喫茶店アルバム-店主のメガネ-
コーヒー豆がきれそうだ。
父が焙煎したコーヒー豆を受け取るために、ある場所で待合せることにした。
そういえばこの店に来るのは久しぶりだな、などとおもいつつ店内に入ると、父は先に着いてカウンターに席をとっていた。店主の平井さんに挨拶をして私も座る。
父が飲んでいたダッチコーヒーの冷たいのがおいしそうで、同じものを注文した。ステンレスの脚付きカップが涼しげでいいとおもった。
先輩(父のこと)の娘というのもあってか、平井さんはやさしい。どうも前から感じていたことであるのだけれど、私と話すときの平井さんは、小さな子どもに話しかけるときみたいな甘やかさがある。いや、それが平井さんなのかもしれない。
久しぶりに会った平井さんはメガネが以前と違っていた。
カウンターの後ろ(私の背中)のほうに棚が据えつけられていて、その上に小さなアンプがちょこんと乗っている。それを気にして見つめていたら、真空管アンプだよと教えてくれた。
お客さんが7割くらい入って忙しそうにしていたのに、BGMをそのアンプのほうに切り替えて音を聴かせてくれた。
JVCのものだという洒落たスピーカーから流れてきたジャズギターの音は、あたたかな音がした。暖炉のぬくもりのようだとおもった。
カウンターの中も興味深い。
目線の先にコーヒーグラインダーが見えた。2台並んで置かれていて、ひとつにはLA CIMBALIのロゴが見える。訊いてみるとやはりエスプレッソ用のグラインダーだった。
古いものらしく、調子が悪くなるたびに福岡に修理に出さないといけないんだよ、とやれやれ顔で言う平井さんはそんなに困っているふうでもなかった。手のかかるモノに愛情を持っているあの顔だ。
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どうかすると休憩をとらずにだらだらと仕事をしてしまうことも多い。この日もそんな過ごしかたをするところだった。
だけど、コーヒー豆は欲しいし、ちょっと外にも出たいとおもってこの店を選んだ。これはとてもいい選択だった。
ほんの小1時間ほどおいしいコーヒーを飲みながら他愛もない会話をしていただけなのに、次第に気もちがなごんでいくのを感じたのだ。
いい店だとおもった。
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今日の「テナント」:ここ、誰か借りる人いるのかなあ。
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