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喫茶店あれこれ

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喫茶店やコーヒーまわりのあれこれを集めました。
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喫茶店百景(五島編)-ふねを待つあいだ-

 3週間ほどまえに訪ねた五島市の久賀島にまた行った。日帰りで、仕事の用事なのでばたばたと時間が過ぎ、久賀島から福江島に戻ってから帰りの高速船までのちょっとした時間を、喫茶店で過ごした。  港から歩いて10分もかからない場所にその喫茶店はあった。五島市内のひとに教えてもらった店で、知っていたら前回もここで休んだかもしれない。 ▽高速船待ちの時間つぶしに迷ったようす  落ち着いた雰囲気の、照明が暗い店だったのでほっとしつつ、席をとって座り、メニューを開く。コーヒーを飲みたか

週末の夢のかけら

 週末にAmazonPrimeVideoをごそごそしていて、ふと目にとまった映画を観た。  1957年から1965年にかけて録音された、ジャズ・ミューシャンたちのジャムセッションを収めたテープ(合わせるととても長い)と膨大な写真(とても多い)をつかい、ドキュメンタリー映画に仕立て上げたものだった。  録音と撮影をしたのはユージン・スミスという写真家で、映画のタイトルは『ジャズ・ロフト』。  場所はマンハッタンの6番街に建つ、がたがたのロフトだった。 *  もと報道写真家を

喫茶店アルバム-店主のメガネ-

 コーヒー豆がきれそうだ。  父が焙煎したコーヒー豆を受け取るために、ある場所で待合せることにした。  そういえばこの店に来るのは久しぶりだな、などとおもいつつ店内に入ると、父は先に着いてカウンターに席をとっていた。店主の平井さんに挨拶をして私も座る。  父が飲んでいたダッチコーヒーの冷たいのがおいしそうで、同じものを注文した。ステンレスの脚付きカップが涼しげでいいとおもった。  先輩(父のこと)の娘というのもあってか、平井さんはやさしい。どうも前から感じていたことであ

喫茶店百景-2階-

 先週末の午後に喫茶店でコーヒーを飲んだ。その店はむかし両親の店があった場所にも近い、商店街の一角にある。階下がたばこ屋、2階が喫茶店になっている。  窓際に席をとって座り、コーヒーを頼んだ。ふたり連れだったから会話を交わすなどする。会話が途切れたり、まあそれをしている間にもときたま窓の外に目がいく。人が行き交うのが目の端で動くからだ。  この店にくるのは何度めかで、だから初めてではなかったのだけれど、そうかここは2階なんだな、とおもった。あらためてそうおもったのは、ここに来

喫茶店百景-懐かしい面々-

 父が店を閉めてから会わなくなった人は多い。それでも日常うろつく生活圏内が重なる場合であると、道端でばったりなんていうこともごくたまにある。  今日はそんないくつかのうちから、わりと最近のものでも書いてみる。 * ■栗山先生(仮名)の場合/シチュエーション 道端で遭遇 「あら、お嬢ちゃん久しぶりやねえ。お父さん元気? そうね。近くでもぜんぜん会わんもんねえ。おい(長崎弁。俺)この間脚ば折ってさ、へへ、入院しとったとよ。やっと退院したとばい。(笑っている) ねえねえ、コンち

喫茶店アルバム-Go upstairs-

 以前どこかに書いたとおもうんだけれど、うちの父はある縁によって、現在もコーヒー豆の焙煎を続けています。自身の店は2019年の後半に、いろいろの事情で閉めました。 *  仕事を終えて、そろそろ帰宅しようとしていたときに父からメッセージがきた。いま豆の焙煎中で、もうじき終るからコーヒーを飲みにおいでという誘いだった。豆の焙煎は、店を閉めた数か月後から同じオーナーのもとで続けさせてもらってたんだけれど、いま焙煎機を置いて焼いている店舗は、半年ほど前にオープンしたばかりのところ

喫茶店百景-店と客との距離感-

 数回行ったことのあるK市の喫茶店があって、そこで最近あったらしいある物事のことを、ちょちょっと聞いた。それで思い出したことを今日は書く。 *  同級生が夫婦で小さなビストロをやっている。開店から7、8年というあたりだとおもう。開店したてのころ、それからその後も何度か食事に行った。家族でも行ったし、近くの友人や、県外からの友人なんかも連れて行ったことがあり、連れて行ったほとんど全員が店の味を気に入ったし、常連になった友人もいた。父や父の友人も気に入り、その店をたびたび気に

喫茶店アルバム-江戸町の喫茶店-

 ふとしたことから父に誘われ、江戸町にある喫茶店で待合せてコーヒーを飲むことになった。父の住まいと、私の事務所からちょうど半分くらいの場所になる。  店名にもなっているからそのまま書くけれど、平井さんの店は以前は万才町というところにあった。父の店のあった場所からも近く、ときどき訪ねていたのだけれど、移転してからは初めてだった。  しばらく足を運んでいなかった理由としては、平井さんのところと父の店とどちらの常連でもあったタムラさん(仮名)のことを思い出してしまうからかもしれ

喫茶店百景-日替りとかおすすめとか-

 私が勤務する事務所の階下にはいくつかの飲食店テナントがあり、そのうちのひとつにコーヒーショップがある。あまり好みのタイプの店ではないこともあって、ほとんど利用したことはないのだけれど、通りがかるときに看板が目に入った。「本日の日替りコーヒー」何々、と書かれていた。  この店は大型の焙煎機器を持っている。  自家焙煎のコーヒーを出す店の多くは、そのスケジュールに沿って、あるいは鮮度によって扱う豆の提供を調整しているはずで、それは在庫を回転させまんべんなく売るといった意味でい

喫茶店百景-人生を豊かにしてくれる、カラフルなふつうの人々-

 それにしても、喫茶店というところは実に色んな人に出会える、わりと特殊な場所だった。店で出会ってきた、ふつうといえばふつう、ちょっと変わっていると言えば変わっている、そんな人たちについて書いていきたい。 *  料理人のヒロカワさん(仮名)は、もと銀行員だったらしい。最初の店の近所にあった地元の銀行で、支店長までやっていたという。料理好きが高じて料理学校に通い、最後の店に来るようになった頃には銀行を退職し居酒屋を開く準備をしているところだった。  食べ物に関する興味が強く、

喫茶店百景-がんこだった-

 このあいだ、思いもよらないようなところで、むかしの父を知るひと(サトナカさん、仮名)と出合うことがあった。むかしの父というのは自分の店をもつより以前のことで、ある時代にこの町で何店舗かの喫茶店を展開していた、『ジェイ(特に名を秘す)』という店で働いていたころだ。  サトナカさんがそのころの様子を話して聞かせてくれた。それは私の知らない父の姿だった。 *  以前にもどこかに書いたとおもうけれど、父は大学時代にK市の喫茶店でアルバイトをしたのがきっかけで、次第に喫茶店経営に

喫茶店アルバム-K町のあの店へ-

 何にちか前の話。  朝から寝具を片付けるなどしていて、収納のための買い物をしたいとおもっていた。午後から出かける気になって、身支度をして外に出る。  まず1件用事を済ませて、どこに買い物に行こうか考えを巡らせていたときにふと、行きたい場所が浮かんだ。買い物のことじゃなく、ある喫茶店だった。  以前もここに書いたとおもうけど、父母の後輩が店主の、夫婦でやっている喫茶店で、近所というにはちょっと遠い場所にある。向かう国道が混雑しやすいこともあってしばらく行ってなかった。今日は

喫茶店百景-万華鏡-

 タムラさん(仮名)はある日を境に店にやってくるようになった、常連のひとりだ。父の友人の後輩にあたり、店の近所にある花屋の息子だった。家業はお兄さんが引き継いでいたから、タムラさんはもうずっと関東の方で家庭を持ってやっていたのを、結局家の都合で帰ってくることになったと聞いた。季節の植物を使って生けるのを得意としていて、毎週月曜日に取引先である繁華街の飲み屋に出入りしていた。  50代を少し入ったところのタムラさんは、酒を飲むのが好きで、ちょっと都会的な雰囲気をもち、わりと陽

喫茶店百景-商店街(かつての市場)-

 両親がやっていた喫茶店は、Sという町の市場のなかにあった。いまは市場から商店街へと変化している。私が小さいときはアーケードも架かっていない青空だったし、周りの建物も店もずいぶんと変わってしまったけれど、変わっていない部分もけっこうある。かつての店の向かいにある野菜屋や果物店は当時とおんなじで、私はいまでもそれぞれの店で日常的に買い物をしている。  店から歩いてすぐの保育園に入ったのは生後3か月ごろと聞いた。幼なじみのMKのおかあさんが保育士をしていて、近所の商売の子どもた