟音に沈んでいくのが気持ち良い。

『Tremolo E.P.』(1991)

Creation Recordsからリリースされた4曲入りシングル。モノラル録音とギターのフィードバックノイズを積み重ねて生み出された(*11)という轟音が眩しくも強烈な「To Here Knows When」は『loveless』にも収録。トルコのベリーダンスのリズムをサンプリングした東洋的でトライバルな「Shallow」を聴いて、ギターフレーズに東洋みを感じていた『loveless』収録の「I Only Said」を思い浮かべた。『loveless』でシューゲイザーの金字塔を打ち立てる直前の、革命前夜的な作品でもあり、好奇心のままにサンプリングを駆使するKevinの音響実験の数々を楽しめる一枚でもある。

『ep's 1988-1991』(2012)

Creation Records在籍時にリリースしたEP『You Made Me Realise 』、『Feed Me With Your Kiss 』、『Glider』、『Tremolo』と、未発表音源やレアトラックを組み合わせた編集盤。全曲マスタリングはKevinが手掛けている。激レア音源(*12)だったという「Sugar」の高速鼓動音のようなバタバタとしたドラムや、神秘的で不協和音ギリギリの高音ギターノイズが気軽に聴ける時代になってよかった。「Good For You」の爆撃ノイズが炸裂する演奏も聴くと、自分自身も興奮して爆発しそうになる。マイブラの軌跡を辿りながら、隠れた名曲に出会える一枚。


*7『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p100
*8『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p70
*9『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p102
*10『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p102
*11『The World of My Bloody Valentine ―マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界―』p87
*12 シューゲイザー・ディスク・ガイド p13

おわりに

書こうと決意してから公開がとても遅くなってしまい、大変長らくお待たせいたしました…!!

気長に待っていてくれた皆様有難う!応援もとても嬉しかったです。パワー!

一つのバンドをここまで集中的に情報集め、フィジカルを集め、音源を聴きまくり、考え続けたことはなかったので非常に勉強になりました。

もっともっと色んな文章が書けるようになりたい!頑張ります!

また、この先もこれまで通り週一で名盤レビューを続けていくので、引き続き読んでくださると嬉しいです…!

My Bloody Valentine、最高!!!!!

最後まで読んでくださり有難うございました。

(内山のディスクレビューnoteはサポートをして下さった方に、5.7.5.7.7で内山なりのお礼のメッセージをお送りしています💌…サポートは義務ではないから無理なく!!!!

そして気づけば、noteのフォロワーは2000人を超えていた…😸🎉みんなみんな有難う!!!)

サポートをしてくださった貴方には57577で貴方宛のお礼のメッセージをお送りします!