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野良犬と私

小学校への道のりは地獄だった。
私の家は田舎町の中でも、比較的都会と呼ばれる方に位置していたにも関わらず、縦長の学校区内にギリギリ、インしていた為、毎朝学校まで過酷な上り坂と戦う羽目になった。「インッ」って、旗持ったジャッジを恨みたいくらい。まぁ、誰が自宅をインしたのか知らないけども。

片道35分、体感2時間。小学生の私は頑張った。身長が縮む程重いランドセルを背負って山越え、谷越え小学校へ向かう姿はまるで孫悟空。
小三頃になれば小さめのカメハメ波くらい出てもおかしくないくらいのトレーニングだわ、今思えば。

そんな田舎道、たまに野良猫や野良犬が出没した。学校へ行く道は登校班があった為、誰かしらに守って貰えるという安心感があったけど、帰り道は違った。ほら、だって私の家、麓にあるから、友達はだいたい早めにお別れなの。

静まり返った道には人っ子一人いない。
一人トボトボと歩いてく。

空き缶蹴ったり、縁石の上を歩いたり。枯葉を拾ったり、花を摘んだり、独りしりとりはじめたり。

その日の雲は今にも感情が溢れるのを我慢しているようだった。薄暗い分厚い雲の下、ほどけた靴紐を縛り直そうとしゃがんだ時だった。アスファルトを細かな点が黒くしていく。

「あっ、雨降ってきちゃった」

下手くそな蝶結びをクッと固く締め、さぁ、走ろう!と一歩踏み出した私は、固まった。

茶色い野良犬が道の真ん中で私を睨んでいる。
距離はあれども確実にいる。

で、でたぁ.....

つま先が痛くなる程重心を集め、兎に角ジッとしていた。

雨はだんだん横殴りになっていく。
近くには誰もいない。

走ればついてくるし、もしかしたら噛まれるかもしれないし。引き返せないし。違うルートで帰れば、誰かが見ていて明日先生に怒られるかもしれないし。カメハメ派も出ないし。

マサイ族が狩をするくらいの集中力で、目を凝らした。犬も頑固でしばらく退かない様子。

あーもう、寒いし...
早く家につきたいし…
どうしよう...

仕方なくその辺の石ころを2、3個手に握りしめ、ゆっくりゆっくり足を進めて行く私。

決して犬から目を離す事なく一歩一歩距離を縮めていく。相当な時間雨に打たれていたせいで、服も靴もビッショリだ。

うぅっ…怖いぃ…
神様ぁぁぁあ゙!!

その時だった。

ドカーーーーーン!!

車は茶色い犬を跳ね飛ばし、犬は歩道に回転しながら投げ出された。

ひいぃぃっ…

野良犬は車を避けなかった。
車もまた野良犬を避けなかった。

車は何事もなかったかのように小さくなっていった。歩道に舞った犬は微動だにしない。

死んだのか、死んだのか、おい、犬よ。

不謹慎かもしれないが、犬嫌いの私にとって、思いがけない幸運だった。
こんな事書くと、今のご時世炎上しそうだが
心底野良犬が怖かった小学生の私は神様って居るもんだななんて、顔にいっぱい雫をつけながらお天道様に微笑んだ。

でも私にはまだ、その横を通らなければならないという試練が残されている。

雨の中動かなくなった犬。
恐る恐る近づく私。
石ころを握る手に力が入る。

もう、大分前から分かっていた。
犬が舞った時から気がついていた。
近づくいていく程確信に変わっていった。

やっぱりな。と。

そこには雨に濡れていい感じに萎びたダンボールが死んでいた。

多分何度も車に轢かれたんだろーね。
破けた角が垂れ下がり、丸みを帯びてより一層犬感を出していた。汚れた側面も丁度顔に見える。

な〜〜〜んだ〜〜〜〜

怖さから解放された私は、筋斗雲に乗るかのごとくそのダンボールに飛び乗り、ペシャンコにした。野良犬に勝ったと言わんばかりに鼻歌をかますほど残りの帰り道をエンジョイした。

悟空のお帰りですよ、
ドヤ顔で家に帰るとフリーザと化した母に
「何やってたの!」
と罵倒され、すかさず両手でカメハメ波〜と構えたが、当たり前だけど、そんなもの出る訳がないし、野良犬も倒せない様な奴がフリーザを倒せるわけがないと自分のポテンシャルに失望した瞬間であった。

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