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どうしてあげたらいい?

3年が始まって1ヶ月ほど経った頃、私はぱたりと教室に入れなくなってしまった

最寄り駅に着くとトイレに逃げ込んで人が去るのを息を殺して待つ

酷い時は30分以上トイレの中にいた

行かなきゃ
高3のこの時期は大切だ
出欠日数や遅刻の回数は大きく影響する

そうわかりながら扉が開けられずうずくまる


1週間の半分ほど遅刻した
間に合えた日もチャイムが鳴る1分前に教室に入っていた
普段なら始業の20分前には教室にいる私が


そんな日が続いてこのままではまずいと思った

でも「助けて」の言い方がわからなかった


ある日の放課後、もう完全下校も近い時間に私は意を決して職員室に入った

もうほとんどの先生が退勤されていて、残ってる先生の中には輪を作って雑談している様子も見られた
K先生は配布物の準備をしていた

私はコピー機に向かう先生の後ろをてとてととついてまわった

「なに?」不思議そうな笑いとともにそう言われる

私は黙ってしまった。本当に助けてが言えないことを痛感し心が重くなる

「お前最近遅刻増えたけどどないしてん?」
先生の方からそう言われて情けなくなった

「来れへん」
私は一言、そう返した

「来れへんって?なんで?」

「わからへん」

「保健室とかは?行ってないの?」

「うん。欠課付けたくないし親に連絡されたくない」

「朝の遅刻は付いてんで?」

「最寄りには間に合う時間に着いてるもん。でもそっから来れへん。どうしたらいい?」

「どうしたらいい?って笑」「荷物だけでも教室に置いといてくれたら遅刻も付けんけど…それができたら困ってないか笑」

「うん」
八方塞がり


「なんかあったん?」

「わからへん」「どうしよう」
ただ焦りだけが募る

「どうしよう言われても」
「お前にわからんお前のこと先生にはなかなかわからへんで」
「心当たりないの?お前の中に」

「ないと思う、わからんけど」

「それほんまにわからへんの?それとも見て見ぬふりしてんの?」

「それがわかったらわかってるやん…」

先生は「確かに」と何度か繰り返しながらひとしきり笑った
反対に困りきって呻く私

「どうしたらいいんでしょうねぇ」「お前はどうしてほしいの?」

どうしてほしい?
自分の問題なのになんとかしようとしてくださることが嬉しかった
でも「わからへん」としか返せなかった

「んー。どうしてあげたらいいんでしょうかねぇ、先生は」

「水和はどうしてほしいの?」

「わからへん…」

何もわからなかったけれど、何度も繰り返される「どうしてほしい?」とか「どうしてあげたらいい?」とか、これは全部私の問題なのに一緒になってくれるのが嬉しくて少し大丈夫になった気がした


「こわい」
ぽつりと呟いた

「学校に来ることが?」

こくりと頷いた

「人の目とかも?」

「ちょっと」

「それは大人?同級生とか友達?」

「友達」

「ちょっとこっちおいで」
面談室に呼ばれた

面談室の中で「やっぱなんかあったんか?」と聞かれる

「ないと思う。みんないい子。でもなんか怖い」

「先生もみんないい子やと思うよ、お前も含めて」
「最近、学校がんばってたん?」

「学校なんて常に頑張らな来られへん」

「2年の時とどっちがしんどい?変わらん?」

「うん」

「教室入ってしまえば平気なん?授業中とかそんなしんどそうには見えへんけど」「それとも頭の片隅にはある?」

「うん」

「家ではどうしてんの?勉強してんの?」

「うん」

「図書館とか来て気分転換してみ」

「うん」
ロボットのように素直に頷いていた

「あんなわからんわからんって言うてたけど学校が怖い、人目が気になる、その相手は同級生。ほら、3つもわかったやん。今日はそれで十分や」

そして先生は私の背中を叩きながら「大丈夫大丈夫」と言ってくれた


私の勝手な問題をどうしてあげたらいい?と寄り添って答えを少しずつ一緒に見つけてくれる人がいるなら、私はきっと大丈夫になれるよね

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