中学校でしっかりいじめられた話
勉強しかせずに小学校高学年を終え、中学校に進学しました。
幸い、好きではありませんでしたが勉強の習慣はついていたので、入試でも入学早々に行われる初めてのテストでも、6月に行われる1回目の定期テストでも、1位を取ることが出来ました。
もちろん親が褒めてくれることはありませんでしたが、担任の先生に
よく頑張ったね!素晴らしい!
と言ってもらえてとても喜んでいました。
友だちに自慢したり点数を見せたりするのは恥ずかしいのでしませんでしたが、先生がみんなの前で名指しで褒めてくれたりするのでクラスのみんなも知っているという状況でした。
先に言っておきます。
ここが私の中学生時代のピークです。
1年生の6月がピークでした。
楽しいはずの中学校生活は、程度の上下はありましたが、
ほぼいじめを受けたという記憶のみで幕を閉じています。
では、どんな理由でいじめが始まったのか?
きっかけは、5月以降本格的に始まったクラブ活動でした。
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私たちの学校は1学年が40人2クラスで構成されており、中高一貫校だったのでこの2クラス編成が高校生まで続きます。学科の名前は「総合特別科」でした。この環境下で、一度構築された関係性はなかなか修正されることはありません。
中学生の私はさすがにそこまで深くは考えていませんでしたが、なんとなく「友だち作り頑張らないと」とは思っていました。
ずっと家にこもって勉強していた割にはスポーツはそこそこ得意な方だったので、部活動はテニス部に入部しました。自分たちの代から女子テニス部が新設されたので先輩は男の先輩しかいませんでしたが、初めての「先輩」という存在にとても胸を弾ませていたことを覚えています。
部活のメンバーは、りな、みなと、あかね、あおい、さき、私の6人でした。りな、あかねとは同じクラスで、移動教室でもお昼ご飯でもいつも一緒に行動していました。
5人とも外見が可愛く、男女問わず友だちが多いタイプの子たちでした。
一方私は外見もこれといって取り柄はなく、父親の影響で男性恐怖症なところがあり、自分から男の子と関わることが出来なかったので男の子の友だちはほとんどいませんでした。
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そんな中、部活の男の先輩が、私の通っている塾と同じ塾に通っていることが分かりました。とても物腰柔らかく、笑顔の素敵な人で、名前をあきと先輩と言いました。
3年生のあきと先輩はとても後輩の面倒見が良く、男子テニス部の1年生の子たちからもとても慕われていました。めちゃくちゃイケメンというわけではありませんでしたが、背がすらっと高く(おそらく175cm以上あると言っていたと思います)、とにかく優しい人だったので女子テニス部からも人気がありました。
特にみなとは、前の彼氏に似ているとかいう理由で「あきと先輩かっこいい」「あきと先輩素敵」とずっと目で追いかけ、積極的に挨拶したりメールをやり取りしたり遊びに誘ったりしているような状態でした。
ただ、みなとは「全然好きとかじゃないよ!なんとなく面白いから連絡してるだけ!」と口では言っており、その他にも複数の男の子とメールのやり取りをしていたり、遊びに行ったりしていたので誰が本命か分かりませんでした。
力関係を示すとすると、上から
・小動物のような外見としぐさで、男女ともに人気があるみなと
・コミュニケーション能力が高く、誰にでも壁を作ることなく話しかけるが、好き嫌いがはっきりしているりな
・りなと同じ小学校で、大人びた外見とは異なりおっちょこちょいで幼い一面があり、思ったことを何でも口に出すあかね
・おしゃれ好きで物知り、しゃべり上手でノリも良くいつも明るいあおい
・頭が良く、羽目は外しすぎないが場の空気を読むのが上手く、冷たそうな雰囲気とは裏腹に、話してみると気さくでよく笑うさき
そして私、という感じでした。もっとも私は、小学校の時から、キラキラかわいい女子だろうがおとなしい落ち着いた雰囲気の女子だろうが、どのグループにも属さずにあまり考えず人と関わっていたタイプでしたので、フラフラしていました。
ただ、みなとと同じ小学校だった、クラスの子から
「みなと、いじめっ子だから気を付けて」
と教えてもらっていたので、なんとなく深く関わるのはやめておいた方がいいのかな・・・?程度には思っていました。
りなは『みなとの腰巾着』という印象だったので、その2人には気を付けないと・・・と。
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ある日、部活の帰り、あきと先輩と校門で一緒になりました。
「今から塾?」
「そうです」
「そっか、一緒に行こう」
細かい内容は覚えていませんが、こんな感じで一緒に塾に行くことになったと思います。
好きな食べ物の話とか、飼っている犬の話とか、今やっている勉強の話とかをして塾まで歩いていました。
もちろん、クラスの子の「みなとはいじめっ子だよ」という助言を忘れていたわけではありません。いじめっ子が少しでも気になっている人に近付いたらどうなるかぐらいは分かっているつもりだったのですが、いざ男の先輩を目の前にすると
「断ったらこの先輩怒り出すんじゃないだろうか?」
「殴られるんじゃないだろうか?」
という男性への不信感と、圧倒的杞憂な恐怖心から、断ることが出来ませんでした。先輩が悪い人ではないことは知っていましたが、かと言って心を開けるほど先輩のことを知らず、男の人は父親を彷彿させるので苦手で、とにかく怖かったのです。
しかし、みなとはあきと先輩を好きではないと言っているものの、この状況が何らかの形でみなとに知られたらとても厄介だし、第一、友だちが好きかもしれないと言っている男の人と一緒に帰ったりするのは良くないなと思い、
「次もし誘ってもらっても断ろう」
と思っていました。
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あきと先輩と塾に行った次の日、りなから呼び出されました。
「りな見たんだけど、昨日あきと先輩と一緒に帰った?」
あきと先輩への恋心が全くもって皆無なことと、みなとに対して何も後ろめたさがなかったわけではなかったことから、一瞬でヤバい、と思いました。大量に読んできた小説の、いじめの展開ってこういうところから始まっていたはず。
ここでの返事をミスったら終わる、と。
「帰ったよ、先輩も塾だったらしくて声かけてもらった」
するとりなは意外そうな顔で言いました。
「え、先輩が誘ったの?」
「うーん・・・塾行くなら一緒に行こうって」
「そうなんだ・・・へえー・・・」
それだけ言って、りなは帰っていきました。
祈るような思いでした。正直もう祈ることしかできませんでした。
夜寝ることも出来ず、どんな形でみなとに伝わっているんだろう、と不安が押し寄せてきて、布団に横になっていることすら苦しくて、床に座ったまま朝を迎えました。
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朝学校に行くと、みんながこちらをちらちらと見ていました。
なんだろうと思いながら席につくと、隣の子がこう言ってきました。
「この前のテスト、お前カンニングしたってマジ?」
こいつは何を言っている?
今まで話してきたはずの日本語が、全く理解できませんでした。
カンニング?勉強しか能のない私が勉強で不正?本気で取り組んで結果を残さないと価値がない世界で生きてきた私がよりにもよってカンニング?もししたとしてバレたら親に殺される可能性すらあるのに、そんな危険を冒すことになんの意味がある?
「え?なにそれ、するわけないじゃん」
「テニス部のやつらが言ってたぞ」
ああ、そうきたか、という感じでした。
りなはみなとにしっかり報告したのか。
あきと先輩に手を出されたとかの理由でみなとが怒って、ガセネタを流したのか。
それを女子テニス部全員で広めようとしているのか。
そしてそれを、このクラスの空気感を見る限り、みんなは信じたのか。
恐ろしいなと思いました。
信頼関係や友だち関係が全く構築出来ていない状況で、こんなデマが流れるとそりゃまあ信じるだろうな。
「先生いつも褒めてたけど、あれってカンニングだったんだね」
「めっちゃずる賢ーい」
そんな声が聞こえてきて、絶望しました。自分の普段の行いに問題があったんだろうなと本気で後悔しました。仲良くしていたと思っていたクラスの子たちとは上辺の関係にか築けていなかったんだと、もはや悲嘆しました。
先生に呼び出しされ、もう一度テストを受けさせられました。
幸い良い点数を取ることが出来たのでカンニングの疑いは晴れましたが、それからテストの時は先生は私の周辺を重点的に見るようになりました。
両親にも連絡が行き、怒号と拳骨が飛び交い、1カ月のご飯抜きが言い渡されました。(小学校高学年から自分の分のご飯は自分で作っていたので実質この宣言は無意味でした)
クラスの友だちの中で私の存在が、
それと同時に、私の中で、クラスの友だちの全員が消えました。
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部活に行くと、案の定、空気のように扱われていました。
挨拶してももちろん無視。練習中には「今日5人しかいないから誰か1人2回出ようか!」とダブルスで組むことを拒否される。大会や練習試合も私だけ集合時間や会場の連絡が来ない。
ただ、中学受験をして入学したので、頭のいい子や世渡り上手な子が多く、先生がいる時にはラリーの練習でも紅白戦でも仲間に入れてくれるのですが、その空間に一緒にいて部活動をしているだけで、話の輪に入れてもらえることは一度もありませんでした。
学校を休みたいと思ったことも何度もありましたが、結局家にいても空気みたいなもので苦痛だったので泣いたら負けだ、休んだら負けだと必死に言い聞かせ、飲み明かして早朝駅前に転がっているサラリーマンのように、駅やコンビニのトイレで何度も何度も吐きながら学校に行っていました。
授業中では「〇人組作ってー」「隣の人と話し合ってー」「グループで考えてみようか」という言葉に怯え、先生から指名されて答えをいう時の周りのため息やクスクス笑いに吐き気を堪え、みんながワイワイお昼ご飯を食べている時に無心でご飯を食べずっと本を読んでいました。
部活では、みんながコートで楽しそうにラリーや試合をしているのを横目に、1人で延々と壁打ちし、1人で黙々と外周をし、1人でとにかく筋トレに励み、1人で日が暮れるまでサーブ練習をし、1人で出来ることをずっとやっていました。
たまにしか部活に来ない先生でも、あまりの女子陣の無視具合に気付いていたでしょうが、助けてくれることもなく、
他のクラスの子たちも、部活の男子も面白がって見ていました。
初めのうちは話しかけてくれていたあきと先輩も、あきと先輩に彼女が出来てからは、周りと同じように全くの空気のように扱われるようになりました。
出来たあきと先輩の彼女は、りなでした。
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あきと先輩を好きだったりなは、私をダシにして、みなとに
「あきと先輩はあんな女に引っかかる程度の男だからやめといたほうがいいよ」
とか何とか言ったのでしょう。正直、その事実を知った時は純粋にすごいなと思いました。
この空気状態がほぼ3年間続くのですが、
3年間のうちに、クラスでも部活でも本当に色々なことがありました。
3人組でハブられて居場所が無くなり急に話しかけてきた子や、テスト前にだけ宿題ノートを借りに来る子、お金あげるからヤらせろと言ってきた子。
どうせこの人もすぐいなくなるんだろうな、とかさすがにだいぶ舐められてるな、と思いながらその場その場を対処していましたが、ずっと思っていたことがありました。
いじめは習慣になるということです。
「いじめてやろう」「無視しよう」とかいう意識があるのは初めの方だけで、だんだんそれが普通のことになってくるのです。
私は、自分に友だちを作るとかいうことよりも自分が無視されているというその環境に慣れる方に労力を注ぎました。いつか無くなる、と思って生活するよりも「この人たちの熱が冷めて、悪意が削れてきて習慣になってくる時が必ず来るからその時を待とう」と必死に耐えていました。
逃げるよりも、反発するよりも、慣れてしまった方が私は楽でした。
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過去にいじめられていた人、今いじめられている人、今後いじめられてしまうかもしれない人。
過去にいじめていた人、今いじめている人、今後いじめに加担するかもしれない人。
そしてどの場面でも傍観していた人。
全員に言いたいのは、
いじめはクソだ
ということです。
しかし、無視し続けていたあの子たちの表情や言葉を思い出し、この文章を書き終わり、
いじめは無くならないんだろうな、
とも、思います。
どうか、負けないで。
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