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塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えてシリーズ

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以前にnoteで公開したお仕事小説「ワーク、アフェア、ジョブ」をリメイクしたものです。読み返して自分に刺さったので、もっと納得いく形に推敲を追加で重ねた物です。ストーリーの流れは…
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#麻酔

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:エピローグ「展望のきく地を遥かに去って」

【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:エピローグ「展望のきく地を遥かに去って」

      “2021年 嘱望”

 塚山りりかがズレてきたマスクの位置を直すと、手に持ったケーキがかさりと音を立てた。地元で定番のチェーン店が始めていたテイクアウトメニューに、季節のケーキが加わったので、それを楽しみに帰る所だ。

 心なしか足取りは軽いが、徹夜明けである事には変わりない。
 緊急手術をフルPPEで対応できるようになってから、それらを着用した手術が入るようになった。ただでさえガウ

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第5章「共存と確執は静かに同居する」

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       “2020年 慣性”

 伊治原京子はすっかりひと気のなくなった記録室で、自分の机に座っていつものように麻酔学会誌を読んでいた。隣では熊田が電子カルテを操作している。

伊治原は部下と看護師からのパワハラを訴えて以来、ついには瑠偉を完全に手術室へ出入り禁止にしていた。にも関わらず、スタッフたちには無邪気に話しかけてくるのだった。人手がなく忙しいから協力していただきたい、と。

 
 

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第4章その3「言葉は使い方次第」

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       ”2020年 鎮火“

 下根が来なくなってしばらくして、斉藤がまた病んで出勤できなくなった。そして、伊治原麻酔科部長から出勤するか退職するよう迫られた、と手術室看護師たちは瑠偉から伝え聞いた。

 n95マスクとゴーグルを装着しての気管挿管介助に慣れた頃、りりかが記録室で電子カルテを見ていると、瑠偉が伊治原に対して麻酔手技の根拠と手順について意見しているのがドアごしにうっすら聞こえ

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【小説】塚山りりか氏の矜持、世界激変を添えて:第2章その1「事の始めに事がある」

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     “2020年/2019年度 仕事始め”

 年初、仕事始めは怒濤の如く開幕した。緊急手術に次ぐ緊急手術で看護師たちは走り回り、後回しになった予定手術が積み重なっていき、休憩時間はどんどん削られていった。しかし、何事も終わりがあるように、その波を乗り切ればまた凪が戻ってくるのだ。

「なんなの、この忙しい時とそうじゃない時の差は」

 全部で6部屋ある手術室のうちの一室で電子カルテを操作し

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