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シカたちのあの視線

 五島列島の北端に近い小値賀島おぢかじまの属島に野崎島という島がある。ちょっと必要があって、その野崎島のことを調べたり書いたりしていたら、懐かしくなってきた。野崎島へはこれまでに3度訪ねたことがあって、いちばん最近なのが昨年2023年の4月である。このときは、宿泊を野崎島にしてなかなかエライめにあった。
 野崎島は、実質的には無人島である。

 野崎島に宿泊せず、本島の小値賀島に宿をとって野崎島に行くには、最低2泊しないといけない。小値賀・野崎間の船をチャーターできる金銭的余裕があるのなら1泊でも行けるけれど、そういう人ができる人、あるいはそうする人は少ないとおもう。
 最初の訪問は2019年9月の終りごろで、ひとりでの訪問だった。野崎島は無人島であるから、島での移動はすべて徒歩となる。このときの滞在時間は7、8時間ほどで、展望台だとか周辺の荒れ地を歩き回ってぶらぶら過ごした。港からそう遠くない、野首という集落にある、いまはもう使われていない教会の建物なんかも観た。

 野崎島には野生のニホンジカが生息していて、歩いているとあちこちで遭遇する。人に慣れていないから、ちょっとした物音とかでこちらをじっと見る。写真に撮ったのをあとから見ると、その様子が可笑しい。

 この3枚は、その初回訪問のときに撮った写真。

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 2度目の訪問は2020年の12月の終り、県外の友人ふたりといっしょだった。ふたりは博多からのフェリーで小値賀まできて、私とは小値賀で合流したんだけれど、この日海が時化ていて、大型のフェリーとはとてもおもえないほど揺れて眠れないほどだったらしい(夜に出港して小値賀に早朝到着の便)。
 長崎港から小値賀に行く予定にしていた私は、高速船が欠航になって佐世保港からのフェリーに変更して、無事に渡航と合流が果たせた。

 翌朝の小値賀・野崎間の定期船も出るかどうか危うかったけれど、ぎりぎりのところで出航可となって野崎島に渡島ができた。このときは、島の北端に位置する沖ノ神島神社おきのこうじまじんじゃへのトレッキングを設定していた。

 8世紀の創建と伝わるこの神社に祀られている鴨分一速王命かもわけいちはやおうのみことは、ヤマトタケルの皇子・稚武王わかたけのみこともいわれる。拝殿のうしろには王位石おえいしという巨石(磐座)がそびえていて、圧巻だった。王位石の写真はうまく撮れなかった。

沖ノ神島神社の蛇っぽい石

 この4枚は2020年のトレッキング中に撮ったもの。

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 3度目となった2023年4月後半の野崎島訪問は、師匠といっしょだった。シゴトの緊張感、野崎島への初めての宿泊などでいっそう思い出ぶかい。
 一晩過ごすから野崎島の夕景や夜景、朝の景色を見られたのは貴重な体験だった(もう宿泊はゴメンだが)し、師匠の写真はすばらしかった。

 宿泊はゴメンだけども、こうしてこちらをじっとみつめるシカたちの写真や、師匠の写真を眺めつつ過去のことを思いだしていると、また行きたくなってくるからふしぎである。
 島の南端の舟森ふなもり集落には行ったことがないし、また行けるといいな、と心のどこかでおもっている。

 昨年驚いたのは、島の自然環境が以前と違っていたところである。原生林の多い島の植物は枯れているのが多くなっていて、遭遇するシカの数も少なかった。

 いつか再訪することがあっても、さらにまた違った姿になっているとおもう。

 トップ画像は2023年の訪問時のもので、これは野首という集落にある以前教会として使われていた建物である。煉瓦造りの瓦屋根のこの建物は、老朽化のため昨年秋から修復工事がおこなわれている。いまは足場がかかっているし、おそらく近くに寄ることもできないのじゃないだろうか。
 2023年4月の時点でも補強のための対策がされていたけれど、行って写真を撮ったりできたのはよかった。

 沖ノ神島神社のことを思いだしたことで、師匠が教えてくれた安彦良和さんのマンガ『ヤマトタケル』を再読したくなっている。

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