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「雨は遣る」他【2021年4月の詩②(5編)】

障害

 君の姿を見ていると、シンパシーを感じてしまう。そのもどかしさや難しさを私も感じることがある。君は嫌に素直で、ストレートに物を言う。君の生き様は羨ましい。私は君のようになりたい。好きなものに夢中になって、嫌いなものは拒絶する。そんな単純な当たり前を鵜呑みにしたい。君は私に教えてくれる。そんな風に生きてしまっていいのだと教えてくれる。他人がどう思うかなど気にせず、ありのままの自分で生きている。その瞬間に感じたこと。その瞬間に思ったこと。君の世界。ただきっと、私はそのような生き方はできない。許されないように思う。そして、他人の顔色を窺ってしまう癖がついていることを知る。時折、君の振る舞いを真似してみる。心は晴れて、澄んだ空気の味がする。私の世界。そこには、理解されない苦しみも正しさに合わせた偽りもない。もしかして私は診断を受けていないだけ。でも、私が感じるこの生きづらさは誰しもが抱える悩みと聞く。私はただ言い訳を探しているだけ。本当にごめんなさい。

雨は遣る

 街灯を頼りに行き着いた先は、静まり返った神の住み処。

 木々は揺れて風の音を鳴らし、どこかで家が軋む。排水溝を水が流れる。夜半の声と呼ぶ。
 
 傍の椅子に腰を掛けようか迷っていると、止んだばかりの雨がまた降り始めて、刻み足でそこを抜けたら、たちまち雨は上がった。

 追い出されたのか。背中を押されたのか。
 振り返り問えども、染み入らず。
 
 ただ確かなことは、意味があるのだろうと、思いを巡らせた事実。

 不思議を胸に抱えて、なんだか少しどうでもよくなって、また一つ、街灯を追いかけた。

みんなバカ

 そうじゃねえんだよな。
 あいつらわかってねえんだよ。
 と言って、
 俺と笑い合う。

バタフライ・モラトリアム

 同じ時の流れを感じて、明らかに遅れた小さな世界。

 微睡めばそのまま落ちて、二人の香りは溶け合って、閉鎖的に孤立している。

 ただ触れて、囁くのは言い慣れた言葉。

 フィルムカメラを手に取って、揺蕩う時を記憶とおさめれば、目が合って、バタフライキスをして笑って、沈むように浮いて漂う、有り触れた幸せ。

 青く儚い永遠を信じる、二人だけの世界。

幾度目かの初めまして

 慣れてしまったらきっと
 この幸せに
 気が付かなくなってしまって

 慣れてしまったらきっと
 この痛みを
 なんでもないことのように

 慣れてしまったらきっと
 この興奮も
 退屈に感じてしまって

 慣れてしまった僕だけど
 そんな憂いを
 味わってみたりする

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