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すべてのフィルターをとっぱらって


わたしの友達のお話です。

彼女は知り合いもいない状況で単身、フランスに留学に来ました。

学校も始まらず、来たばかりで友達も出来ず退屈していたころ、寮のキッチンである男の子と出会います。

彼は、彼女がフランスに来たばかりだと知ると「じゃあ出かけよう!」と、街中を案内してくれました。

それから何度か、「みんなでご飯食べてるからおいでよ!」「一緒に映画を観よう!」と誘ってくれて、彼女は断る理由もなく、「国際交流だ!」とむしろワクワクしながら向かっていたそうです。

彼のリュックには「僕のヒーローアカデミア」のオールマイトのキーホルダー。

口を開けばアニメの話や日本の文化の話。

彼女は、彼が日本に興味があるから日本人の彼女に親切にしてくれているのだと思っていました。

ある日、彼から夜の散歩に誘われます。

フランスにはデートとして散歩に誘う文化があると、後になって知りました。

彼は散歩から帰って、彼女に好意を伝えてくれました。

そして、「ガールフレンドになってくれないか」と。

彼女は「少し考えさせてくれ」と答えました。

翌日、彼から「答えを聞かせてもらえないか」と連絡が来ました。

彼女はそこでやっと断ります。

どうして、この謎の保留の時間があったのか、

彼女はこのときいらぬ葛藤をしていたそうです。

彼は優しい、特に嫌な思いはしていない。

じゃあなんで迷うのか、

この迷いには、「彼が黒人だから」という理由があるのだろうか、

自分は人種のフィルターを外して、フラットに彼を見ることができているのか、

そんな逡巡があったそうです。

結局は彼女が将来的に日本に帰るつもりだったり、単純に彼のことがタイプじゃなかったりと、現実的に交際は難しということで断りました。

彼は「友達でいよう」と言ってくれます。

それから数日経って、彼からまた「みんなでご飯食べてるよ」という、いつものお誘いを受けました。

彼の「友達でいよう」という言葉に応えたくて、彼女はキッチンに足を運び、以前と同じように彼と話したそうです。

するとまた数日後、彼からメッセージが来ました。

「少し話せないか」と。

普段はもちろんフランス語でメッセージを送ってくれるのに、このときは彼の母国語、ドイツ語で送られてきたので解読に少し時間がかかりました。

承諾の意を伝えると、彼から「部屋の前にいる」とのメッセージが届きます。

そんなことは初めてで、正直、多少の恐怖心を抱いて扉を開くと、目の前には彼の姿が。

彼は廊下に座り込んで、明らかに酩酊状態でした。

部屋ではなく、共同スペースに移動して向かい合って座りました。

「大丈夫か」と声をかけると

「鎮静剤を飲んで、意識が朦朧としてる」とのこと。

そして、

「友人に相談して、もう一度アタックしてみろと背中を押された。どうして(交際することが)無理なんだ?」

と、すべてドイツ語で、すべてスマホの翻訳機能に頼り切って、字面だけで伝えられました。

彼女は「自分は1年くらいで日本に帰る、フランスに戻ってくるつもりはない」と伝えます。

しばらくして彼は「わかった」と言い、彼女は彼を置いて部屋に戻ったそうです。


彼女はすごく反省しました。

例えば最初にすぐに返答をしなかったこと。

そもそも告白というのが日本特有で、きっと彼らにとって答えを保留にするなんてありえないことだろう。

だからこそ、彼女の「迷い」の中身が、違ったふうに受け取られてしまったのだろうと。

そして中途半端な断り方をしたこと。

傷つけてしまうのが嫌で、「好きじゃないから」と、はっきりと言えなかったこと。

なにより、そうなる前に気づかなかったこと。

彼は彼女にすごく優しかった。なんでもしてくれた。それらをすべて「やっぱりジェントルマンなんだなぁ」という固定観念で片付けていたこと。

彼は彼女にしょっちゅう、「日本人はどうやってデートをするのか」というような質問をしてきたけど、それらをすべて「日本に興味がある人なんだなぁ」という先入観で片付けていたこと。



自分の思考を通さずに、相手を1人の「人」として真っ直ぐに見つめることは、こんなにも難しいんだなぁ。



『これは友達の話なんだけどね。』








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